今日の「お気に入り」。
「 アンにものごとを冷静に受けとれということは、性格を変えろということになるだろう。
全身これ『 活気と火と露 』のようなアンではあったが、人生のよろこびも苦しみもアンには
三倍も強く感じられた。これを見ているマリラとしては、アンが運命の浮き沈みの中で、どん
なに激しい苦しみをしなければならないかと思うと、言いしれぬ不安を覚えるのだった。マリ
ラには、苦痛が激しく感じられる心には、よろこびもそれだけ強くこたえるものであり、それ
で十分つぐないはついていくのだということが理解できなかった。いつでも静かに、気分の平
均を失わないなどということは、川の浅瀬にキラキラおどる光線のようなアンには、まったく
見当もつかないものだったのに、マリラはアンにその落着きを与えるのが自分の義務だと思い
こんで、苦心するのだが、どうもうまくいかなかった。なにかの希望や計画がだめになったと
なると、アンは『 絶望のどん底 』へ落ちこんでしまうかわりに、それがかなったとなると歓
喜の世界で有頂天になってしまうのだった。この気まぐれ少女を自分の好みにかなった地味な
性質に改造することには、もうマリラもそろそろあきらめかけていたし、じつのところは現在
のままのアンをけっしてきらいではなかった。」
( Lucy Maud Montgomery 著、村岡花子訳 「赤毛のアン」(原題 "Anne of Green Gables") 新潮文庫所収 )
主人公アン・シャーリーの性格を言い表す「活気と火と露」は「赤毛のアン」冒頭の
題辞の中にある言葉。
英国の詩人 Robert Browning (1812-1889) の " Evelyn Hope " という詩の一節を
モンゴメリ女史は二行だけ抜粋し、「赤毛のアン」の題辞とされています。
英語の原文:
” The good stars met in your horoscope,
Made you of spirit and fire and dew ”
村岡花子さんの訳文:
「天空の導きの星が汝の運命を定め、
活気と火と露もて汝の魂を創り給いし」