今日の「 お気に入り 」 。
「 箱の中には 、ていねいに包装され札をつけられたプレゼントが
詰まっている 。私より年下の弟たちへのプレゼントには『 サンタ
クロースより 』と書いてあるが 、私へのプレゼントにはそれが
ない 。そして 、もうそれが二度とないことを 、私ははっきり悟
っている 。でも 、驚いているわけではなく 、むしろ大人の世界
に仲間入りしてここにいるという喪失の痛みを感じている 。突
然ほかの部屋へ入れられて 、背後でドアがカチャッと音を立て
て永遠に閉められたみたいだ 。私は自分でつくった小さな傷に
不意を突かれている 。
でも 、そのとき 、私は目の前にいる人間たちを見る 。クリス
マス・ツリーの前で身を寄せあっている両親を見る 。父の肩に
手を置く母と 、いつものハンカチを握っている父 。姉たちを見
る 。私より先に境界線を越え 、少女時代の生活から日に日に離
れてゆく姉たち 。私は魔術師のような兄を見る 。大陸の半分も
遠く離れたところからクリスマスにやってきて 、自分の持てる
ものすべて 、自分自身のすべてを運んできた兄 。皆 、それぞれ
の思いやりあふれる姿を描いた一枚の絵のように 、そこにおさ
まっている 。
『 誰でもみんな、去ってゆくものなんだ 』と父が静かに言う 。
私は 父がサンタクロースのことを話しているのだ と思っている 。
『 でも 、嘆くことはない 。よいことを残してゆくんだからな 』」
( アリステア・マクラウド著・中野恵津子訳 「冬の犬」 新潮社刊 所収 )
” To Every Thing There Is a Season (1976) ” (「すべてのものに
季節がある 」)」と題された短編小説のこの最後の部分 、原文は次
の通りです 。中野恵津子さん (1944-2013) の翻訳は全編を通して秀逸 。
「 " Every man moves on ," says my father quietly , and I think he
speaks of Santa Claus , " but there is no need to grieve , He
leaves good things behind . " 」
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