今日の「お気に入り」。
「 アンが小川の丸木橋をわたると、グリン・ゲイブルスの台所の灯が『 お帰り 』という
ようになつかしくまたたいており、あいている戸口から炉の火が輝いて、秋の夜寒にあた
たかそうな赤い光を放ってい た。アンが元気よく丘を駆けあがり台所に駆けこむと、テー
ブルの上には熱い夕食が待っていた。
『 やっと、帰ってきたね 』とマリラは言って、編物をしまった。
『 ええ、ああ、帰ってきてうれしいわ 』アンはうれしそうに叫んだ。
『 なにもかも、時計にだってキスしたいくらいだわ。マリラ、焼き鶏ね! まさかあたし
のためにこさえたんじゃないでしょうね 』
『 そうだよ。あんたにさ 』マリラは答えた。『 あんなにながいこと乗ってくるんだから、
さぞお腹をすかしてくるだろうと思ってね、なにかおいしいものがほしかろうと思ったのだよ。
さあ早く、外套や帽子をぬいでおいで。マシュウが帰ってきたらすぐ食事だよ。あんたが帰っ
てきてたすかったよ。あんたがいないと、ひどくさびしくてね、こんなながい四日間をすごし
たことはないよ 』
夕食のあと、アンは炉の前に、マシュウとマリラの間にすわり、町でのことをすっかり話して
きかせ、最後にうれしそうに、『 とてもすばらしかったわ。あたしの生涯で画期的なことにな
ると思うの。 でもいちばんよかったことは家へ帰ってくることだったわ 』」
( Lucy Maud Montgomery 著、村岡花子訳 「赤毛のアン」(原題 "Anne of Green Gables") 新潮文庫所収 )