子どもたちに渡すな!あぶない教科書 大阪の会

大阪で教科書問題にとり組む市民運動の交流ブログ

全国各地で育鵬社が惨敗!21年間の教科書運動の歴史的勝利!

2020-09-19 17:40:43 | 2020年度中学校教科書採択(大阪)
全国各地で育鵬社が惨敗!21年間の教科書運動の歴史的勝利!

                        伊賀正浩(子どもたちに渡すな!あぶない教科書大阪の会)

 2020年中学校教科書運動は全国の市民によって歴史的勝利を闘い取りました。ほぼ全国の採択結果が出そろい、育鵬社の採択率は、歴史で1%以下、公民では何と0.5%以下になることが予想されます。前回の2015年採択時(歴史:約6.2%、公民:約5.7%)からの大幅削減です。この結果を全国の教科書運動に取り組んだ人々とともに大いに喜びたいと思います。今回の育鵬社の敗北を、教科書からの撤退に追い込む決定的な打撃にしていきたいと思います。

全国の市民の力で勝ち取った不採択

 今年の教科書運動の最大の特徴は、これまで採択されていた地域で育鵬社を不採択に追い込んだことです。
 横浜市は、2009年の「中田市長-今田教育長」体制での政治介入による採択から11年、教科書採択に学校・教員の意見を反映させることを求める請願や署名運動を取り組み、教員アンケートの実施など、制度改善を実現してきました。その結果、全国最大の採択区で育鵬社を不採択にしました。2011年から育鵬社を使用している藤沢市では、育鵬社の使用状況についての教員アンケートを実施し、「考える力が育たない」「入試に不利」など、現場教員が困っている様子を浮き彫りにしました。現場教員と連携した市民の力で育鵬社を阻止したのでした。呉市では、不正に育鵬社の評価を上げた選定資料の問題を粘り強く呉教科書裁判で追及したことが大きな成果を生みました。私たち大阪の運動は、これらの採択された地域での粘り強い運動に学び、大いに刺激を受けてきました。
 今年の採択で右派の動きが目立ったのが名古屋市でした。名古屋の右派の特徴は、河村市長と日本会議による「表現の不自由展・その後」展示への攻撃、大村知事リコール運動が、育鵬社採択運動を行ったことです。343通の「市民の声」では、育鵬社の賛否が半々にまでなっていました。7月29日の教育委員会議では、歴史・公民だけ継続審議になりました。特に、歴史では2名(5名中)の教育委員が育鵬社を支持し、育鵬社採択の危険性がありました。名古屋の市民運動から緊急の呼びかけがあり、名古屋市教委へ育鵬社反対の声が届けられ、8月7日の教育委員会では「逆転不採択」を勝ち取ったのでした。大阪には泉佐野市、東大阪市、大阪市の採択が控えていたときだけに、私たちは名古屋の市民の皆さんに大変勇気づけられました。
 2001年、初めて「新しい歴史教科書をつくる会」(以下、「つくる会」)が参入して以降、一貫して「つくる会」系教科書(扶桑社→育鵬社)を採択していた東京都教委と愛媛県教委が不採択にしたことは育鵬社の破綻を示す象徴的出来事でした。2000年代は、東京都石原知事と愛媛県加戸知事の政治介入によって、都道府県教委で「つくる会」系教科書を採択してきました。2015年には、愛媛県では松山市、四国中央市、新居浜市、上島町へ、東京都では武蔵村山市、小笠原村へと採択が広がりましたが、今年は東京都と愛媛県の全ての採択区で育鵬社を一掃したのでした。育鵬社・「つくる会」は、右派系首長の支持を取り付け、まずは都道府県教委での採択を進め、それを市町村教委に広げることを目論んでいましたが、両知事が退場した今、完全に破綻したのでした。
 今年の採択では、都道府県レベルで宮城県教委、埼玉県教委、千葉県教委、山口県教委、福岡県教委で育鵬社を採択しましたが、市町村教委採択は減少しました。ただし、石川県(金沢市・小松市・加賀市)と、安倍元首相の地元である山口県(岩国市・和木町・下関市)をはじめ、栃木県大田原市、大阪府泉佐野市、沖縄県石垣市・与那国町で採択しており、今後全国的な連携した取り組みが重要になっています。
 
