子どもたちに渡すな!あぶない教科書 大阪の会

大阪で教科書問題にとり組む市民運動の交流ブログ

加賀市の育鵬社中学校歴史・公民教科書、日本教科書道徳教科書の再採択に抗議する

2020-09-25 20:54:19 | 2020年中学校教科書採択(全国)
 加賀市の育鵬社中学校歴史・公民教科書、日本教科書道徳教科書の再採択に抗議する

 加賀市教育委員会教育長 山田利明殿

 いしかわ教育総合研究所は2015年以来加賀市に対し、育鵬社の中学校歴史・公民教科書、日本教科書株式会社の中学校道徳教科書の劣悪性を指摘し、3教科書の再採択見送りを要望してきた。本2020年度の2021~2024年使用中学校教科書の採択において加賀市は、これら問題3教科書すべての再採択を決定した。

育鵬社歴史教科書の劣悪性は、ネルーや孫文が日露戦争における日本の勝利に喜んだが、その後の日本に失望したと他社教科書が記述しているのに育鵬社教科書だけは触れないといった、植民地支配や侵略戦争を美化する近現代史部分に顕著である。のみならず、広隆寺弥勒菩薩像の紹介で、他社教科書が特筆する韓国国宝83号との酷似に触れないといった、独善的日本讃美に充ちた古代中近世史部分にまで及んでいる。さらに育鵬社教科書の「目玉」神話部分にさえ、(神話と歴史と混同する愚かさとは別に)神武天皇を天孫ニニギの3代目(実は4代目で戦前なら不敬罪もの)とする無教養な間違いが見られる。

 育鵬社公民教科書の劣悪性は、冒頭の「地球市民など幻想で国際人になる前に日本人であれ」という曽野綾子氏のエッセイに象徴されている。大坂なおみさんの「私は日本人であると同時に黒人女性」、レディーガガさんの「私はアメリカ人であると同時に世界市民」といった発言が世界的な共感を呼んでいる現代において、「日本人であると同時に地球市民である」ことを許さない公民教科書を与えられた加賀市の子どもたちの不幸に心が痛む。また直近の9月7日、育鵬社公民教科書が滋賀県守山市の無料学習塾について当該団体に無断で掲載し、その記事も誤謬だらけなこと(「愛知県守山市」という間違いさえあった)を当該団体から抗議されたことが全国ニュースとなった。育鵬社教科書の劣悪性は今や日本の常識になりつつある。

 日本教科書道徳教科書の劣悪性は、初の黒人メジャーリーガーが球団オーナーから人種差別のヤジに「やり返さない勇気」を求められ、それに従ったことが美談として取り上げられた中1の「永久欠番42」などに現れている。「♯Me Too」運動や「Black Lives Matter」運動が世界的な共感を呼んでいる現代において、このような道徳教科書を与えられた加賀市の子どもたちの不幸に嘆かざるをえない。

 すでに全国ニュースになっていることだが、神奈川県の横浜市と藤沢市、大阪市初め大阪府下の諸都市、愛媛県松山市、広島県呉市など、前回育鵬社教科書大手採択区のほとんどが再採択を見送り、育鵬社教科書の部数が10分の1ほどに激減する育鵬社採択の雪崩現象が今年度起こっている。これは育鵬社教科書の劣悪性が全国的に知られた結果である。また日本教科書の道徳教科書も、先述した差別への屈服の奨励や、刑事訴追や社会的制裁などの脅迫に終始するいじめ防止など、あまりのひどさに全国で採択区が栃木県大田原市、石川県の小松市と加賀市の3つだけだったことが話題になった。今年度の採択においても大田原市と加賀市が再採択した以外に、千葉県の一部を除き新規採択区があったことをきかない。

