tokyo_mirage

東京在住・在勤、40代、男。
孤独に慣れ、馴れ、熟れながらも、まあまあ人生を楽しむの記。

無題の旅~上信電鉄・上毛電鉄 1日目

2013-03-22 23:00:00 | 旅と散歩と山登り
9:07 高麗川駅、八高線。高崎を目指しているが、高崎線で行くのは面白くないと思い、中央線・立川、青梅線・拝島と乗り継ぎここまでやって来た。高崎線を使うほうが1時間早く着けるが、急ぐ旅ではない。高崎まではここからおよそ1時間半の乗車。2両編成で、4人がけボックス席を1人で使えるくらいの空き具合。

八高線は、山とも平野ともつかぬ、郊外とも田舎ともつかぬ、いかにも「関東平野の周縁部」といった感じの曖昧なエリアをのんびり走る。
9:53 寄居で5分間の停車。ホームに出て伸びをしたりしている。陽射しが気持ちいい。東飯能、高麗川、越生、小川町、そしてここ寄居と、八高線は意外と他の路線とつながっている。

10:40に高崎に着く。八高線のホームの向かい側に上信電鉄のホームがある。かつては跨線橋を隣に渡るだけで行けたのではないかと思われるが、JRとは冷酷なまでに切り離され(画像左側の金網で遮断された向こうはJRのホームだ)、大回りしてJRの改札を出て、コンコースを歩き、ここまでやって来た。切符売場で1日乗車券を買う。2160円。終点・下仁田までが1080円だから、ちょうど往復分の金額。全33.7km、20駅の旅。

2両編成の電車が止まっている。どこかの私鉄のお古なのかな…と思うが、「顔」を見てもわからない(帰宅後調べたら、上信電鉄のオリジナル車両だった)。「人形処かんとう」と広告が。最初は「かりんとう」に見えて和菓子屋なのかと思った。車体全面を何色も使って塗りたくっての堂々たる露出っぷりは、東京都の屋外広告物条例(確か広告面積が車体面の10分の1を超えてはいけないはずだった)だったら間違いなくひっかかりそうな「過剰感」があるけれど、ローカル線が生き残るための貴重な資金源なら仕方のないところなのだろう。

反対側はこんな顔。スタイルも違えば色も全然違う。11:03発。

11:33 上州福島着。駅から3kmほど離れたところに城下町があるというので、駅で無料の自転車を借りて(「甘楽町振興課」とステッカーが貼ってある)漕ぎ出す。見知らぬ町で自転車に乗っているというだけで、なんだか愉快。

快適に飛ばしていると、左手にいかにも見晴らしが良さそうな小高い土手が現れたので、登ってみる。西の方向に、ギザギザの妙義山、雪をかぶる浅間山が見える。手前の建物は甘楽町役場。「甘く楽しい」、か…と思い、はたと気づく。先ほど通り過ぎたスーパー「スイートハッピー」、ずいぶん能天気で軽いノリの名前だなと思ったら、これだったのか。

ピンク色の花で彩られた土手。土手の上は畑なので、堆肥のにおいが少し風に風に乗ってくるが、それもまた春めいた雰囲気。

12:01 城下町らしい佇まいになってきた。乗ってきた自転車とともに町屋を写す。桜並木が続いている。東京は今日が満開だが、この辺は開花もまだ。

桜並木の下には水路が流れている。雄川堰。水辺まで下りられる洗い場があったり、葬送の時にだけ使われるという石橋「葬礼橋」が架かっていたり。

並木道から入ったところにある小幡八幡神社。

神社の裏手の山に登る。北側には榛名山が。

武家屋敷通り。往時のままの石垣。

12:45 池泉回遊式の大名庭園「楽山園」。織田信長の次男・信雄による造営という。群馬で織田、というのは少し意外な組み合わせに感じる。小高い芝生の高まりの上に小ぢんまりとした茶室があり、座敷に上がれる。殿様気分で庭園を眺める。穏やかな陽射しと吹き渡る風が気持ちいい。これはいい茶室だ。

