子どもたちに渡すな!あぶない教科書 大阪の会

大阪で教科書問題にとり組む市民運動の交流ブログ

文部科学省による高校教科書等の記述に対する「訂正申請」の強制に抗議する!

2021-09-23 21:16:27 | 高校採択2021
2021年9月22日

文部科学省による高校教科書等の記述に対する「訂正申請」の強制に抗議する!

子どもたちに渡すな!あぶない教科書 大阪の会

(1)政府・文科省による教科書記述への不当な政治的介入を許さない

今年度行われた高校教科書採択は、検定を通過した見本本をもとに採択された。歴史総合、日本史などの見本本には、従来通り「従軍慰安婦」や「強制連行」の文言があったが、それを理由に不採択にする地域はなかった。
 しかし、背後において文科省は教科書会社に圧力をかけ、「訂正申請」をさせていた。9月8日の文科省の発表によると、6月30日までに5社が「訂正申請」をし、1社を除いて多くが「慰安婦」「徴用(朝鮮人の場合)」と書きかえていた。これは今春、保守系議員の国会質問を契機として、菅政権が4月に「慰安婦」、「徴用(朝鮮人の場合)」が「適切」であると閣議決定をし、答弁書としたことが発端である。
 本来、教科書は学問的に検証されたものが記述されるべきである。ところが、萩生田文科大臣は単なる内閣の政治的見解に過ぎないものを、2014年に付け加えられた「検定基準」である「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解または最高裁判所の判例が存在する場合には、それに基づいた記述がされていること」を盾にして、それしか記述してはいけないかのように国会で答弁した。そして、それに合わせて文部官僚は教科書会社に猛烈な圧力をかけた。しかし、このような教科書記述に対する政治的介入は断じて許されることではない。
教育内容が時の政治権力によって方向づけされた結果、戦前・戦中には“動物的忠誠心”ともいえるほどの愛国心を植えつけられた児童生徒が育成され、差別や虐待の人権侵害、さらには他国侵略の先兵として利用されたという痛恨の歴史を私たちは知っている。先人は「皆が間違ったと気づいた時では遅い」との教訓を残した。日頃から教育の戦前回帰等の気配に警戒の目を向けてきた私たちは、今こそ先人に学び、声をあげなければならない。
私たちは今回の改変措置に対して断固として抗議し、一連の措置の撤回と記述の復活を要求する。また、教科書記述を歪めるもとになっている2014年と2018年に付加された「検定基準」の廃止も、併せて要求するものである。

(2)右派勢力によるたび重なる教科書記述への介入を許さない
 
今回の不当な記述改変措置は、もともと「慰安婦」記述の全面的排除をめざす「新しい歴史教科書をつくる会(つくる会)」に同調した日本維新の会などの議員と萩生田文科大臣が、政治的権限を強引に行使した結果である。「つくる会」は、一時期、中学校歴史教科書から「従軍慰安婦」記述が消えたことに味をしめ、再度登場した中学校教科書や高校教科書において、「従軍慰安婦」という用語に問題があるかのように見せかけながら、その実、軍の関与や強制性を消し去り、ひいては記述そのものの全面削除を企んだのであった。
しかし、当時と状況は大きく違っている。日本軍「慰安婦」については国際的に認識が広がり、日本政府に謝罪と補償を求める声は世界中からあがっている。そのため、菅政権は「慰安婦」についての記述の全面削除を求めることができず、「強制連行」についても「徴用」の表現を朝鮮半島出身者に限ることしかできなかった。「つくる会」と右派の企みは、中途半端にしか実現できなかったのである。
その結果、「いわゆる従軍慰安婦」の文言と政府見解とを両論併記して「訂正申請」した教科書を、文科省は認めざるをえなかった。また、安倍政権も菅政権も「いわゆる従軍慰安婦」の文言を使用した「河野談話」を今も引き継いでいると表明している。私たちは右派の企みを厳しく批判するとともに、こうした状況をふまえて、今後の教科書改善にも取り組まねばならないと考える。
私たちは今後の教科書改訂に際しては、政府見解のみを記述するのではなく、少なくとも両論併記へと記述を少しでも改善することを、教科書会社・執筆者らに求めたい。教科書の執筆者・編集者らに加えられた不当な圧力・介入が逆効果になり、政府見解の誤りがむしろ鮮明になるような教科書が子どもたちに届くように、私たちは今後とも取り組む決意である。