 そのように貧しい知性が生んだ国家主義教科書が全国的に退潮する中で、小松市と金沢市が育鵬社歴史教科書を、加賀市が育鵬社歴史・公民教科書、日本教科書道徳教科書を再採択したことは異様であり、全国から石川県3市の見識に対し奇異の眼差しが向けられている。特に加賀市は、栃木県大田原市とともに、最悪の国家主義3教科書を採択した日本ただ2つの市として(千葉県一部の歴史・公民教科書は未発表)全国に知られることになった。日本指折りの温泉地を多数抱え、国際的に恥ずかしくない人権感覚と歴史認識を持っていなければならないはずの加賀市が、陰湿な裏工作でしか採択を実現できず、内容も国際人権基準からはずれ学問的批判に堪えない教科書を採択し続けていることに、観光都市としての実害が生じることを危惧せざるをえない。

 育鵬社が安倍前首相の肝いりで造られたことは周知のことだし、日本教科書も安倍前首相が推奨する「新しい教科書をつくる会」の流れで生まれた会社である。その安倍政権は先日、モリカケサクラカワイといった深刻なモラルハザードと、人口当たり新型コロナ死者数東アジアワースト上位、人口当たりPCR検査数世界159位、IT競争力世界23位(30年前1位)という「かつての先進国」状況を日本に残して終わった。このような日本の劣化は、ここ20数年にわたり(「新しい教科書をつくる会」発足は1997年)日本では、時代錯誤の国家主義教科書を採択させることに、多大なエネルギーが費やされてきたことと無関係ではないであろう。

 国が劣化するときそれを是正するのは地域の義務であり、現実に全国多数の教育委員会は育鵬社教科書の再採択を見送ることでその存在意義を示した。石川県の3市は残念ながら時代錯誤の勢力に忖度し、人類の多難な未来を担う子どもたちへの神聖な義務を果たすことができなかった。そして金沢市が育鵬社歴史教科書の再採択だけに終わり、小松市が育鵬社公民教科書と日本教科書道徳教科書の再採択を見送ったことに比べれば、最悪3教科書を再採択した加賀市教育委員会の責任は、3市の中で格段に重いと云わざるをえない。

 いしかわ教育総合研究所は以上の観点にもとづき、育鵬社歴史・公民教科書と日本教科書道徳教科書を再採択した加賀市に抗議し、その見直しと採択のやり直しを強く求める。

2020年9月24日 いしかわ教育総合研究所共同代表 半沢英一

小松市の育鵬社中学校歴史教科書再採択に抗議する

2020-09-25 20:53:52 | 2020年中学校教科書採択(全国)
小松市の育鵬社中学校歴史教科書再採択に抗議する

 小松市教育委員会教育長 石黒和彦殿

 いしかわ教育総合研究所は2015年以来小松市に対し、育鵬社の中学校歴史・公民教科書、日本教科書株式会社の中学校道徳教科書の劣悪性を指摘し、3教科書の再採択見送りを要望してきた。本2020年度の2021~2024年使用中学校教科書の採択において小松市は、公民において帝国書院、道徳において日本文教出版の教科書を採択し、問題2教科書の再採択を見送ったが、歴史においては育鵬社教科書を再採択した。

 すでに全国ニュースになっているが、神奈川県の横浜市と藤沢市、大阪市初め大阪府下の諸都市、愛媛県松山市、広島県呉市など、前回育鵬社教科書大手採択区のほとんどが再採択を見送り、育鵬社教科書の部数が10分の1ほどに激減する育鵬社採択の雪崩現象が今年度起こっている。これは育鵬社教科書の劣悪性が全国的に知られた結果と思われる。育鵬社の劣悪性は、直近の9月7日、同社公民教科書が滋賀県守山市の無料学習塾について当該団体に無断で掲載し、その記事も誤謬だらけなこと(「愛知県守山市」という間違いさえあった)を当該団体から抗議されたニュースなどによって、いまや日本の常識となりつつある。

 また日本教科書の道徳教科書も、差別に屈服することの奨励や、刑事訴追や社会的制裁などの脅迫に終始したいじめ防止の項など、あまりのひどさゆえであろうが、全国で採択区が栃木県大田原市、石川県の小松市と加賀市の3つだけだったことが話題になった。今年度においても大田原市と加賀市が再採択した他、千葉県の一部を除き新規採択区があったことをきかない。