池をめぐり、茶室を振り返る。子どもたちが伸び伸びと走り回っている。人を開放的な気分にさせる空間だ。

園を出て再び城下町。「喰い違い郭」。石垣が手前と奥とで段違いに築かれている。看板に「戦の時の防衛上造られた」との説明とともに、「下級武士が上級武士に出会うのを避けるため隠れた」とも。あはは。上司と街角でばったり会えば面倒なのは、昔も今も変わらずか。

町の一角にある「道の駅甘楽」で唐揚げ定食を食べ(観光施設というより地元の人たちの食堂、という感じだった)、元来た道を上州福島駅へ戻る。ホームから見た駅舎。改札から乗り場までのこの気楽なアクセス。橋上駅舎がいかに非人間的かがわかる。

上下線が行き違う。右側、旧西武鉄道の車両に乗る。13:48発。

14:08 上州福島から2駅、上州富岡で下車し、駅から徒歩10数分の富岡製糸場へ。

明治5(1872)年にできた日本で最初の「官営模範器械製糸工場」で、当時は世界最大規模を誇ったという。この地が選ばれたのは、もともと周辺で養蚕が盛んだったこと、糸を繰るのに必要な大量の水を川から確保できたこと、蒸気機関の燃料となる石炭が近くの高崎や吉井で採れたことなどが理由だそうだ。

「木骨レンガ造り」つまり「木組みのレンガ積み」という工法が変わっている。レンガをタテヨコ互い違いに積むのは「フランス積み」というのだそう。ここではフランス人技術者を呼び寄せて製糸法を学んでいたが、彼らがワインを飲む様子が誤解されて「異人に生き血をしぼりとられる」と噂され、なかなか工女が集まらなかったらしい。

驚くのは、この工場は昭和62(1987)年まで現役で使われていたということだ。だからこそこれだけきちんと残ってきたわけだな。

レンガと瓦の組合せというのも面白い。

すずらんのような形の街灯も懐かしい商店街を歩く。富岡は「絵手紙」で町起こしをしているらしく、店頭に作品が飾られているのを見かける。

上州富岡駅は改築工事をしていて、プレハブの仮駅舎の向こうでは重機が旧駅舎を壊していた。新駅舎はやっぱりレンガ造りになるのだろうか。

「じょうしゅう」ならぬ「じようしゆう」のホームの駅名板も、付け替えられるのだろう。上信電鉄では新型車両(どこかの鉄道のお古ではなくオリジナル新製の)を走らせる予定もあるという。ローカル鉄道に明るい話題があるのは嬉しい。15:10発。

ワンマン運転で出口は一番前のドアなので、乗客は1両目に集中している。2両目をまるまるひとりで独占。窓を開けて風に当たる。「左右両方のピンチ状レバーをつまんで持ち上げる窓」というのも今や珍しいな。制服の駅員さんがいる駅もあれば、用務員さんのような格好をしたおばさんが切符を回収している駅もある。ローカル駅を守る仕事、というのも悪くない。僕だったら花壇作りなどに熱中しそうだ。

「なんじゃい」南蛇井駅。ユニーク駅名としてもうあまりにも有名か。今、漢字変換も一発でできたし。へび年の今年は記念入場券も発売されたという。「富岡製糸場を世界遺産に!」というスローガンは、車体に掲げている車両もあった。

南蛇井の次の駅、千平からは、山の中を縫うように(地図で見ても、それこそ蛇がのたうつように)走り、山中で止まったかと思えば信号所で上り列車と行き違い、15:34 終点・下仁田着。

下仁田はこんにゃくの町。「こんにゃく料理」ののぼりを出す旅館もあった。でも正直、「こんにゃく料理」と言われても、あまり食指は動かないかも知れない…。途中の電車の沿線にはあの「マンナンライフ」の工場も見えた。

