子どもたちに渡すな!あぶない教科書 大阪の会

大阪で教科書問題にとり組む市民運動の交流ブログ

大阪市教委へ、モラロジー研究所主催「第56回道徳教育研究会」の「後援」の撤回を求める要求書

2019-04-29 08:42:39 | 大阪市の教科書問題
今年もモラロジー研究会は、全国で「道徳教育の新たな充実をめざして」をテーマに「第56回道徳教育研究会」を開催します。その中で、大阪市では、今年の採択期間中に中央区開催では、東京書籍の小学校道徳教科書の執筆者である押谷由夫氏(武庫川女子大学教授)が、東淀川区では日本文教出版の小学校道徳教科書の執筆者である服部敬一氏(大阪成蹊大学教授)が、それぞれ講師になっています。
これらは教科書採択の公正性、行政の中立性の原則に反します。
私たちは、大阪市教委に「後援」の撤回を求める要求書を提出しました。

■大阪市教委へのモラロジー研究所主催「第56回道徳教育研究会」の「後援」の撤回を求める要求書

子どもたちに渡すな!あぶない教科書 大阪の会

 今年、公益財団法人モラロジー研究所は、「道徳教育の新たな充実をめざして」をテーマに「第56回道徳教育研究会」を全国82カ所(4月1日現在)で開催し、大阪市内では6月26日に中央区、6月27日に東淀川区で行い、現場の教員に参加を呼びかけています。同研究会は大阪市と大阪市教育委員会が「後援」までおこなっています。
 大阪市中央区・東淀川区での開催は、どちらも今年度採択対象となっている道徳教科書の執筆編集者が講師を務めることになっています。中央区では、東京書籍の小学校道徳教科書の執筆者である押谷由夫氏(武庫川女子大学教授)が、東淀川区では日本文教出版の小学校道徳教科書の執筆者である服部敬一氏(大阪成蹊大学教授)が、それぞれ講師になっています。
 2つの研究会は、小学校教科書採択の時期であり、ちょうど選定委員会や調査委員会、現場教員による教科書の調査研究の真っ最中です。そのような時期に、特定の採択対象教科書の執筆者が講師を務める研究会を教育委員会が「後援」することは、特定の教科書会社への便宜供与そのものであり、教科書採択の公正性、行政の中立性の原則に反します。
 大阪市と大阪市教育委員会は、以下の要求内容に対して速やかに文書回答するよう求めます。

<要求内容>

1.大阪市と大阪市教育委員会は、モラロジー研究会「第56回道徳教育研究会」への「後援」を取り消してください。

2.同研究会において、大阪市教育委員会(部署)の肩書きで来賓として参加したり、「あいさつ」を行ったりしないでください。
以上

■今年のモラロジー研究会の「第56回道徳教育研究会」の予定を以下にお知らせします。今年の採択関係者(教科書執筆者、教育委員会など)が講師となっている地域では、教育委員会の関与について調査してください。教育委員会が「後援」している場合や、来賓として参加している場合、来賓あいさつする場合、講師になっている場合などいろいろあります。
教育委員会の関与の実態を明らかにし、関与してい場合は、撤回と抗議を呼びかけてください。

■今年度のモラロジー研究会主催の「第56回道徳教育研究会」の予定(2019年4月1日現在)
https://www.data-box.jp/pdir/724f4249ee7d406baaf3a13b92f98fdc









教科用図書採択の4採択区化にともなう採択制度の改善を求める要望・質問書

2019-04-27 22:14:40 | 大阪市の教科書問題
4月23日、大阪市教育委員会議において非公開で「平成32年度使用教科用図書の採択について」が審議されています。
おそらく4採択地区化に伴う採択制度の変更について審議したものと思われます。
採択制度の変更は、教科書採択にとって極めて重要な情報であり、教科書採択の公平性、透明性を確保するためにも、審議内容の公開は極めて重要です。
しかし、今回非公開で審議し、市民にオープンにしませんでした。これは重大な問題です。
私たちは、非公開審議が行われることが分かった時点で、改めて要望・質問書を提出しました。

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2019年4月21日
大阪市教育委員会 山本晋次教育長 様

