
今日の「お気に入り」。
「 親は子のかがみである。子は初めは親を、次いで友を、やがて世間を模倣する。人は
まねする動物で、創意工夫する動物ではない。お忘れだろうがむかしは『親が嘉兵衛
なら子も嘉兵衛』といった。」
「 先生が子供たちに意見を言わせ、それをディスカッションと称して聞くふりをするの
は悪い冗談である。意見というものは、ひと通りの経験と常識と才能の上に生じるもの
で、それらがほとんどない子供には生じない。」
「 教えるということは才能である。または技術である。その才能のないものが教えると、
教わるものは迷惑する。」
「 非は常に他人にあって、みじんも自分になければ、経験が経験にならない。」
「 帝王の堕落は一人の堕落にすぎない。貴族の腐敗は何千何百人の腐敗にすぎない。上流
が堕落すれば、末流から身をおこした志士仁人(じんじん)が上流を倒せばいい。革命して
旧弊を一掃すればいい。そして今度はその末流が上流に居すわって腐敗する番である。そ
したら再び有志が倒せばいい。こうして、この世は健康をとりもどした。ところが今度堕
落するのは、ひと握りの上流ではない。『大衆』である。」
「 海がそこにあり、山がそこにあっても、だれひとり泳ぐものも、登るものもない時代が
近く来る。何をばかなと信じないのは想像力がないからで、以前そうであったように、そ
のしんかんたる時代は来る。」
( 山本夏彦著 「毒言独語」 中公文庫 所収 )