 そのように貧しい知性が生んだ国家主義教科書が全国的に退潮する中で、小松市と金沢市が育鵬社歴史教科書を、加賀市が育鵬社歴史・公民教科書、日本教科書道徳教科書を再採したことは異様であり、全国から石川県3市の見識に対し奇異の眼差しが向けられている。当該教育委員会の見識と勇気の欠如を見越した、時代錯誤の国家主義教科書を採択させようとする勢力からの、懸命の働きかけが背後にあったことが推測できる。

 育鵬社が安倍前首相の肝いりで造られたことは周知のことだし、日本教科書も安倍前首相が推奨する「新しい教科書をつくる会」の流れで生まれた会社である。その安倍政権は先日、モリカケサクラカワイといった深刻なモラルハザードと、人口当たり新型コロナ死者数東アジアワースト上位、人口当たりPCR検査数世界159位、IT競争力世界23位(30年前1位)という「かつての先進国」状況を日本に残して終わった。このような日本の劣化は、ここ20数年にわたり(「新しい教科書をつくる会」発足は1997年)日本で時代錯誤の国家主義教科書を採択させることに、多大なエネルギーが費やされてきたことと無関係ではないであろう。

 国が劣化するときそれを是正するのは地域の義務であり、現実に全国多数の教育委員会は育鵬社教科書の再採択を見送ることで、その存在意義を示した。石川県の金沢、小松、加賀の3市は残念ながら時代錯誤の勢力に忖度し、人類の多難な未来を担う子どもたちへの神聖な義務を果たすことをしなかった。

 小松市が再採択した育鵬社歴史教科書の内容は、小松市が今回再採択を見送った育鵬社公民教科書や日本教科書道徳教科書と同様に劣悪なものである。

その劣悪性は、ネルーや孫文が日露戦争における日本の勝利に喜んだが、その後の日本に失望したと他社教科書が記述しているのに育鵬社教科書だけは触れないといった、植民地支配や侵略戦争を美化する近現代史部分に顕著である。のみならず、広隆寺弥勒菩薩像の紹介で、他社教科書が特筆する韓国国宝83号との酷似に触れないといったように、独善的日本讃美に充ちた古代中近世史部分にまで及んでいる。さらに育鵬社教科書の「目玉」神話部分にさえ、(神話と歴史と混同する愚かさとは別に)神武天皇を天孫ニニギの3代目(実は4代目、戦前なら不敬罪もの)とする無教養な間違いが見られる。

 小松市は育鵬社歴史教科書の採択理由に「我が国の歴史や伝統文化の特色について学ぶことができる」としているが、「我が国の歴史や伝統文化の特色について誤解することができる」の間違いではないかと反問せざるをえない。

 もちろん小松市教育委員会が育鵬社公民教科書と日本教科書道徳教科書の再採択を見送ったのは真っ当な判断であり、上に忖度するだけで何もできなかった金沢市や加賀市の教育委員会に比べればましだったことを認めるのにやぶさかではない。しかし、現にこれからの4年間この教科書を使わされる子どもたちのことを想うとき、残念ながら小松市の姿勢を評価することはできない。むしろ金沢市や加賀市の教育委員会に比べ多少の判断力を持つことが示せたわけだから、それを徹底する勇気を欠いたことが責められるべきであろう。

 いしかわ教育総合研究所は以上の観点にもとづき、育鵬社公民教科書と日本教科書道徳教科書の再採択を見送りながら、育鵬社歴史教科書の再採択見送りに踏み切れなかった小松市に抗議し、その見直しと採択のやり直しを強く求める。

2020年9月24日 いしかわ教育総合研究所共同代表 半沢英一


楠木正成・正行を主人公とするNHK大河ドラマ制作に反対する要望書

2020-09-25 20:43:11 | 大阪での教育破壊
大阪北摂地域からの新しい動きです。

河内長野市が中心となって「楠木正成・正行を主人公とするNHK大河ドラマを誘致する運動」がおこなわれています。このほど北摂で市民団体を立ち上げ、島本町をはじめとする大阪府で反対する声をあげることに踏み出しました。添付の「要望書」と資料はすでにNHK大阪放送局に届けました。大阪放送局から東京の制作局に伝えてもらい、文書での回答をもらえるように要望しています。