2020年度使用教科用図書採択の4採択区化にともなう採択制度の改善を求める要望・質問書

子どもたちに渡すな!あぶない教科書 大阪の会

 12月25日、貴教育委員会は、教育委員会議において来年度の小学校教科書採択から、採択地区を現在の全市1区から4区に複数化することを決めました。2月21日には、大阪府教育委員会で正式決定されたとおろです。
 1月7日、私たちは、貴教育委員会に「2020年度使用教科用図書採択の4採択区化についての要望・質問書」を提出し、2月18日にはその回答を頂きました。しかし、私たちが詳しく採択制度の改善を求めていたにもかかわらず、貴教委は「公正かつ適正な採択となるよう進める」「一層充実したものになるよう務める」等、極めて一般論による回答になっていおり、納得のできる内容ではありませんでした。
 しかし、貴教委では、昨年10月2日の教育委員会議で「採択の仕組み(案)」や「委員会・調査会などの業務(案)」の審議を非公開で行っていました。私たちが会議録の公開を求めたところ、貴教委は「今後会議録を作成し、順次HPにおいて公開する予定」(2018年12月18日)と回答しているが、7ヶ月たった現時点でも公開されていません。また今4月23日の教育委員会議でも「平成32年度使用教科用図書の採択について」も非公開で審議を行うとしています。4採択地区化に伴う採択制度の変更について、市民にオープンにすることなく秘密裏に審議をしています。
 山本教育長は、市会で採択された教科書採択方式の3点の改善に関する陳情書や大阪市外部監察チームの報告書を踏まえて、何度も「オープンな場での議論」を表明していたににもかかわらず、採択制度の変更に関わる審議を非公開にしたままです。
 貴教委は、今年度からの採択制度に関して「ブロックごとに教科用図書の調査研究を行うことで、より現場の意見に即した教科書採択事務を進めることができる」としました。ならば、「より現場の意見に即した教科書採択事務」を進めるため、選定委員会や専門調査委員会の制度改善はもとより、学校調査の中で「現場の意見」をこれまで以上に吸い上げ、ブロックごとに地域・学校の特色を出すことが決定的に重要です。
 私たちは、これらの重要な制度変更に関して、以下のの要望を受け止め制度化に活かしていくことを求めます。また、審議の過程を市民に公開することを求めます。貴教委は、5月の教育委員会議において具体的な教科書採択制度について決定していく可能性があります。それを踏まえて、早急な回答と「協議」の場の設定を求めます。

要望及び質問

(1)貴教委は、「ブロックごとに教科用図書の調査研究を行うことで、より現場の意見に即した教科書採択事務を進めることができる」と採択区の複数化の理由を表明しました。しかし、採択区を複数化するだけでは「より現場に即した」採択を進めることはできません。複数化とあわせて、それぞれのブロックでの採択手続きを改善していくことが重要です。
 それぞれのブロックにおいて、「より現場の意見に即した教科書採択事務を進める」ためにどのような採択手続きの改善を図ろうとしているか、具体的に示してください。また、教育委員からどのような意見がでているかも教えてください。

(2)私たちは、ブロックごとに現場の意見を吸収するためには、ブロックごとに選定委員会・専門調査委員会を設置することは必要不可欠だと考えます。
 ブロックごとに選定委員会・専門調査委員会を設置する予定であるかどうか教えてください。

(3)「より現場の意見に即した教科書採択事務を進める」ためには、現行の学校調査のやり方を改善していくことが決定的に重要です。現行の採択制度の「学校調査」において「特に優れている点」に◎、「工夫や配慮を要する点」に△をつけて記述するようになっていますが、◎、△が明確でない「学校調査」もあり、学校の意見が十分に示されているとは言えません。しかも「学校調査結果(集約)」においても、「特に優れている点」や「工夫や配慮を要する点」が記述されていますが、発行者間で記述項目に差が出ないようになっており、いっそう学校の意見は不明瞭になっています。
 これらの現状を踏まえるならば、学校調査は各学校の希望する教科書をより明確に示す調査方法にすることを求めます。
 貴教委での審議状況と見解を聞かせてください。

(4)「専門調査委員会調査結果」を作成する際の記入例の中には、「発行者間で○印の数が大きく差が出ないようにします。」とあり、「調査結果」において発行者間で差が出ないように意図的な指示を行っています。現場の意見に即した採択を行うためには、上記の指示は削除すべきです。
 貴教委のお考えを聞かせてください。

(5)「専門調査委員会調査結果」の「総評」には、概ね3文構成で、「特に優れている点」の中から顕著なものを記述しているだけであり、発行者ごとの違いが明確になっていません。発行者ごとの違いが明確になるような記述の仕方に改善するように求めます。
 貴教委のお考えを聞かせてください。

