国道122号沿いの音楽喫茶 『ドルフィン』

さぁ、音楽を聴け!
コーヒーは自分で沸かして用意して…
そんな仮想の音楽喫茶

西海岸でロックは「平和」を歌った。だがヒップホップは「抗争」に発展した

2012年02月03日 | ヒップホップについて
人は進みすぎてしまうと、取りあえず原点へ回帰したくなるようだ。
それは文明にしろ、文化にしろ、様々なことに起こりえることである。
ヒップホップもアフリカ・バンバータの作り上げたエレクトロの近未来的な音から
初期のパーティで鳴っていたような太く、荒々しいような音へと
憧憬を深めることになる。
東海岸側では、特にサンプラーの登場により、今までのドラム・ブレイクだけではなく、
音楽のありとあらゆる部分が切り取ることができるようになった。
そうなると自分たちで演奏をしなくても曲を作ることができる。
しかも楽理通りでなくてもいいのだ。
とにかく「カッコいい」という基準でトラックが作られ、
そこに洗練されたクールなラップがのるようになる。

『いーぐる』で流れたのはピート・ロック&C.L.スムースの
「ゼイ・レミニス・オーヴァー・ユー」である。
これはヒップホップの超名曲にもなっているそうだが、
トム・スコットのサックスを数音切り取ってそれをループさせ、リズムに乗せている。
ラップの後ろで鳴り響くサックスは、決して有名ではない部分から取られたそうだが、
この曲の中ではとてつもなく効果的に響き、
ラップの合間に合いの手のように入る部分では
「くーっ」ときてしまうほど哀愁に満ちている。
もともとギャングの抗争中に死んでしまった友人を思っての曲らしいが、
その感じはラップが分からなくても伝わってくる。

話は並列で語るのは難しいのだが、同時進行で西海岸でもヒップホップに動きがあった。
こちらはギャングたちがその発展に手を出している。
つまりは「ギャングスタ・ラップ」である。
前にも書いたが、僕は英語が分からないため、ラップも音として聴き取っている。
友人の中にはこの「ギャングスタ・ラップ」の
女性軽視や暴力的な部分に嫌悪感を抱いている人もいる。
正直、僕もビート・ナッツの歌詞カードを見た時に、
「こりゃあ、どえれーものがあるもんだ」と陰鬱な気分になった。
だが、逆にいえば歌詞カードを見なければ、そうしたものを意識する必要はない。
しかも聴いてみると結構これがいいのだ。
ドクター・ドレの『クロニック』などは、何度聴いたって気持ちがいい。

この頃ぐらいからヒップホップは車で聴かれることが意識されるようになるらしい。
西海岸と言えばロックでも「夢のカリフォルニア」やら
「花のサンフランシスコ」のように明るく華やかなイメージがある。
加えて海、水着美女、そして車という三種の神器そろい踏みである。
だから車で美女を連れて海に行く途中にカッコイイヒップホップがかかっていると
何だか「イカした」感じになるのだそうだ。
(こういった人たちはきっとラップを気にしなかったのだろう)
しかもサンプラーを使うのを少なくし、生演奏でバッチリと演奏する方に戻っていく。
アドリブは認められず、とにかく同じリズムやメロディーをループさせていくのだ。
だんだんとサビメロも生まれるようになり、歌とラップが入った物が生まれる。

1990年代にイーストとウエストでこうした動きが同時多発的に起こった。
音楽の歴史はこうやって同時多発的に起こることが多い。
だが「両雄並び立たず」と言うべきか、元々血の気が多い人たちの音楽である。
東西で「おれらが一番だ」という争いが起こっていったそうだ。
しかも本当の殺し合いまで起こってしまったというヒップホップならではの
エピソードがある。

こうしたことが現実的に起こったことでギャング色の強かった西側が
壊滅的にダメージを受けてしまう。
確かにギャングに所属をしていたラッパーやDJはいたのだが、
その実は意外に高学歴だったり、
他人の武勇伝をまるで自分のことのようにネタにしたり、
といういわゆる「なんちゃってギャング」の人もいたのだ。
しかし世間に売っているイメージが先行しすぎてしまい、
東側よりも西側のダメージは計り知れなかったそうだ。
再び浮かび上がってくるまでにはドクター・ドレの『2001』まで待つしかない。

この1980年代後半から1990年代のヒップホップは、
『いーぐる』のオーディオで聴くとおそろしいほどに低音が響いてくる。
クラブで低音が「ズドンズドン」とうなり声を上げるように聞こえることがあるが、
『いーぐる』の音は低音が乾いていて、なおかつストレートに心臓に響いた。
おそらく普段よりも音量は上がっていたと思う。そこに低音の素晴らしい響きがあった。
これは講演をしていたお二人も「う~ん」と感心していた様子だった。
やっぱりオーディオも侮ってはいけない。いい音で聴くと曲の印象も変わってくるのだ。

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