北摂での市民団体は基本的にはこれまで教科書運動をやってきた人たちが中心ですが、これまで島本町で「楠正成の顕彰」に疑問を持って調査活動をしてこられた市民も参加していただいての出発です。

大阪府で35自治体が参加し、維新の吉村知事と松井大阪市長が顧問です。全国では61自治体が参加しています。誘致協議会は幅広く作られており、観光とからんだ町おこしの起爆剤のように考えている自治体も多く、「楠正成親子」の史実と戦前の『修身』での利用のされ方はほぼ検証されていません。私たちの活動はそれに一石を投じるものです。

この問題は教科書問題と深くかかわっており、日本会議ら右派の皇国史観の流布を止めることは、非常に重要な意味を持っています。育鵬社歴史教科書ではすでに楠正成は天皇の「忠臣」とはっきり書かれています。その他の教科書ではそこまでではなく、「悪党勢力」とはっきり書いている教科書もありますが、神話の「神武天皇」が教科書改訂のたびに教科書で大きく扱われるようになっていったのと同様に、楠正成も状況次第では今後大きくなっていくかもしれません。教科書運動もそうですが、怪しい動きが見つかったら、すぐに芽を摘むことが重要だと考えます。

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2020年9月22日
日本放送協会
NHK大阪放送局 広報部 担当者 様
NHK東京放送局 大河ドラマ制作担当者 様 
                
楠木正成・正行を主人公とするNHK大河ドラマ制作を考える会
                                   

楠木正成・正行を主人公とするNHK大河ドラマ制作に反対する要望書

私たちは日本国憲法にもとづく人権・平和・共生の理念を大切にした教科書を子どもたちに渡したい、と活動している大阪府内自治体の市民です。
 
2018年4月、楠木正成・正行にゆかりのある地の自治体が連携し、NHK大河ドラマ誘致に向け「楠公さん」大河ドラマ誘致協議会(大阪府河内長野市事務局)が発足しました。河内長野市長が会長、副会長には富田林市、四條畷市、千早赤阪村、高石市、島本町の首長が就任しています。2020年7月現在では大阪府内の35自治体を含み全国で61自治体が協議会に加盟して、NHK大河ドラマ誘致活動を行っています。(資料1参照) 
 
楠木正成については鎌倉末期から南北朝時代に後醍醐天皇に尽くした武士として軍記物語『太平記』に記されています。近世には尊王思想が隆盛する中で楠木正成を顕彰する「楠公祭」なども行われ始めました。近代は国体論と結びつき楠木正成は国民的英雄とされ、楠公祭は全国各地に広がり、日中戦争前後には盛大に催されています。
後醍醐天皇の建武の新政(1333年)に反旗を翻した足利尊氏との合戦に湊川に向かう前、楠木正成は最後の合戦と覚悟し、途中の「桜井の宿(しゅく)」で息子の正行に「忠義を貫け」と遺訓を与えたという「桜井の別れ」が有名です。その舞台とされた「桜井駅」(大阪府島本町)は歴史的に確定されていないにもかかわらず、1921年に国の史跡に指定されました。史実より「忠孝」「忠臣」という国民道徳を優先し、史跡桜井駅跡一帯は戦争中、戦意高揚のために「楠公精神」の教育の場となりました。史跡は拡大整備されて、巨大な乃木希典陸軍大将揮毫の「楠公父子決別之所」碑、東郷平八郎海軍大将揮毫の「明治天皇御製」碑も建てられました。整備には小学校・中学校・高等女学校の生徒が「勤労奉仕」も行い、戦争が激化するとともに大人のみならず、大阪や京都の子どもたちは学校から参拝に来ました。
楠木正成と正行親子は明治期からアジア・太平洋戦争の敗戦まで、天皇に忠義を尽くす「教育勅語」の教えを体現するシンボルとしてたたえられ、「忠臣」を育成するために『国史』『修身』で最も重要な教材でした。1941年から国民学校で使用された教科書『初等科国史』の最後は、靖国神社の絵とともに「正行のやうな、立派な臣民となり、天皇陛下の御ために、おつくし申しあげなければなりません。」で締めくくられ、正行は天皇に忠義を尽くす皇国臣民の鏡とされました。
子どもたちを戦争に導く楠公精神教育については、戦中の大阪府島本町の島本国民学校教育の歴史(資料2参照)が証明しています。