追記:戦後、一般的に使われ、「河野談話」でも使用された「従軍慰安婦」の呼称は、今日では被害者や研究者の間でも適当ではないという見解があり、私たちもこれが絶対的な表現だとは考えていない。日本軍「慰安婦」という呼称も含め、教科書にどのように記述するかは今後の研究課題としたい。

<賛同団体> 9月22日現在 29団体

教科書問題を考える市民ネットワーク・ひろしま
えひめ教科書裁判を支える会
教科書ネットくまもと
子どもの教科書を読む会・北九州
八幡製鉄元徴用工問題を追及する会
日本軍「慰安婦」問題解決のために行動する会・北九州
曽根九条の会
イラク判決を活かす会
キリスト者九条の会北九州
草の根の会・中津
解放同盟門司地区協議会
こども☆未来☆教科書@かなざわ
アイ女性会議ひょうご
沖縄を考える市民の会(三鷹)
守口から平和と民主主義を考える会・もりナビ
みんナビ#みんなで考えよう「慰安婦」問題
主権在民を実現する会
教科書問題を考える北摂市民ネットワーク
ざざまる会
教科書問題を考える枚方市民の会
教科書問題を考える会・豊中
大阪教育合同労働組合
子どもに教育への権利を!大阪教育研究会
オール東大阪市民の会
「慰安婦」問題を考える会・神戸
「日の丸・君が代」強制反対・大阪ネット
日本軍「慰安婦」問題・関西ネットワーク
子どもと教科書 市民・保護者の会
Democracy for Teachers and Children~「君が代」処分撤回!松田さんとともに~(D-TaC)

明成社の「歴史総合」教科書は採択しないでください。

2021-06-05 18:45:54 | 高校採択2021
私たちは、大阪府内の公立高校・特別支援学校の社会科教員の皆さんあてに、以下のお願いの文章を送りました。

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明成社の「歴史総合」教科書は採択しないでください。

 突然、お便りを差し上げる失礼をお許しください。

私たちは、教科書問題に取り組んでいる市民団体です。私たちは、昨年、中学校社会科教科書の採択に取り組み、子どもたちを戦争に導く教科書である自由社・育鵬社の教科書の採択に反対しました。学校現場の先生方からも、両社の教科書には批判的な意見が多く、その結果、大阪市、東大阪市、四条畷市、河内長野市は育鵬社採択をやめました。
 高校の「歴史総合」で採択させてはならないのは明成社です。明成社の執筆者には「改憲」を強く唱える日本会議(日本最大の右翼団体)と関係の深い学者が多く、筆頭執筆者の伊藤隆氏は育鵬社教科書の執筆者でもあります。
明成社の最大の特徴は、不都合なことは書かず、都合の良いことだけを書いて、生徒に“日本はすばらしい国だ”と思わせ、「愛国心」を刷り込もうとするところにあります。しかし、このような「愛国心」は独善的で、国際社会では通用しません。
 歴史には良かったことも、反省すべきこともあります。なかでも、アジア・太平洋戦争が多くのアジアの人々を傷つけ、日本国民も傷ついたことをかえりみれば、また今なお、被害者の心と体の痛みを癒すことができていないことをかえりみれば、私たちは「つらい過去にも向き合う」という立場から、日本の近現代史を学ばなければならないはずです。
 ところが、明成社の「歴史総合」では、ヨーロッパ列強が植民地争奪戦争をしていたのだから、日本もやむをえず“自衛のために”それに加わったのだと、侵略戦争を正当化する立場から日本の近現代史を教えています。これでは生徒たちは歴史から教訓を学ぶことはできません。
 当時は「正しい」と思われていたことも、今日では「間違い」であることは多々あります。なかでも「人権」に関わることは21世紀の今日、大きく見なおされてきています。私たちは子どもたちには、平和を愛し二度と戦争をしないために、歴史を学んでほしいと考えています。
 先生方におかれましては、「人権・平和・共生」という人類普遍の価値を大切にした教科書を選んでくださいますよう心からお願いいたします。
 以下、明成社のとりわけ問題があると思われる箇所を、いくつか指摘させていただきます。

