
今日の「お気に入り」。
「 俺は、同じ失敗をこれでもかと繰り返す男だなと熊吾は思った。」
「 梅田行きの電車を待ちながら、おとといは雨だったし、きのうもきょうも薄曇りだ、
梅雨入りはまだのはずだがと空を見やリ、熊吾は妙に心に残りつづけている『赤毛の
アン』の一行をもじって、それを心のなかで文章にしてみた。
―――松坂熊吾に同じ失敗を繰り返すなということは、性格を変えろということにな
るだろう。―――
熊吾は、やって来た電車に乗って座席に腰を降ろすと、同じ失敗とは、商売におけ
る金銭への杜撰(ずさん)さや、信頼しすぎて社員まかせにしてしまうことだけでは
なく、親分風を吹かせて身の丈以上のことを請負って、いい気持になってしまうこ
とだと思った。それはたぶん俺にとって、たまらない快楽なのであろう、と。」
「 人生に理不尽と苦労はつきもんじゃ 」
( 宮本輝著 「 満月の道 ‐ 流転の海 第七部 ‐ 」新潮文庫 所収 )