おりしも2021年度使用中学校教科書の採択対象となった育鵬社歴史教科書は、史実より神話を重視し、戦争を美化する教科書として特徴的です。楠木正成については、肖像画入りのコラムで「後醍醐天皇のために戦い続けたことから、のちに「忠臣」とたたえられた」との記述があり、他社の教科書記述(「悪党勢力」など)と比較しても特異です。

 先の大河ドラマ誘致協議会の加盟自治体は楠木正成・正行にゆかりがあるということで、「観光」や「活用」をうたい地域おこしに役立てようとしています。史実より物語を優先する誘致活動姿勢は学問や歴史、文化財が商品化され、戦後の歴史研究の到達点をないがしろにし、普遍性のない内向きのナショナリズムをもたらす危険性があります。憲法にもとづく自治体運営を行うべき自治体として、子どもたちを戦争に導く楠公精神を是とした戦前の教育を検証することなく、「楠公さん」大河ドラマ誘致を行う協議会に疑問をもちます。

よって、貴NHKにおかれましては、要望の内容を十分ご検討いただき、楠木正成を主人公とするNHK大河ドラマの制作を行わないよう、強く要望いたします。





全国各地で育鵬社が惨敗!21年間の教科書運動の歴史的勝利!

2020-09-19 17:40:43 | 2020年度中学校教科書採択(大阪)
全国各地で育鵬社が惨敗!21年間の教科書運動の歴史的勝利!

                        伊賀正浩(子どもたちに渡すな!あぶない教科書大阪の会)

 2020年中学校教科書運動は全国の市民によって歴史的勝利を闘い取りました。ほぼ全国の採択結果が出そろい、育鵬社の採択率は、歴史で1%以下、公民では何と0.5%以下になることが予想されます。前回の2015年採択時(歴史:約6.2%、公民:約5.7%)からの大幅削減です。この結果を全国の教科書運動に取り組んだ人々とともに大いに喜びたいと思います。今回の育鵬社の敗北を、教科書からの撤退に追い込む決定的な打撃にしていきたいと思います。

