「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

誰でもみんな、去ってゆく 2018・12・25

2018-12-25 06:40:00 | Weblog

                            



              








  今日の「 お気に入り 」


   「 箱の中には 、ていねいに包装され札をつけられたプレゼントが

    詰まっている 。私より年下の弟たちへのプレゼントには『 サンタ

    クロースより 』と書いてあるが 、私へのプレゼントにはそれが

    ない 。そして 、もうそれが二度とないことを 、私ははっきり悟

    っている 。でも 、驚いているわけではなく 、むしろ大人の世界

    に仲間入りしてここにいるという喪失の痛みを感じている 。突

    然ほかの部屋へ入れられて 、背後でドアがカチャッと音を立て

    て永遠に閉められたみたいだ 。私は自分でつくった小さな傷に

    不意を突かれている 。

     でも 、そのとき 、私は目の前にいる人間たちを見る 。クリス

    マス・ツリーの前で身を寄せあっている両親を見る 。父の肩に

    手を置く母と 、いつものハンカチを握っている父 。姉たちを見

    る 。私より先に境界線を越え 、少女時代の生活から日に日に離

    れてゆく姉たち 。私は魔術師のような兄を見る 。大陸の半分も

    遠く離れたところからクリスマスにやってきて 、自分の持てる

    ものすべて 、自分自身のすべてを運んできた兄 。皆 、それぞれ

    の思いやりあふれる姿を描いた一枚の絵のように 、そこにおさ

    まっている 。

     『 誰でもみんな、去ってゆくものなんだ 』と父が静かに言う 。

    私は 父がサンタクロースのことを話しているのだ と思っている 。

    『 でも 、嘆くことはない 。よいことを残してゆくんだからな 』」


    ( アリステア・マクラウド著・中野恵津子訳 「冬の犬」 新潮社刊 所収 )


                                          

   
                     



    To Every Thing There Is a Season  (1976) ” (「すべてのものに

   季節がある 」)」と題された短編小説のこの最後の部分 、原文は次

   の通りです 。中野恵津子さん (1944-2013) の翻訳は全編を通して秀逸 。


  「 " Every man moves on ," says my father quietly , and I think he

   speaks of Santa Claus , " but there is no need to grieve , He

   leaves good things behind . "

 


                                           

                      


#アリステア・マクラウド # 中野恵津子訳  #冬の犬 #新潮社
#AlistairMacLeod #ToEveryThingThereIsaSeason 

コメント
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