「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

人はまんべんなく嫉妬しない 2005・10・19

2005-10-19 06:00:00 | Weblog
  今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

  「朝のテレビ小説はたいてい新しい女優を売出す。これに起用されると新人としての道がひらける。見れば自分より

  芸はなし器量もよくない。どうして自分でなくこんな女が選ばれたのだろう。神も仏もないと呪う女優の卵は多い

  ことだろう。歌い手踊り子の卵もこれに準ずる。

   たぶん才能があって認められたのだろうと、競争圏外にいるものは思うが、圏内にいるものは思わない。嫉妬に

  かられて呪いの電話の一つもかけたくなる。

   人はまんべんなく嫉妬しない。同時代人は同時代人に嫉妬する。私たちは私たちの仲間が、にわかに出世するのを

  喜ばない。私たちは私たちが物ごころついたとき、すでに有名な人には嫉妬しない。鷗外漱石にはしない。けれども

  石原慎太郎にはする。慎太郎と聞くといまだに目の色かえて悪く言うのは同年配の男にかぎる。」
 

  「このごろ『得べかりし利益』という。同時代人は同時代にいるだけで競争者だと勘ちがいして、あるいは自分が

  得べかりし名声、金、女などを奪われたと思う。

   三歳の童児の友は三歳でなければならない。五歳または七歳とは遊ぶのではなく、遊んでもらうのである。三歳に

  とってそれは本当の友ではない。してみれば同時代とは結局同いどしのことである。ただ四十五十になっても三歳の

  気持が去らないとは気がつかなかった。いまだに寅どしだの辰どしだのと干支を知りたがるのは、知って憎んだり

  足をひっぱったり暮夜ひそかに呪いの電話をかけたりするためだとは気がつかなかった。」


  (山本夏彦著「美しければすべてよし」-夏彦の写真コラム-新潮文庫 所収)





                  
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