今日の「 お気に入り 」は 、今読み進めている本の
中から 、 備忘のため 、抜き書きした 文章 。
引用はじめ 。
「 老人だからといって 、独りで涙をながす
ようなことがないわけではない 、という
米村青淵の言葉が思いうかんだ 。老いて
気力を喪失した滝沢主殿 。酒びたりで怠
け放題に怠け 、しかも死ぬときには 、草
臥(くたぶ)れはてた 、と云ったという宗巌
寺の和尚 。みんな独りだった 。谷宗岳先
生も 、妻子がありながらこんな田舎へ招か
れて来て 、若い側女(そばめ)に子を産ませ 、
つつましやかに寺子屋のような仕事に背を
跼(かが)めているという 。だが 、実際に
はその側女にも 、その側女の産んだ子にも
心はつながっていないに相違ない 。女には
家があり子供がある 、女には自分の巣があ
る 。けれども男に巣はない 、男はいつも
独りだ 。
『 独りだからこそ 、男には仕事ができる 』
と主水正は声に出して呟いた 、『 特にいま
のおれは 、恩愛にも友情にもとらわれては
ならない 、男にもほかの生きかたはある 、
男としての人間らしい生きかたは数かぎり
なくあるだろうが 、おれだけはそうあって
はならない 、おれには男として人間らしい
生きかたをするまえに 、侍としてはたすべ
き責任 、飛騨守(ひだのかみ)の殿がそう思
い立たれたように 、侍としてなすべきこと
をしなければならない 、そしてこれは 、
おれ自身の選んだ道だ 』」
「 『 人はさまざまだな 』と主水正は独り
で呟いた 、『 妻のつるは自意識が強い 、
なにごとも自分を主体にして考えたり行
動したりする 、ななえは理屈なしに自
分を男に捧げるだけだ 、そして千代は 、
千代の中には男のはいってゆけないなに
かがある 、柔軟で控えめでいながら 、
どこかにこちんとしたものがあり 、ど
んな男でもそこへはいってゆくことはで
きない 、お千代にはもっとも心を許し
てはならない 』 」 ( 混ぜるな 、危険 ! )
引用おわり 。
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