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金沢市の育鵬社中学校歴史教科書再採択に抗議し採択のやり直しを求める声明

2020-09-10 19:45:13 | 2020年中学校教科書採択(全国)
金沢市の育鵬社中学校歴史教科書再採択に抗議し採択のやり直しを求める声明

 すでにニュースになっているように、横浜市や大阪府下の大阪市他各市など育鵬社教科書大手採択区のほとんどがその再採択を見送り、育鵬社教科書採択区の崩壊が本2020年に起っている。これは育鵬社教科書の劣悪性が全国の市民に広く認知されるようになった結果である。その中で金沢市が少数になった再採択区として残り、全国からその見識に対し奇異の目を向けられる事態に立ち至ったことは、深く遺憾である。
 育鵬社歴史教科書の劣悪性は、植民地支配や侵略戦争の史実を無視した近現代史部分のみならず、独善的日本讃美に充ちた古代中近世史部分にまで及んでいる。さらに育鵬社教科書の「目玉」神話部分にさえ、神話と歴史と混同する愚かさとは別に、神武天皇を天孫ニニギの3代目(実は4代目)とする無教養な間違いが見られる(今回展示本でも未修正)。金沢市は採択理由を「伝統や文化を尊重する態度、道徳性を養える」とするが、「伝統や文化の尊重」とは「無教養に開き直り自己陶酔する」ことかと反問せざるをえない。
 そもそも歴史教科書は「道徳性を養う」ためにあるのではない。さらに育鵬社が安倍前首相肝いりで造られた会社であるのは周知のことだが、その安倍政権は先日「モリカケサクラカワイ」といった深刻なモラルハザードを日本に残し終わった。「無教養に開き直り自己陶酔する」ことに終始すれば、道徳性は逆に破壊されることを現実が語っている。
 新型コロナウィルスによるパンデミックで防疫と教育の関係が浮かび上がっている。ヨーロッパの成功国ドイツは自国の加害責任を教科書で教えているし、世界別格の成功国・台湾の立役者の一人、天才IT担当大臣唐鳳氏は、台湾が競争に依拠した教育を止め、個人の教養を育てる教育に切り変えたと語っている。一方、日本は人口当たり死者数東アジア・ワースト上位、人口当たりPCR検査数世界159位、IT競争力ランキング世界23位(30年前は1位)という劣化状況を呈している。これは「無教養に開き直り自己陶酔する」教科書の採択に、多大な労力が注がれてきたことと無関係ではないであろう。
 育鵬社教科書の劣勢に焦った政治勢力が、抵抗力が弱いと踏んだ金沢市の再採択を死守すべく懸命の努力をしたであろうことは、調査研究報告書の評価数値が3位だった育鵬社が採択された不透明な経過からも推測できる。国が劣化したとき、劣化を是正するのは地域の義務であり、現実に全国多数の教育委員会は、前回採択区も含め育鵬社教科書を採択しないことでその存在意義を示した。しかし金沢市教育委員会は「伝統や文化を尊重する態度、道徳性を養える」という笑止の賛辞を、育鵬社教科書に捧げることしかできなかった。
 いしかわ教育総合研究所は、金沢市教育委員会が今回劣悪な育鵬社歴史教科書の再採択を断行したことを、金沢市の名誉を損ない、人類の多難な未来を担う子どもたちへの神聖な義務を放棄したものとみなし、抗議し猛省を求めるとともに、今回の再採択を撤回し、採択のやり直しを行うことを強く求める。

2020年9月8日 
いしかわ教育総合研究所共同代表 半沢英一

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