(6)私たちは、今年度の採択制度・採択方針を決定する教育委員会議までに、そこに到る審議状況の公開を求めます。具体的には2018年10月2日、10月30日、2019年4月23日の教育委員会議での配付資料と会議録の公開を求めます。そうでなければ、外部観察チーム報告書でも批判された実質審議を秘密会で行い、結論だけを公開の場で行うという市民無視の姿勢に逆戻りすることに他なりません。
以上

6.1「愛国」「自己犠牲」「ルールへの従属」 これでいいのか!?より良い教科書を子どもたちに!全国集会

2019-04-21 10:15:35 | 集会案内
集会案内です。ぜひ、ご参加ください。

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2019年小学校教科書採択
「愛国」「自己犠牲」「ルールへの従属」 これでいいのか!?
より良い教科書を子どもたちに!全国集会

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■日時 6月1日(土)13:30 開場13:00
■場所 エルおおさか 6階大会議室
■内容 
 ◆検定結果と小学校教科書の問題点(パワーポイント)
 ◆公正な教科書採択を歪める教育再生首長会議との闘い―東大阪からの報告、他
 ◆各地からの報告
 ◆方針提起―採択制度の民主化、学校現場の意見の反映のための取り組みを!
■資料代:800円(学生・しょうがい者無料)
■主催 「戦争教科書」はいらない!大阪連絡会
■問い合わせ mailto:iga@mue.biglobe.ne.jp

<呼びかけ>
社会科―領土問題で日本側の一方的な主張を記述 

文科省は全社に「北方領土」「竹島」「尖閣諸島」は「日本固有の領土」、「北方土」「竹島」はロシア、韓国が「不法に占拠」、「尖閣諸島」には「領土題は存在しい」と書かせました。しかし、これら三つの領土問題は、かっての日本の侵略戦と深く関わっています。それを教えず、また相手国の主張も教えずに日本側の主だけを教えれば、相手国への反感を煽ることにしかなりません。領土問題は戦争きっかけにもなりやすく、このような一方的な教え方は非常に危険です。
 小学校社会科には「つくる会」系教科書はありませんが、東京書籍は平和主義ページに憲法9条がなく、逆に「日本の平和と安全を守っている」と自衛隊を強し、「改憲議論を呼びかける安倍首相」の写真まで掲載しました。福島原発事故にいても「復興」を強調し、安倍政権の期待にもっとも応える教科書です。

道徳は再び採択替え

(1)各社が批判を浴びた教材を削除―市民の意見が反映
 教育出版は5年「下町ボブスレー」(安倍首相の写真掲載)、2年「れいぎ正しいいさつ」(お辞儀が先か言葉が先か)を削除し、東京書籍は1年「にちようびのさぽみち」(パン屋を和菓子屋に)、4年「しょうぼうだんのおじいさん」(おじさんおじいさんに)を削除しました。
 これらは2年前に私たちが厳しく批判した教材です。他方、私たちが良い教材評価した「子どもの権利条約」や「世界人権宣言」などが、光村図書以外にも掲されました。市民の意見・世論の関心が教科書会社に一定の影響を与えた結果です。

(2)教育出版―礼儀重視、偉人伝、日本自慢の多さは相変わらず突出
 貝塚茂樹氏ら日本会議系が作成した教育出版に「愛国主義」教材が多いのは変りません。偉人伝もさらに増えました。皇室と伝統文化のかかわりを強調し、子もたちに天皇への親しみを持たせようともしています。

権力に忠実な国民づくり・戦争をする国の「愛国兵士」づくりのための教科書はいらない! 
 
教科書をめぐる状況は今、安倍長期政権、日本会議などの右派とのせめぎあい中にあります。その中で、大阪市では採択区の細分化も実現させました。少しでましな教科書を採択させるために市民の力がますます必要です。6月1日(土)の国集会に多くの皆さんが参加して、各地でどう取り組むかをいっしょに考えてくさい。
 



2020年度使用、小学校教科書の検定結果について、私たちの見解(その1)社会科「北方領土」、「竹島」、「尖閣諸島」の領土記述について

2019-04-01 21:27:59 | 2019年教科書採択
小学校教科書検定結果について、今後検討を進め、随時私たちの見解を出していきます。
まず1回目は、社会科「北方領土」、「竹島」、「尖閣諸島」の領土記述についてです。
ご参考にしてください。