(1)外国人の口を借りて日本のすばらしさを教える(p.68)
 明治初期にイギリス人のイザベラ・バードは地方を旅して「世界中で日本ほど、婦人が危険な不作法な目にもあわず、安全に旅行できる国はない」と旅行記に書きました。バードは嘘を書いたわけではありません。しかし、彼女が安全に旅行できたのは警察が特別に保護していたことによります。幕末に起きた生麦事件によって、日本は莫大な賠償を要求され、薩摩藩はイギリス艦隊の攻撃を受けました。その後は、西洋人には決して手を出してはいけないと庶民にまで徹底され、バードの行く先々の警察にはあらかじめ連絡が行っていました。
他方で、日本に来る朝鮮人や中国人に対して、多くの日本人は差別的な対応をしました。日清・日露戦争に勝ち、朝鮮を植民地にしたことによって、アジアの人々を見下す風潮が広がったのです。しかし、明成社はそんなことは書きません。

(2)日本は戦争捕虜を大切にした国だと印象づける(p.83)
 第一次世界大戦で連合国側として参戦した日本は、ドイツが中国に持つ利権を奪い、青島に駐屯していたドイツ兵を捕虜として徳島に連れてきました。当時、世界の一等国としての地位を得ようとしていた日本は捕虜を優遇し、ドイツ兵と地域住民との交流も生まれました。
 しかし、1937年に南京に侵攻した日本軍は、中国軍の捕虜(実際には一般男性も多かった)をただちに殺害しました。日中戦争の日本軍は兵站補給が追いつかず、捕虜を養う余裕などなかったからです。ところが、明成社はそんなことは書きません。

(3)関東大震災で起きた朝鮮人・中国人の虐殺は書かない(p.95)
 1923年に起こった関東大震災では、「朝鮮人が井戸に毒を入れている」というデマが流され、各地にできた自警団が朝鮮人や中国人を虐殺しました。なかには間違われて殺された日本人もいました。しかし、明成社は浅草十二階の倒壊のことは書いても、虐殺のことは書きません。

(4)太平洋戦争を“アジアの植民地解放の戦争”だったと印象づける(p.113)
 日本は太平洋戦争の初期に東南アジアを占領し、イギリスなどの植民地に傀儡政権を作りました。1943年にはその代表を東京に集め、大東亜会議を開きました。そのなかの一人であるビルマのバー・モウの「日本ほど、アジアを白人の支配下から解放するのに尽くした国は、他にどこもない」という言葉を紹介しています。
しかし、人々に歓迎されたのは始めだけで、資源を奪い、過酷な労働を強制する日本の統治の仕方に反発した人々は、東南アジア各地で日本に対する抵抗運動を組織しました。「ロームシャ」という言葉が定着したくらいのひどい実態で、今でも教科書で「日本の支配は西欧帝国主義よりひどかった」と教えている国がいくつもあります。
日本軍はビルマでインパール作戦をはじめ、イギリス軍と死闘を繰り返しました。そのため16万人もの日本兵が死んでいます。それだけではなく、戦場となったビルマの人々にも大きな被害を与えました。けれども、明成社はそんなことは書きません。

以上、明成社の記述の問題点をほんの少しですが、紹介させていただきました。現在の政権や保守派の歴史認識をもっとも反映しているのが明成社の「歴史総合」です。ぜひよくご検討のうえ、明成社ではなく、「人権・平和・共生」を大切にしたより良い教科書を選んでくださいますよう、よろしくお願いいたします。
お読みくださりありがとうございました。