人間サイズの路地の細さがいい雰囲気を醸し出している商店街が。ただ、営業しているのは肉屋さんくらいだった。

「撞球場」。ビリヤードを意味するのは字面で分かったが、読めなかった。「どうきゅう」。

「ガラス戸に貼られた、日焼けして色褪せたちょっと前の化粧品ポスター」というのも、こういう商店街にありがちなアイテム。

下仁田駅に戻る。乗ってきたのと同じ、真ん中の赤い車両(日野自動車の広告車両だそうだが、まったくわからなかった)に乗る。15:52発。

帰宅の女子高生が乗っているが、いかにも乗客の少ない路線らしく、座っているときの腰の落とし方や股の広げ方が、いかにも「油断している」感じがする。エロスを醸し出す「しどけない」というのとは全く違う意味で。僕はもっぱら体をよじって窓の外を眺めていたが、とある駅に着いて振り返ったら、前の座席の上に巾着袋がどすんと置きっ放しになっている。あわてて「バッグ忘れてるよ!」とドア口まで持っていって、ホームにいる子に渡してあげる。さっきまで座席で居眠りをしていたその子は、何が起きたのかよくわかっていないようだった。
16:33 吉井―馬庭間で鏑川を渡る。路線はずっとこの川に沿っている。

新幹線の高架下に信号場があり、上下線が行き違う。行きもここですれ違った。

16:52に高崎到着。乗車時間は1時間ジャストだったが、これくらいがちょうどいい気がする。電車に乗るのは好きだが、あまり長時間体を動かさないでいると、漫然としてくる。結局、「移動しているのに、移動していない」からだと思う。電車は動いているけれど、体はシートから動いていない。身体感覚は視覚の変化だけではごまかせない。体を実際に動かしてこそ「旅」なのだ。
17:05発の両毛線小山行きに乗り換える。

隣のホームに懐かしいカラーリングの車両が並んでいる。信越線と吾妻線。

17:20 前橋着。高崎に比べると駅前は閑散としている。ホテルへ。

ホテルにチェックインした後、再び街へ出る。前橋の中心市街地は前橋駅のだいぶ北側にある。
17:53 上毛電鉄の「中央前橋」駅。ここも「中央」というよりは、「北西のはずれ」といった感じか。

中央前橋駅前の歩道橋を上がると、夕暮れの薄闇に“ピンク色の花火”があがった。1F「ガールズバー」、2F「セクシーキャバ」、3F「セクシークラブ」の入るビル。このあたりの夜の店の佇まいは、やたらと「男の快楽」をあっけらかんと煽る感じで、「男に生まれて良かった!」などと、妙な朗らかさを発散する看板を出している店も。これが「群馬男児スタイル」なのか。

歩道橋を渡ると川が。広瀬川。利根川から分かれてきた川だけあって、水量がたっぷりとしていて、流れも速い。川沿いの遊歩道には、地元出身の萩原朔太郎をはじめとする詩碑が立ち並んでいる。暗さの中で目を凝らして音読してみる。

18:33 川を離れ、アーケード街を歩く。シャッターの下りた店が多い。閉店時間帯のためなのか、それとも、商売自体をやめているためなのかはわからない。不思議なオブジェが置かれている謎の一角が。何らかの作品なのか、ただの「物の積み重なり」なのか、わからない。

飲み屋街の路地の入口。「呑龍」とはまた、底無しの酒欲・食欲を思わせるネーミングだな。
…だが、飲み屋はあっても、適当な食堂が見当たらない。「前橋名物・とんかつうどん」なるものを出しているレストランはあったが、ショーケースを1分くらい凝視した後、どうもしっくりこず、離れた。しかし、その店を離れたら最後、飲み屋と夜の店(やはりどの店も男の欲望に直球で突っ込む看板を出している)以外に食べ物屋は見つからず…。

思いも寄らなかった展開だが、「前橋元気プラザ21」なる複合ビル(「男の欲望街」を歩いた後はなにやら意味深に響くネーミングだが、れっきとした公共施設らしい)の地下にあるスーパーで、タンドリーチキン弁当を買ってホテルに帰った。旅情もへったくれもない。せめてものこだわりは、「上州みそパン」なる“ご当地パン”っぽいパン(メーカーは第一パン)を買ってみたこと。ただ、味はいまひとつだった。


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