今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「齢をとって利口になるなら齢をとった甲斐があるが、白髪は知恵のしるしではない。それでは若くさえあればいいか
というと、あれは今の老人の○十年前の姿だから同じく何の値打もない。」
「平均寿命がふえて老人がふえるのはよいことではない。ことに隠居しないで老人が政財界の要職を占めているのは
よくない。中国やソ連の幹部は老齢というより頽齢である。わが国でも各界の親玉は老人である。明治初年の大臣
参議は多く三十代だった。
当時の三十代の参議と今の六十代の閣僚をくらべて参議のほうが偉かったというものがある。もし偉かったとすれば
それは才能は天賦だということの一証左である。
いま歴代内閣の閣僚は老齢にすぎるといわれている。若くしなければいけないといわれている。けれども若返るという
発想はすでに老人のものである。これを若返らせるのはわけはない。まず七十以上の高齢者から大臣候補になる資格を
奪う。次回は六十以上はなれないことにする。その次は五十以上はなれないことにすればみるみる大臣また国会議員は
四十代になって維新の昔に近くなるのに誰も賛成しない。すれば自分が大臣になれないからで、若くしたいなんて本気
ではないことがこれで分るのである。」
(山本夏彦著「良心的」-夏彦の写真コラム-新潮文庫 所収)
「齢をとって利口になるなら齢をとった甲斐があるが、白髪は知恵のしるしではない。それでは若くさえあればいいか
というと、あれは今の老人の○十年前の姿だから同じく何の値打もない。」
「平均寿命がふえて老人がふえるのはよいことではない。ことに隠居しないで老人が政財界の要職を占めているのは
よくない。中国やソ連の幹部は老齢というより頽齢である。わが国でも各界の親玉は老人である。明治初年の大臣
参議は多く三十代だった。
当時の三十代の参議と今の六十代の閣僚をくらべて参議のほうが偉かったというものがある。もし偉かったとすれば
それは才能は天賦だということの一証左である。
いま歴代内閣の閣僚は老齢にすぎるといわれている。若くしなければいけないといわれている。けれども若返るという
発想はすでに老人のものである。これを若返らせるのはわけはない。まず七十以上の高齢者から大臣候補になる資格を
奪う。次回は六十以上はなれないことにする。その次は五十以上はなれないことにすればみるみる大臣また国会議員は
四十代になって維新の昔に近くなるのに誰も賛成しない。すれば自分が大臣になれないからで、若くしたいなんて本気
ではないことがこれで分るのである。」
(山本夏彦著「良心的」-夏彦の写真コラム-新潮文庫 所収)