2022年度使用府立高等学校の教科書採択についての要望・質問書

2021-05-30 18:06:08 | 高校採択2021
2022年度使用府立高等学校の教科書採択についての要望・質問書

2021年5月26日
大阪府教育庁 教育長 橋本正司様

 新型コロナウィルスが再度蔓延している中で、児童生徒の教育に力を尽くしておられることに心から敬意を表します。
 さて、貴教育庁は、5月11日の教育委員会議において、2022年度使用高等学校教科書採択「要領」及び「選定の手引き」を決定しました。私たちは、公正・公平な手続きに基づき、高等学校現場の選定を尊重した採択をおこなわれますよう、強く要望します。

要望内容

1.貴教育庁による「検定教科書の調査」をやめてください。
 貴教育庁は、文科省が検討合格させた教科書について、「検定教科書の調査」を行うとしています。「調査結果」を過去の例からみると、「課題のある教科書」を示し、「学校が選定しても採択しない教科書」「教育委員会が作成する補完教材を使用することを条件として採択する教科書」「採択に影響を及ぼさないが、発行者および文部科学省に指摘する事項を含む教科書」に分けて、教科書名を明らかにするものです。「採択要領」の中では、校長に対して「大阪府教育委員会が通知した調査研究結果を踏まえ」ることを求めています。これは、事実上、教育庁があらかじめ採択しない教科書を指定し、現場がその教科書を選定しないよう強い圧力をかけるものです。
 しかも、「採択要領」や「選定の手引き」には、「検定教科書の調査」を行う組織の内容、メンバー、調査基準などが、全く示されていません。極めて不透明で、恣意的な「検定教科書の調査」となり、公正・公平の観点から強い疑念が生じます。
 貴教育庁による「検定教科書の調査」は、文科省の検定にプラスした「二重検定」にあたるものであり、「検定教科書の調査」の中止を求めます。

2.府立学校各校の「教科書の選定」を尊重して採択を行ってください。
 教科書の採択にあたっては、昨年度と同様、教育委員会議のオープンな場で、現場の「選定」を尊重した採択を行ってください。 


質問内容

 貴教育庁の「検定教科書の調査」は、学校現場や府民から見て秘密裏に行われており、恣意的な調査である疑念を払しょくすることができません。以下の質問に早急に回答してください。

(1)「調査」を行う組織の位置づけ、組織をつくることができる根拠法令を明らかにしてください。

(2)「調査」を行う調査メンバーの名前と立場、外部の調査メンバーの有無を明らかにしてください。また、その選任基準を示してください。

(3)調査メンバーが、「利害関係者」でないことを明らかにする「誓約書」をとっているかどうかを教えてください。とっているとしたら「誓約書」の内容を明らかにしてください。

(3)「調査研究の観点」と、その観点を審議し決定した経緯のわかる文書を示してください。

(4)「調査」を行う組織の会議日時、会議への配布資料、議事録を公開してください。

以上


高校教科書検定結果に対する私たちの見解~新教科「公共」「歴史総合」「地理総合」について

2021-04-06 20:01:19 | 高校採択2021
今年の文科省の高校教科書検定についての私たちの見解をまとめました。
今年の高校教科書採択について大阪でも運動を開始したいと思っています。

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高校教科書検定結果に対する私たちの見解~新教科「公共」「歴史総合」「地理総合」について

2021年4月5日
子どもたちに渡すな!あぶない教科書大阪の会

 2021年3月30日、文部科学省は2022年度使用高校教科書の検定結果を公表した。「現代社会」が廃止になって新設された「公共」は8社12点、近現代史を中心とした「歴史総合」は7社12点、「地理総合」は5社6点が検定合格した。「歴史総合」では、日本会議系の明成社も合格した。
 今回の高校教科書は、安倍「教育再生」の集大成でもある高校版新学習指導要領が2022年度から実施されるに伴って編集されたものである。社会科では地理歴史が「歴史総合」と「地理総合」に、公民が「公共」に再編され、必修教科となった。また、文科省は、高校教科書の検定基準を立て続けに改悪(2014年と2018年)し、検定「一発不合格」で脅し教科書会社に学習指導要領を厳格に適応するよう求めた。教科書会社は、これまで以上に新学習指導要領に従属する自主規制を強めた。
 文科省が新学習指導要領に照らして「不適切」とした検定意見は223件にのぼった。文科省の教科書への統制と介入は露骨なものであった。今回の検定結果についての新聞報道では、「『主体的な学び』重視」「『探求』重視」が注目されているが、私たちの「見解」では、文科省が新教科「公共」「歴史総合」「地理総合」に対してどのような検定意見を付けて、書き換えさせたのかを見ていくことにしたい。

