16年前の2月から3月にかけて、日仏文化協会という団体が主催した40日間の語学研修旅行に参加して、パリに滞在していました。
まぁ、語学研修旅行と言っても1日2時間しか授業はないので、ほぼ観光のために滞在していたと言っていいかと思いますが…。
そのツアーには、私のような根無し草生活(当時の私はフリーターでした)をしている一般人の他に、春休みを利用した大学生も数名参加していました。
そのうちの一人のことを、昨日急に思い出しました。
ヤマムラくん。
ヤマムラくんは京都大学文学部哲学科の学生でした。
「東大受験に失敗して一浪したけど、結局次の年も東大には受からなくて、仕方なく京大に通ってます。」なんて自虐的に語っていましたが、私にしてみれば「何をおっしゃいますやら!」という感じでございました、ええ。
研修旅行に参加した動機も「フランス語の哲学書を、翻訳版じゃなくて原版で読めるようになりたい」という、かなりハイレベルな動機でありまして…。「フランスってお洒落だよね~。」というミーハーな動機で参加した私は、随分カルチャーショックを受けたものです。
そんなヤマムラくんの趣味は、映画を撮ることでした。
40日間寝泊まりしていた宿舎の中にあるバーで、研修メンバーみんなで夜な夜なお酒を飲んでる時に、ヤマムラくんはよく「将来は映画監督を目指している」なんて話をしていました。かなり真摯に映画と向き合っていたので、未だに彼の撮影行為を「趣味」と表現するのには抵抗があったりするのですが…。
授業後や休日には、ビデオカメラを持って街に出ていたヤマムラくん。
「何撮ってんの?」とたずねたら、「犬」って言ってました。
パリの町中って、犬を見かけることが多いんですよ。野良犬だったり飼い犬だったり、その属性は色々ですが。
ヤマムラくんは、自分の好みの犬を見つけてはカメラを回していたようです。
一方私は、街を散策するときにウォークマンを持ち歩き、地下鉄が滑り込んでくるホームの音や、雑踏の中でストリートミュージシャンが演奏している音などを録音しまくっていたものですから、「ヤマムラくんの映像と私の音のミックスで、なんか作れたら面白いかもねぇ。」なんて話をしていました。酔った勢いで。(笑)
私がいい加減に録音した音源なぞ到底使い物になるはずもなく、ヤマムラくんとのコラボの話は酒の肴で終わったわけですが、帰国後ヤマムラくんは、パリで撮影した映像を編集して、3分ほどのショートムービーを作ったようです。
「今までに撮った映画も含めて上映会をするから、良かったら京都まで見に来てよ」
という電話をもらったのが、16年前の夏だったかなぁ?
都合がつかなくて見に行けず、ヤマムラくんとはそれきりになっていました。
そんなことを、昨日お風呂に入っていて急に思い出しました。
思い出したら、ヤマムラくんが撮ったパリの犬が見たくなり、どうにかヤマムラくんに繋がる手がかりがないだろうかと、ネット捜索(「ググる」ってヤツですね)という手段に打って出ました。
で、結果は…
ヤマムラくんが撮った犬の映像は、「パリいぬめぐり」というタイトルで発表されていたことがわかりました。
その前後にもいくつかの8ミリ映画の監督をしていたり、京都で劇団の主宰として頑張っていた痕跡も見つかりました。
そして、ヤマムラくんが8年前に亡くなったということもわかりました。
昨日から、私の頭の中は「?」でいっぱいです。
なぜ16年も交流のなかった人のことを、今、このタイミングで思い出したんだろう?
せっかく思い出した人が、もう8年も前に亡くなってたって、どういうことなんだろう?
そもそも、なんで私はヤマムラくんのことをこんなに色々覚えているんだろう?
自分の周りで起きる出来事すべてに意味を求めるのはナンセンスだと思うのですが、姉を亡くして間もないせいか、何か意味があるような気がしてならない私です。
明日から、姉の残した荷物の整理のために、しばらく実家に詰めます。
実家の姉の部屋がスッキリしたら、ヤマムラくん回想の謎もスッキリするんだろうか?
今日の月は十日夜。
新月とか、三日月とか、満月とか、そういうメジャーな名前で呼んでもらえない形のときも、月はそこにあるんですよねぇ。
次の満月まで、あと5日。