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2020年度使用、小学校教科書の検定結果について、私たちの見解
(その1)社会科「北方領土」、「竹島」、「尖閣諸島」の領土記述について

2019 年 3 月 29 日
子どもたちに渡すな!あぶない教科書大阪の会

3月26日、文部科学省は2020年度から使用する小学校教科書の検定結果を発表した。2017年に改訂された「新学習指導要領」にもとづいて作成された今回の教科書に対して、文科省は学習指導要領に忠実に記述するように、細かい検定意見を付けて教科書会社に修正させた。以下、まず社会科の「領土問題」に絞って、その問題点を指摘したい。他の問題についても、今後私たちの見解を随時発表する予定である。

社会科教科書は今回、光村図書が発行せず、東京書籍、日本文教出版、教育出版の3社が発行した。各社ともに5年生、6年生で「領土問題」を記述しているが、このうち「北方領土」、「竹島」、「尖閣諸島」を一貫して「日本固有の領土」と記述したのは東京書籍のみで、日本文教出版と教育出版は「日本の領土」という記述と「日本固有の領土」という記述が混在していた。

これに対して文科省は「児童が誤解するおそれのある表現である(『日本の領土』)」という検定意見をつけて、「日本の領土」を「日本固有の領土」に修正させた。これは「新学習指導要領社会5年」の「内容の取扱い」において、「『領土の範囲』については、竹島や北方領土、尖閣諸島が我が国の固有の領土であることに触れること」と、新しく明記されたことにもとづく。

また、東京書籍5年の竹島に関する記述に対して、「児童が誤解するおそれのある表現である(竹島に対する我が国の立場を踏まえた現況について誤解する)」という検定意見をつけ、「日本海上にある竹島は、日本固有の領土ですが、韓国が不法に占領しています」という元の記述に、「日本は抗議を続けています」を付け加えさせた。尖閣諸島についても同様に「児童が誤解するおそれのある表現である(尖閣諸島の支配の現況について誤解する)」という検定意見をつけ、「東シナ海にある尖閣諸島は、日本固有の領土ですが、中国がその領有を主張しています」という元の記述に、「領土問題は存在しません」を付け加えさせた。

教育出版5年の尖閣諸島に関する記述に対しては、「領土をめぐる問題」という記述を「領土問題」と修正させたり、「中国が自国の領土であると主張しています」という記述を、「国としての適切な管理をこれまで続けているにもかかわらず、中国が自国の領土であると主張しています」と修正させた。

これらの検定意見は5年の「新学習指導要領・解説」において、次のような実に細かい具体的な指示がなされていることにもとづく。

「領土の範囲について指導する際には、竹島や北方領土(歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島)、尖閣諸島は一度も他の国の領土になったことがない領土という意味で我が国の固有の領土であることなどに触れて説明することが大切である。また、竹島や北方領土の問題については、我が国の固有の領土であるが現在大韓民国やロシア連邦によって不法に占拠されていることや、我が国は竹島について大韓民国に繰り返し抗議を行っていること、北方領土についてロシア連邦にその返還を求めていることなどについて触れるようにする。さらに、尖閣諸島については、我が国が現に有効に支配する固有の領土であり、領土問題は存在しないことに触れるようにする。その際、これら我が国の立場は、歴史的にも国際法上も正当であることに踏まえて指導するようにする。」

2008年に改訂された前学習指導要領社会5年では、そもそも「学習指導要領」そのものには領土問題に関する具体的な記述はなかった。ただ「解説」において、「領土については、北方領土の問題についても取り上げ、我が国固有の領土である、歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島が現在ロシア連邦によって不法に占拠されていることや、我が国はその返還を求めていることなどについて触れるようにする」と、北方領土を「我が国固有の領土」と定義し、「不法に占拠されている」と踏み込んだのであった。これは第一次安倍政権が2006年に「教育基本法」を改悪し、「愛国心」を盛り込んだことにもとづいて行われたものである。

2012年末に復活した安倍政権は、2015年には「道徳」を正式に教科化し、2017年には「小学校学習指導要領」を改訂し、竹島や尖閣諸島も「我が国の固有の領土」と定義し、先に見たように「解説」ではどのように記述すべきかを具体的に指示した。この「解説」にのっとって、各社は「日本固有の領土」とか、韓国・ロシアが「不法占拠」とか、尖閣諸島に「領土問題はない」と積極的に記述したのであったが、それでも文科省は部分的に不十分な記述があるのを見つけ出し、徹底的に修正させたのである。