大阪でも育鵬社が大きく後退

 大阪は、2015年に5市で育鵬社の採択を許し、育鵬社の全国採択率の約30~40%が大阪での採択となっていました。育鵬社の採択率を押し上げた主要な要因が大阪での大量採択でした。大阪での市民運動は、この悔しさをバネに採択直後から運動を継続してきました。とりわけ、今年に入ってからは、大阪府内43市町村教委に要望書・公開質問書などを何度も提出し、情報収集・分析を行い、育鵬社批判を続けてきました。大阪では、教育再生首長会議に7名が参加していることから、「首長会議」の情報を逐一情報公開請求で入手し、監視を続けました。3月には、右派の首長や教育委員会への働きかけを調査するために公開質問状を出しました。その結果、忠岡町や和泉市など大阪府南部地域で八木秀次氏が首長訪問していることを突き止め、その不当性を広く訴えました。4月以降は、教科書採択制度の透明化、民主化を求める公開質問書、育鵬社の不採択を求める要望書を提出しました。採択直前まで写真の無断掲載など子どもの人権を侵害する記述があることを教育委員会に伝え続けました。また、市民へは教科書展示会に出かけ、育鵬社教科書を実際に手に取り、感じた問題をアンケートに書き込んでもらうように呼びかけました。
 2011年に大阪で初めて育鵬社公民を採択した東大阪では、2015年採択での野田市長の政治介入による採択を市議会を通じて徹底して追及する活動を続けました。野田市長は、教育再生首長会議の2代目会長です。「首長会議」は、首長主導で育鵬社、日本教科書の採択を進める団体であり、事務局を日本教育再生機構においていました。首長が公金から支払った会費の一部が、日本教育再生機構に事務局委託金として流用されていることが明らかとなりました。東大阪の市民運動は、特定の教科書採択を進める団体への不当な公金の支出に対して、住民監査請求を行い不正を問題にしました。市役所前でのチラシ配り、市議会での追及、市民集会の開催など、オール東大阪の力で、育鵬社を不採択にしたのでした。
 大阪市は、2015年に1採択地区化した中で育鵬社を採択しました。採択直後からフジ住宅による教科書アンケート水増し事件を暴き出し、市議会での追及や外部観察チームによる調査を実現させました。調査報告書では、教育委員が選定委員会の答申を無視して採択を行っていた実態や秘密会で事実上の採択を行っていたこと、公開の教育委員会議はシナリオにそった茶番劇であることを明らかにしました。その結果、大阪市の採択区の4分割化を実現し、選定委員会答申や学校調査で「より現場の意見に即した教科書採択」にするために「特に優れている点」「特に工夫・配慮を要する点」を明示させることができました。その結果、これまで以上に教員の意見を採択に反映させることができました。採択の教育委員会の傍聴も希望者全員(89名)を認めさせ、YouTubeによる全国配信も実現しました。大阪市の教育委員会議は、4分割化された選定委員会「地区部会」答申をもとに「一押し」の教科書が報告され、それが「原案」となりそのまま採択されました。今回、選定委員会の「一押し」に育鵬社は入っていなかったが、選定委員には、市長が任命した区長が教育次長として入っています。政治介入のルートが公然と残されています。今後、採択への区長の関与をなくすように取り組みを進めたいと思います。
 四条畷市では維新系市長が交代し、河内長野市でも育鵬社を推進していた市長と教育長が交代しました。市民が継続的に教育委員会への要請を続け、政治介入による採択を阻んだのでした。
 今後は、大阪府内で唯一育鵬社公民を採択した泉佐野市への抗議を強めることが課題です。歴史は選定審議会答申通り育鵬社を不採択にしましたが、公民の審議は異様でした。選定審議会答申では、育鵬社は最下位の6位評価で、教育委員会議の中でも選定審議会から「東書の方が育鵬社よりわかりやすい」との意見が出ても、最終的には4対2で育鵬社採択となったのです。今回も公正な審議をせず、政治介入による採択を行ったのではないかと思われます。

右派を封じ込めた運動の力

 この21年間、全国の教科書運動が継続してきた中で、右派の動きは2015年以降、急速に衰えていきました。2001年以降、「つくる会」系教科書は少しずつ採択率を伸ばし、2015年には育鵬社が約6%の採択率を確保するところまでいったものの、教科書の採算ラインである10%には届きませんでした。右派教科書運動のピークは2015年だったと思われます。
 日本教育再生機構は、機関誌「教育再生」を2016年を最後に発行できなくなり、いつの間にかHP、連絡先も消え、表だった動きはなくなりました。歴史・公民に続いて発行を目論んでいた道徳教科書も育鵬社から出すことができず、嫌韓本やヘイト本を出している出版社とつながる日本教科書からしか発行できませんでした。その日本教科書も2019年の中学校道徳採択では大惨敗でした。
 そして今年の新型コロナ感染拡大中で、安倍首相と萩生田文科相は、全国の学校一斉休校の強行と学校再開での現場任せ、「9月入学」を巡る方針のブレ等により、厳しい批判にさらされ身動きがとれませんでした。
 育鵬社を大量採択し、今も「維新」の影響力が強い大阪では、2015年の採択以降、大阪市でのフジ住宅の教科書アンケート水増し事件の追及、森友疑惑の徹底追及によって、草の根右翼、企業右翼の動きを封じることができました。かろうじて活動をつづけていた日本教育再生機構大阪も、中学校教科書採択の直前である昨年11月に解散していました。若手地方議員や青年会議所を中心に活動していた龍馬プロジェクトの神谷宗幣会長は、この7月、活動拠点を大阪から石川県に移さざるを得ませんでした。大阪府内で右派が教科書展示会に動員をかけた形跡は見られませんでした。モラロジー研究会が主催する教員向け道徳教育研究会も、私たちの批判を受けて、教育委員会後援を撤回し、教育委員会から来賓・講師参加を見送るケースが増えてきました。今年は、新型コロナの影響もあり、大阪での開催はゼロでした。これらは、大阪で地元に根を張った運動を継続してきたことの成果です。
 
育鵬社は教科書出版から退場を!

 新学習指導要領と教科書検定基準の改悪によって、全ての教科書の右傾化は進んできました。確かに、領土問題では全社横並びで政府見解を書かせるようになってきましたが、歴史認識や戦争賛美、日本国憲法の歪曲、改憲誘導などの記述で育鵬社は突出しています。安倍政権の広報誌そのものでした。今回、育鵬社を全国で不採択に追い込んだ意義は計り知れません。
 今後、大阪では各地で育鵬社を不採択に追い込んだ要因を分析し、教訓を共有することを進めたいと思います。各地で採択過程の情報公開を行い、勝利を打ち固める取り組みを進めたいと思います。そして、採択された泉佐野市への抗議の取り組みを開始したいと思います。

 2020年12月12日(土)18:30 エル大阪南館ホールで、今年の採択を振り返る全国集会を行います。ぜひとも、ご参加ください。


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