あずかりやさん まぼろしのチャーハン 大山淳子 著 ポプラ社
あずかりやさんの第4作目。偶然手にして3作目は読んでなかったのに飛ばして読んでみました。東京の下町の商店街の一角で店を営む若い店主桐島透は1日100円で物だけでなくなんでも預かるという仕事をしています。店主は目は見えませんが、誠実で、誰からも信頼され、賢明な青年です。本作は「ラブレター」、「ツキノワグマ」、「まぼろしのチャーハン」、「高倉健の夢」、「文人木」の5編からなっています。黒い電話機、ルイヴィトンの鞄、文人木の皐月の盆栽がそれぞれの目線であずかりやさんに依頼したそれぞれの人々をシビアに観察しながら話が進んで行くのは前作と同じ手法で、その物の立場に立ってみないとわからないような思いや表現のしかたを読んでいるとつい笑いが込み上げてくるように描かれていて楽しみながら読むことができました。人に対してだけでなく、いろいろな物に対しても、誠実な行いをいつも自然に振る舞える店主桐島とお客さんたちとの人情味溢れたやり取りがおもしろかったです。また、預けた人たちの人生と預けられたものたちのなれそめがそれぞれ溶け合って人生の機微や生きて来た証を読んでいるといつも温かく優しい気分にさせてくれる「あずかりやさん」は、肩肘張ることなく読めるお気に入りのシリーズで、オススメの小説のひとつです。