「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

ミワもカモもイヅモ Long Good-bye 2023・09・29

2023-09-29 05:44:00 | Weblog

 

  今日の「 お気に入り 」は 、作家 司馬遼太郎さんの 「 街道をゆく 」から

  「 海柘榴市 ( つばいち ) 」の一節 。

  備忘の為 、 抜き書き 。

  引用はじめ 。

  「 記録のない古代を詮索するのは 、実証性という レフェリーやリングを

   もたないボクシングのようなもので 、殴り得 、しゃべり得 、書き得と

   いう灰神楽の立つような華やかさがあるものの 、見物席にはなんのこと

   やらわかりにくい 。

    ただ 、論者の人 ( にん ) をみて 、

   『 あの人だから 、言うことに間違いがよりすくないだろう 。ときに奇

   矯の説を唱えるにしても 、真実があるにちがいない 』

    という判定法は見物席に権利としてある 。」

 

   ( ´_ゝ`)

  ミワ 、というのはなんでしょう 」

  

  「 私には 、むろんわからない 。

    言葉の意味はわからないが 、ミワという地理的な物 ( ぶつ ) について

   は 、多少いえる 。

    三輪山は面積ざっと百万坪 、倭青垣山 ( やまとあおがきやま ) という

   その別名でもわかるように 、大和盆地におけるもっとも美しい独立丘陵

   である 。神岳 ( かみやま ) という別称もある 。秀麗で霊気を感ずる独立

   丘陵を古代人は 神南備山 ( かんなびやま ) ととなえて山そのものを神体と

   してまつったが 、神南備山である三輪山は 、日本におけるその古代信仰世

   界の首座を占める 。伊勢神宮の形式など 、はるかにあたらしい

   『 日本最古の神社

    とよくいわれるが 、その程度の言い方でもなおこの三輪信仰の霊威の古格

   さを言いあらわしがたいであろう 。

    なにしろ 、むかしむかしのその昔で 、いつごろからこの丘陵への信仰が

   はじまったのかは 、測るすべもないが 、しかしどういう民族が祭祀してい

   たかについては 、ほぼ想像がつく 。いわゆる出雲族である 。

    すると 、出雲族 とはどういうグループかとなれば 、もう霧のむこうの人

   影を見るようで 、わかりにくい 。大和土着の種族であることはたしかで

   ある 。イヅモとは 、『 倭名類聚鈔 ( わみょうるいじゅしょう ) 』で以豆毛

   と発音し 、古代発音では おそらく ingdmo と発音していたかとおもわれる

   『 出雲国

    というのは 、明治以前の分国で 、いまの島根県出雲地方をさす地理的名称

   だが 、しかし古代にあっては イヅモ とは単に地理的名称のみであったかどう

   かは疑わしい 。種族名でもあったにちがいない 。さらに古代出雲族の活躍

   の中心が 、いまの島根県でなくむしろ 大和 であったということも大方の賛同

   を得るであろう 。その大和盆地の政教上の中心が 、三輪山 である 。出雲族

   の首都といっていい三輪山は 、神の名としては 、

   『 大物主命 ( おおものぬしのみこと ) 』

    という 。人格神ではない 。大物主とは 、国土のもちぬしという意味だろう

   が 、この神とこの系統の神々については『 記紀 』などの神話には人格に

   記述されているが 、それは記述法であるにすぎまい 。要するに 、

   『 ミワ 』

    という種族は 、大物主神を種族における最大の神として仰ぎ 、三輪山のま

   わりに住み 、ふもとの 海柘榴市 で市 ( いち ) をいとなんでいた イヅモ で

   あることは 、異論がすくないであろう

    大和の イヅモ にはもう一派いる 。

   『 カモ 』

    という 。のちに鴨 、加茂 、加毛 、蒲生などと書き 、地名になってしまう

   が 、もともと種族名であったということは 、あらためていうまでもない 。

    カモ族 というこの古代の大族は 大和の西部にあたる葛城山麓に住んでいて 、

   こんにちでもかれらが祭っていた神々 ―― 高鴨阿治須岐高彦根命 ( たかかも

   あじすきたかひこねのみこと ) 神社や鴨都味波八重事代主命 ( かもつみわやえ

   ことしろぬしのみこと ) 神社といった長ったらしい名の神社 ―― が 、山麓の

   森や林のなかに遺っている 。ほとんど『 鴨 』ということばがつく 。

    カモ族の主たる神は 、事代主命である

    古代のある時期の大和盆地には 、カモ・グループとミワ・グループが併存して

   いたことは 、たしかである 。この二つの イヅモ の言語が 、こんにちの日本語

   にいたるこの国のことばの主調をなすものであろう 。そこへ出現するのが 、

   神王朝であったであろう 。後世 、天皇家系の 第十代目 に組み入れられたこの人

   が 、征服者として三輪山の地に出現したことは 、まぎれもない 。ミワ族とは

   まったく別系統の人物であることは 、『 日本書紀 』のなかの噺 ( はなし ) を

   みても想像できる 。」

   引用おわり 。

   つづく 。

 

 

  ( ついでながらの

    筆者註 :「 海柘榴市( つばいち )とは 、かつて大和国にあった古代の市 。

         平安時代以降は宿場となった 。海石榴市・椿市・都波岐市の

         表記もあり 、読みも 『 つばきいち 』 から 『 つばいいち 』

         を経て『 つばいち 』 に転訛した 。現在の 桜井市金屋あたり

         に比定されるが 、所在地が移動した とする説もある 。 」

        以上ウィキ情報 。)

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