全国の市民の力で勝ち取った不採択

 今年の教科書運動の最大の特徴は、これまで採択されていた地域で育鵬社を不採択に追い込んだことです。
 横浜市は、2009年の「中田市長-今田教育長」体制での政治介入による採択から11年、教科書採択に学校・教員の意見を反映させることを求める請願や署名運動を取り組み、教員アンケートの実施など、制度改善を実現してきました。その結果、全国最大の採択区で育鵬社を不採択にしました。2011年から育鵬社を使用している藤沢市では、育鵬社の使用状況についての教員アンケートを実施し、「考える力が育たない」「入試に不利」など、現場教員が困っている様子を浮き彫りにしました。現場教員と連携した市民の力で育鵬社を阻止したのでした。呉市では、不正に育鵬社の評価を上げた選定資料の問題を粘り強く呉教科書裁判で追及したことが大きな成果を生みました。私たち大阪の運動は、これらの採択された地域での粘り強い運動に学び、大いに刺激を受けてきました。
 今年の採択で右派の動きが目立ったのが名古屋市でした。名古屋の右派の特徴は、河村市長と日本会議による「表現の不自由展・その後」展示への攻撃、大村知事リコール運動が、育鵬社採択運動を行ったことです。343通の「市民の声」では、育鵬社の賛否が半々にまでなっていました。7月29日の教育委員会議では、歴史・公民だけ継続審議になりました。特に、歴史では2名(5名中)の教育委員が育鵬社を支持し、育鵬社採択の危険性がありました。名古屋の市民運動から緊急の呼びかけがあり、名古屋市教委へ育鵬社反対の声が届けられ、8月7日の教育委員会では「逆転不採択」を勝ち取ったのでした。大阪には泉佐野市、東大阪市、大阪市の採択が控えていたときだけに、私たちは名古屋の市民の皆さんに大変勇気づけられました。
 2001年、初めて「新しい歴史教科書をつくる会」(以下、「つくる会」)が参入して以降、一貫して「つくる会」系教科書(扶桑社→育鵬社)を採択していた東京都教委と愛媛県教委が不採択にしたことは育鵬社の破綻を示す象徴的出来事でした。2000年代は、東京都石原知事と愛媛県加戸知事の政治介入によって、都道府県教委で「つくる会」系教科書を採択してきました。2015年には、愛媛県では松山市、四国中央市、新居浜市、上島町へ、東京都では武蔵村山市、小笠原村へと採択が広がりましたが、今年は東京都と愛媛県の全ての採択区で育鵬社を一掃したのでした。育鵬社・「つくる会」は、右派系首長の支持を取り付け、まずは都道府県教委での採択を進め、それを市町村教委に広げることを目論んでいましたが、両知事が退場した今、完全に破綻したのでした。
 今年の採択では、都道府県レベルで宮城県教委、埼玉県教委、千葉県教委、山口県教委、福岡県教委で育鵬社を採択しましたが、市町村教委採択は減少しました。ただし、石川県(金沢市・小松市・加賀市)と、安倍元首相の地元である山口県(岩国市・和木町・下関市)をはじめ、栃木県大田原市、大阪府泉佐野市、沖縄県石垣市・与那国町で採択しており、今後全国的な連携した取り組みが重要になっています。
 
大阪でも育鵬社が大きく後退

 大阪は、2015年に5市で育鵬社の採択を許し、育鵬社の全国採択率の約30~40%が大阪での採択となっていました。育鵬社の採択率を押し上げた主要な要因が大阪での大量採択でした。大阪での市民運動は、この悔しさをバネに採択直後から運動を継続してきました。とりわけ、今年に入ってからは、大阪府内43市町村教委に要望書・公開質問書などを何度も提出し、情報収集・分析を行い、育鵬社批判を続けてきました。大阪では、教育再生首長会議に7名が参加していることから、「首長会議」の情報を逐一情報公開請求で入手し、監視を続けました。3月には、右派の首長や教育委員会への働きかけを調査するために公開質問状を出しました。その結果、忠岡町や和泉市など大阪府南部地域で八木秀次氏が首長訪問していることを突き止め、その不当性を広く訴えました。4月以降は、教科書採択制度の透明化、民主化を求める公開質問書、育鵬社の不採択を求める要望書を提出しました。採択直前まで写真の無断掲載など子どもの人権を侵害する記述があることを教育委員会に伝え続けました。また、市民へは教科書展示会に出かけ、育鵬社教科書を実際に手に取り、感じた問題をアンケートに書き込んでもらうように呼びかけました。
 2011年に大阪で初めて育鵬社公民を採択した東大阪では、2015年採択での野田市長の政治介入による採択を市議会を通じて徹底して追及する活動を続けました。野田市長は、教育再生首長会議の2代目会長です。「首長会議」は、首長主導で育鵬社、日本教科書の採択を進める団体であり、事務局を日本教育再生機構においていました。首長が公金から支払った会費の一部が、日本教育再生機構に事務局委託金として流用されていることが明らかとなりました。東大阪の市民運動は、特定の教科書採択を進める団体への不当な公金の支出に対して、住民監査請求を行い不正を問題にしました。市役所前でのチラシ配り、市議会での追及、市民集会の開催など、オール東大阪の力で、育鵬社を不採択にしたのでした。
 大阪市は、2015年に1採択地区化した中で育鵬社を採択しました。採択直後からフジ住宅による教科書アンケート水増し事件を暴き出し、市議会での追及や外部観察チームによる調査を実現させました。調査報告書では、教育委員が選定委員会の答申を無視して採択を行っていた実態や秘密会で事実上の採択を行っていたこと、公開の教育委員会議はシナリオにそった茶番劇であることを明らかにしました。その結果、大阪市の採択区の4分割化を実現し、選定委員会答申や学校調査で「より現場の意見に即した教科書採択」にするために「特に優れている点」「特に工夫・配慮を要する点」を明示させることができました。その結果、これまで以上に教員の意見を採択に反映させることができました。採択の教育委員会の傍聴も希望者全員(89名)を認めさせ、YouTubeによる全国配信も実現しました。大阪市の教育委員会議は、4分割化された選定委員会「地区部会」答申をもとに「一押し」の教科書が報告され、それが「原案」となりそのまま採択されました。今回、選定委員会の「一押し」に育鵬社は入っていなかったが、選定委員には、市長が任命した区長が教育次長として入っています。政治介入のルートが公然と残されています。今後、採択への区長の関与をなくすように取り組みを進めたいと思います。
 四条畷市では維新系市長が交代し、河内長野市でも育鵬社を推進していた市長と教育長が交代しました。市民が継続的に教育委員会への要請を続け、政治介入による採択を阻んだのでした。
 今後は、大阪府内で唯一育鵬社公民を採択した泉佐野市への抗議を強めることが課題です。歴史は選定審議会答申通り育鵬社を不採択にしましたが、公民の審議は異様でした。選定審議会答申では、育鵬社は最下位の6位評価で、教育委員会議の中でも選定審議会から「東書の方が育鵬社よりわかりやすい」との意見が出ても、最終的には4対2で育鵬社採択となったのです。今回も公正な審議をせず、政治介入による採択を行ったのではないかと思われます。

