「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

Long Good-bye 2019・10・19

2019-10-19 05:25:00 | Weblog



  今日の「お気に入り」。


  「 アンの予感は的中した。この午後のできごとを知ったときのバーリー家とクスバート家の

   騒ぎはたいへんなものだった。

  『 いったい、いつになったら、あんたに分別がつくんだろうね、アン 』マリラはうめいた。

  『 つきますとも、だいじょうぶよ、マリラ 』アンはうきうきと答えた。東の部屋で一人きり

  で思う存分に泣いたので神経も休まり、いつもの快活さがもどったのだ。

  『 分別がつく見込みは、いまじゃずっとたしかになりました 』

  『 さあ、どんなもんかね 』

  『 だってね、あたし、きょう、新しく、とてもいいことを学んだんですもの。グリン・

   ゲイブルスにきてからずっとあたしは失敗ばかりしてきたけれど、一つするたびになに

   かしら自分のとてもわるい欠点がなおっていたのよ。紫水晶のブローチのことでは自分

   のものじゃない品物にさわるくせがなおったし、『 お化けの森 』のことではあんまり

   想像をめぐらせすぎることがなおったし、塗り薬のお菓子の失敗は、お料理は注意ぶかく

   しなくてはならないことを教えてくれたんですもの。髪を染めたことで虚栄心をなおし

   たし、いまじゃもう、自分の髪や鼻のことを考えないわ―― たまにしかね。それから

   きょうの失敗は、あたしがあんまりロマンチックすぎるのをなおしてくれたわ。アヴォ

   ンリーじゃロマンチックになろうとしてもだめなことがわかったの。何百年も昔の塔の

   町キャメロットでだったら、よかったんでしょうけれど。でもいまじゃ、ロマンスはあ

   んまりはやらないわ。もうあたしもすっかり変わってしまう時がきたと思います、マリ

   ラ 』

  『 そうなれば結構だがね 』マリラはうたがわしそうに言った。

   しかし、マリラが部屋から出て行ってしまうと、いつもきまった自分の片すみに黙り

  こくってすわっていたマシュウが、アンの肩に手をかけて、『 お前のロマンスをすっかり

  やめてはいけないよ 』とアンにもじもじしながらささやいた。

  『 すこしならいいことだよ――あんまり度を越しちゃいけないがね、もちろん――。だが

   すこしはつづけるんだよ、アンや、すこしはつづけたほうがいいよ 』」


   ( Lucy Maud Montgomery 著、村岡花子訳 「赤毛のアン」(原題 "Anne of Green Gables") 新潮文庫所収 )



                 

         
   



                
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