しかし、各社が竹島や尖閣諸島まで「日本固有の領土」とか、竹島を「不法占拠」とかと記述するのは今回が初めてのことではない。すでに現行の小学校教科書はそのように記述している。北方領土にしか強制されていないにもかかわらず、各社は自ら新学習指導要領を先取りして記述を変えてきた。まさしく“忖度”したのである。だがそれは安倍政権とその背後にいる日本会議などの右派勢力が、陰に陽に教科書出版社に“圧力”をかけた結果なのだ。

そもそも、「新学習指導要領」ですら、「領土問題」に関する記述を求めているのは5年であって、6年では直接の言及はない。にもかかわらず3社全てが5年、6年ともに記述している。これは中学校の教科書でも同じ傾向である。もともとは「地理的分野」でしか「領土問題」については記述しなくてもよいにもかかわらず、2014年に「学習指導要領・解説」が一部改訂されたことを受けて、「公民的分野」はもちろんのこと、いくつかの出版社は「歴史的分野」でも積極的に記述し、「固有の領土」たる所以を補強したり、かっての住民の郷愁を紹介し、情緒的な共感を呼ぼうとしているのである。どれだけの“圧力”があるのかが推測されるが、同時に「どこまで迎合するのか。それでよいのか」と出版社には問わねばならないだろう。

「領土問題」は実効支配している方が有利である。日本政府はロシアが実効支配している北方領土と、韓国が実効支配している竹島には「領土問題がある」と主張し、日本が実効支配している尖閣諸島には「領土問題はない」としているが、これはダブルスタンダードあり、とうてい国際社会を納得させうるものではない。

三つの「領土問題」には歴史的背景があり、いずれも日本の侵略戦争と深く結びついている。日本が尖閣諸島の領有を宣言したのは日清戦争の、竹島領有を宣言したのは日露戦争の過程であり、日本側に有利な戦況の中で一方的に領有を宣言したのであった。北方領土は日本がポツダム宣言を早期に受け入れていれば、ソ連に占領されることもなかった。

このような歴史的背景を教えることなく、相手国の主張を紹介することもなく、日本側の主張だけを一方的に教えるのは極めて危険である。「領土問題」は双方の国民のナショナリズムを刺激しやすく、開戦のきっかけにもなりやすい。にもかかわらず、安倍政権は「領土問題」を煽り、子どもに相手国への反感を刷り込もうとしているのだ。

これは、かっての日本の侵略戦争にともなって起こった日本軍「慰安婦」問題も、強制連行問題も、南京虐殺問題も、「日本には責任がない」、したがって謝罪も、賠償も、語り継ぐ教育も必要ないとする安倍政権の不誠実な態度と一体のものである。

安倍首相の悲願は「憲法改正」である。自衛隊を「軍隊」として憲法に位置付け、アメリカの戦争に積極的に協力して海外で戦争ができるようにし、軍事大国として世界で覇権を競える国が安倍首相にとっての「美しい国」なのだ。しかし憲法だけ変えても、兵士になる国民とそれを支える国民がいなければ戦争はできない。だから教科書で「日本人の誇り」「愛国心」を刷り込み、他国への反感を煽るのだ。

私たちはこのような安倍首相や右派勢力の思惑に、子どもたちをさし出すことを断固として拒否する。74年前、悲惨な敗戦に直面して大多数の国民は「日本国憲法第9条」を歓迎し、「二度と戦争をしてはならない」と誓った。戦争は他国民も自国民も殺す結果しかもたらさないことを、私たちの祖父母や父母は身をもって知った。彼らの願いを私たちは決して無駄にしてはならない。

「平和」があってこそ、子どもたちは夢も描ける。かっての戦争の実相を伝え、なぜ無謀な戦争に突き進んだのかを反省し、二度と戦争のない世界を作るにはどうすればよいのかを考える糧になる教科書を、子どもたちには渡したい。私たちはそのための努力を惜しまない。

今年は道徳も含む全教科の小学校教科書の採択の年である。学習指導要領に縛られているため、どの教科書にも問題がある。しかし、そのような中でも少しでも良い教科書を作ろうと努力している編集者もいる。私たちは各社の教科書をきちんと検討し、より良い教科書を子どもたちに届けられるように、全国の市民とともに取り組む決意である。