右派を封じ込めた運動の力

 この21年間、全国の教科書運動が継続してきた中で、右派の動きは2015年以降、急速に衰えていきました。2001年以降、「つくる会」系教科書は少しずつ採択率を伸ばし、2015年には育鵬社が約6%の採択率を確保するところまでいったものの、教科書の採算ラインである10%には届きませんでした。右派教科書運動のピークは2015年だったと思われます。
 日本教育再生機構は、機関誌「教育再生」を2016年を最後に発行できなくなり、いつの間にかHP、連絡先も消え、表だった動きはなくなりました。歴史・公民に続いて発行を目論んでいた道徳教科書も育鵬社から出すことができず、嫌韓本やヘイト本を出している出版社とつながる日本教科書からしか発行できませんでした。その日本教科書も2019年の中学校道徳採択では大惨敗でした。
 そして今年の新型コロナ感染拡大中で、安倍首相と萩生田文科相は、全国の学校一斉休校の強行と学校再開での現場任せ、「9月入学」を巡る方針のブレ等により、厳しい批判にさらされ身動きがとれませんでした。
 育鵬社を大量採択し、今も「維新」の影響力が強い大阪では、2015年の採択以降、大阪市でのフジ住宅の教科書アンケート水増し事件の追及、森友疑惑の徹底追及によって、草の根右翼、企業右翼の動きを封じることができました。かろうじて活動をつづけていた日本教育再生機構大阪も、中学校教科書採択の直前である昨年11月に解散していました。若手地方議員や青年会議所を中心に活動していた龍馬プロジェクトの神谷宗幣会長は、この7月、活動拠点を大阪から石川県に移さざるを得ませんでした。大阪府内で右派が教科書展示会に動員をかけた形跡は見られませんでした。モラロジー研究会が主催する教員向け道徳教育研究会も、私たちの批判を受けて、教育委員会後援を撤回し、教育委員会から来賓・講師参加を見送るケースが増えてきました。今年は、新型コロナの影響もあり、大阪での開催はゼロでした。これらは、大阪で地元に根を張った運動を継続してきたことの成果です。
 
育鵬社は教科書出版から退場を!

