今日の「お気に入り」は、佐野洋子さん(1938-2010)のエッセー「あれも嫌いこれも好き」から、
「バカンバカン」と題した小文の冒頭。
「 その時の世の中に無いものを生み出す個人を天才と言うのだと思う。我々日本人はあっちを見
こっちをうかがい、皆々様と同じにすることを常識とし、皆々様と同じ考えを道徳とさえ致す
民族である。絶対多数と同じ意見で折り合うことを大人と言うのである。
若さというものは、そういう大人に反抗するという力を生きることであったが、このごろの
若いもんは、(あーいい気持ち!! この年齢になるとこのごろの若いもんと言うのに何の抵
抗もない。いや、むしろそういうことを声高々と口ばしることをもう社会的責任と思うね)社
会の大人達の不潔なあり様に団結して『イカル』などということをしなくなった。それが平和
というものである。
平和とは敵が見えにくいことであり、だらしない、うす汚い若いもんが平気で馬鹿でいられ
るということが平和というもんだ。ありがたいことだ。我々が平和を、あるいは経済的豊かさ
というもんを得るために必死で働いたのは、馬鹿を養うことであったのだ。ありがたいありが
たい。ソマリアや、ボスニア・ヘルツェゴビナではこうはいかないのだ。ありがたい、ありが
たい。今に見ていろ、ドバッとバチが当たるさ、そのころこちとら天国だい、ヒ、ヒ、ヒ。」
(佐野洋子著「あれも嫌いこれも好き」朝日文庫 所収)