特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
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第334話 東京犯罪ガイド!

2007年08月05日 23時08分52秒 | Weblog
脚本 塙五郎、監督 辻理

吉野の父親が東京観光の一団とともに佐賀から上京してきた。父親と会う約束をしていた吉野は、約束の時間を気にしながらも、ある若者の取調べに没頭していた。若者は、一人暮らしの孤独な老人を殺した強盗事件の容疑者として逮捕されたが、犯行を頑なに否定していた。「女と会っていた」とアリバイを主張する若者だが、女とはディスコで出会っただけの間柄で、住所も知らないという。若者とともに繁華街で女を捜す吉野だが、「父親から連絡がなかったか」と特命課に電話している隙に、若者の逃走を許してしまう。
一方、父親は吉野が来ないことに諦めの表情を浮かべていた。観光バスのバスガイドに後押しされて特命課に電話を入れるが、「吉野は捜査中で不在」と聞き、名乗ることなく電話を切った。吉野の父親の無骨さに、亡き父親の面影を見たバスガイドは、結婚を申し込まれた男のことで相談を持ちかけ、自室へと招き入れる。
一方、若者の自宅を捜索した吉野は、女の写真を発見。そこに映っていたのはバスガイドだった。バスガイドの自宅を訪ねた吉野は、父親と意外な対面を果たす。神代の計らいで、父親と二人きりで語らう吉野。だが、父親の素っ気ない態度に、「あんたがいつもそんなだから、母さんが苦労するんだ!」と、言わずもがなの悪態を叩いてしまう。吉野は父親が浮気した女に産ませた子供だった。吉野の母親は、実の子ではない吉野を、実の子である長男と分け隔てなく育てた。だが、父親は吉野に対して素直な愛情を向けることができず、吉野もまた父親を憎み、家出同然に上京したのだ。
吉野と喧嘩別れした父親は、若者の正体を知ってショックを受けたバスガイドを案じて、その部屋を訪ねる。不安の余り父親にすがりつくバスガイド。そこに電話が掛かってくる。電話に出ることを拒絶するバスガイドに「出なくちゃ駄目だ。これ以上、罪を重ねさせないよう説得するんだ」と励ます父親。電話はやはり若者からだった。若者と待ち合わせた新宿駅に、バスガイドは父親とともに出かける。
新宿駅に張り込んだ吉野たちは、父親の姿に驚きながらも若者の到来を待つ。現れた若者は、バスガイドを強引に連れて行こうとするが、吉野の父親が立ちはだかる。父親を蹴倒し、逃走する若者。一瞬、父親の身を案じて立ち止まる吉野に「何をしとる!行かんか!」と父親の叱咤が飛んだ。捕らえられた若者は、ようやく罪を認め、事件は解決する。
事件後、故郷に帰る父親を見送りもせず、裏づけのためにバスガイドを訪ねる吉野。バスガイドに父親が語った言葉から、吉野は母親から贈られたと思っていた就職祝いの腕時計が、実は父親からの贈り物だったことを知る。父の乗った新幹線がホームを出る瞬間、吉野が駆け寄る。窓越しに見つけた父親に、吉野は腕時計を誇らしげに掲げる。我が子が初めて見せた自分への感謝の気持ちに、父親は感慨深げな表情を浮かべるのだった。

同じく塙脚本の第220話「張り込み・閉ざされた唇」に続いて、吉野と父親との関係を描いた一本。前回の母親に続いて、今回は父親自らが上京。吉野の父親に対して冷たい態度を取り続けた理由も明らかになり、DVD-BOX Vol.3に収録された吉野殉職編にも連なる物語が展開されます。できることなら3本続けて視聴することをお勧めします。
吉野の父親を演じたのは、個人的に大好きな俳優の一人である高松英郎氏。今年2月に惜しくも亡くなられましたが、『必殺仕置人』(『仕事屋稼業』と並ぶシリーズ最高傑作!)の牢名主・天神の小六役が忘れがたい名優です。無骨で不器用な吉野の父親役には最適なキャスティング。どことなく風貌も似ていて、両者が感情をぶつけ合うシーンは実の親子の相克のような緊張感を漂わせていました。
特筆すべきなのは、やはり感涙必至のラストシーンですが、そこに向けて、父親の吉野に対する秘められた愛情が明かされるまでの展開が、非常に練り込まれています。冒頭から、母親から贈られた(と信じる)腕時計への吉野の愛着が描かれ、(血の繋がらない)母親への感謝と負い目が、父親に対する不信と憎悪を増幅する役割を果たしていることが見て取れます。しかし、その腕時計は、実は父親が吉野に贈ったものでした。「自分からの贈り物なんて、竜次は受け取らない」父親の真意を知ったとき、吉野は愛情を素直に現せない哀しみを知るのでした。それは、愛する相手に愛情を受け入れられないことを恐れる弱さであり、その弱さは、父親に対する愛情を認めたくない、さらには父親の愛情を求めてやまない吉野自身の弱さでもあったのです。父親と自分の弱さを知ることが、父親との絆を確かめることになるというストーリー展開が実に味わい深い。そして、ラストシーンで描かれたのは、言葉を交わすでもなく、涙や笑顔を見せるでもなく、どこか怒ったような顔を窓越しにつき合わせることで、初めて気持ちを通い合わせ二人の姿でした。そこには、「脚本の妙」と「役者の熱演」が融合した、素晴らしい余韻があるのでした。