「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2007・04・24

2007-04-24 13:05:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から、昨日の続きです。

 「大工や鳶の頭で威風あたりを払うものがあったのは一人で多くを兼ねたからである。大工は自分で設計し自分で施工した。今でいうデザイナーと施工者を兼ねたこと、その職が世襲であったことが風貌に威信を加えたのである。職人や芸人の世界は旧幕時代にはほぼ完成していた。明治政府は彼らのために学校をつくらなかった。大学に建築学科はあるがそれは西洋建築を学ぶところで、日本建築は一段下の工業学校で教えたが、そこを出たものは職人にならないで職人を指図する現場監督になった。ここでも教育の普及は浮薄の普及だという言葉を思いだす。私は手習いをしたことはないが手習いも同じだろう。古今の名筆を模写すれば、才あるものは十九か二十でその全力を発揮するだろう。あとは齢をとるだけである。齢をとればとるほど上達すると思うのは思いたいのである。歳月は勝手に来て勝手に去る。老人になればそれだけえらくなれるなら日本中えらい人で充満するはずである。再びそう思いたいのである。」

   (山本夏彦著「『戦前』という時代」文藝春秋社刊 所収)
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