 新学習指導要領と教科書検定基準の改悪によって、全ての教科書の右傾化は進んできました。確かに、領土問題では全社横並びで政府見解を書かせるようになってきましたが、歴史認識や戦争賛美、日本国憲法の歪曲、改憲誘導などの記述で育鵬社は突出しています。安倍政権の広報誌そのものでした。今回、育鵬社を全国で不採択に追い込んだ意義は計り知れません。
 今後、大阪では各地で育鵬社を不採択に追い込んだ要因を分析し、教訓を共有することを進めたいと思います。各地で採択過程の情報公開を行い、勝利を打ち固める取り組みを進めたいと思います。そして、採択された泉佐野市への抗議の取り組みを開始したいと思います。

 2020年12月12日(土)18:30 エル大阪南館ホールで、今年の採択を振り返る全国集会を行います。ぜひとも、ご参加ください。


金沢市の育鵬社中学校歴史教科書再採択に抗議し採択のやり直しを求める声明

2020-09-10 19:45:13 | 2020年中学校教科書採択(全国)
金沢市の育鵬社中学校歴史教科書再採択に抗議し採択のやり直しを求める声明

 すでにニュースになっているように、横浜市や大阪府下の大阪市他各市など育鵬社教科書大手採択区のほとんどがその再採択を見送り、育鵬社教科書採択区の崩壊が本2020年に起っている。これは育鵬社教科書の劣悪性が全国の市民に広く認知されるようになった結果である。その中で金沢市が少数になった再採択区として残り、全国からその見識に対し奇異の目を向けられる事態に立ち至ったことは、深く遺憾である。
 育鵬社歴史教科書の劣悪性は、植民地支配や侵略戦争の史実を無視した近現代史部分のみならず、独善的日本讃美に充ちた古代中近世史部分にまで及んでいる。さらに育鵬社教科書の「目玉」神話部分にさえ、神話と歴史と混同する愚かさとは別に、神武天皇を天孫ニニギの3代目(実は4代目)とする無教養な間違いが見られる(今回展示本でも未修正)。金沢市は採択理由を「伝統や文化を尊重する態度、道徳性を養える」とするが、「伝統や文化の尊重」とは「無教養に開き直り自己陶酔する」ことかと反問せざるをえない。
 そもそも歴史教科書は「道徳性を養う」ためにあるのではない。さらに育鵬社が安倍前首相肝いりで造られた会社であるのは周知のことだが、その安倍政権は先日「モリカケサクラカワイ」といった深刻なモラルハザードを日本に残し終わった。「無教養に開き直り自己陶酔する」ことに終始すれば、道徳性は逆に破壊されることを現実が語っている。
 新型コロナウィルスによるパンデミックで防疫と教育の関係が浮かび上がっている。ヨーロッパの成功国ドイツは自国の加害責任を教科書で教えているし、世界別格の成功国・台湾の立役者の一人、天才IT担当大臣唐鳳氏は、台湾が競争に依拠した教育を止め、個人の教養を育てる教育に切り変えたと語っている。一方、日本は人口当たり死者数東アジア・ワースト上位、人口当たりPCR検査数世界159位、IT競争力ランキング世界23位(30年前は1位)という劣化状況を呈している。これは「無教養に開き直り自己陶酔する」教科書の採択に、多大な労力が注がれてきたことと無関係ではないであろう。
 育鵬社教科書の劣勢に焦った政治勢力が、抵抗力が弱いと踏んだ金沢市の再採択を死守すべく懸命の努力をしたであろうことは、調査研究報告書の評価数値が3位だった育鵬社が採択された不透明な経過からも推測できる。国が劣化したとき、劣化を是正するのは地域の義務であり、現実に全国多数の教育委員会は、前回採択区も含め育鵬社教科書を採択しないことでその存在意義を示した。しかし金沢市教育委員会は「伝統や文化を尊重する態度、道徳性を養える」という笑止の賛辞を、育鵬社教科書に捧げることしかできなかった。
 いしかわ教育総合研究所は、金沢市教育委員会が今回劣悪な育鵬社歴史教科書の再採択を断行したことを、金沢市の名誉を損ない、人類の多難な未来を担う子どもたちへの神聖な義務を放棄したものとみなし、抗議し猛省を求めるとともに、今回の再採択を撤回し、採択のやり直しを行うことを強く求める。

2020年9月8日 
いしかわ教育総合研究所共同代表 半沢英一