(1)文科省が最も統制を強めたのが「北方領土」、「竹島」、「尖閣諸島」に関する領土記述についてであった。新学習指導要領の本文で「地理総合」と「公共」で「固有の領土」と明記されたことにより、この2科目の全社で「固有の領土」との表現が登場した。文科省はさらに踏み込んだ検定意見を19件付けた。「北方領土」については、ロシアによる「実効支配」「事実上統治」との表現に意見を付け「不法占拠」に変えさせた。「尖閣諸島」に関しては「領土問題は存在しない」、「竹島」に関しては「問題の平和的な手段による解決に向けて努力している」と、新学習指導要領の記述をなぞった記述に変えさせた。今回の新学習指導要領が「主体的・対話的で深い学び」を重視しているにもかかわらず、領土記述については、相手国の主張等を子どもたちに触れさせずに政府見解を一方的に刷り込むものとなった。

(2)文科省は、戦後補償問題についても政府見解の徹底を求めた。「未解決の問題」と記述した教科書に検定意見を付け「個人への補償もふくみ解決済みとしている」と書き込ませた。
 「歴史総合」の中で「慰安婦」問題を記述したのは12点中8点となったが、本文で扱ったのはわずか3点のみであった。しかも記述内容も「多くの女性が慰安婦として戦地に送られた」等の簡単な記述にとどまり、「慰安婦」制度の強制性を明記したのは1点のみとなった。国家による戦時性暴力としての視点は大きく後退し、「河野談話」を空洞化させるものとして看過できない。韓国の被害者支援団体からは「歴史否定と歪曲により、被害者を再び侮辱する2次加害、3次加害を止めよ」と厳しい批判が起こっている。

(3)日本の侵略と植民地支配の記述は、教科書会社の申請段階から後退する傾向が強まった。「韓国併合」を扱う記述のタイトルを「日本の対外進出」と表記する教科書会社が出てきた。日露戦争を韓国併合と連続した流れで記述する教科書もあるが、「日露戦争における勝利がアジア諸民族の独立や近代化の運動に刺激を与えた」という新学習指導要領の内容をなぞる教科書が増えてきた。関東大震災での朝鮮人虐殺の記述についても、日本政府の責任を不問にし、犠牲者数を曖昧にする教科書も増えた。

(4)日本会議が深く関与する明成社は現行の版でもアジア太平洋地域への侵略戦争を、「日華事変」「大東亜戦争」(注釈の中で)と記述し美化している。東京裁判についても日本の戦争指導者を裁けないとする意見を大きく取り上げた。沖縄戦の記述に関しては、「一中健児之塔」を「顕彰碑」と記述し学徒の戦死を美化した。さらに、ひめゆり学徒隊を「ひめゆり部隊」、男子生徒が「勇戦」とも記述した。明成社を不採択に追い込むことは、今年の教科書運動の大きな課題である。

(5)「現代社会」を廃止して新たに設置された「公共」は、新学習指導要領にしたがって「現代社会」と比べて構成を大きく変えた教科書会社が登場した。構成を大きく変えた教科書(4点)は、「公共空間における基本原理」として「正義」「公正」「幸福」を強調し、日本国憲法の基本原理の記述を後退させている。

(6)文科省は、高校教科書の検定結果と合わせて、再申請のあった2社(自由社、令和書籍)の中学校歴史教科書の検定結果を公表した。自由社は、近現代史を中心に83カ所の検定意見がついたが、その全てを修正し合格となった。令和書籍は、「不適切な記述が600カ所を超えるなど問題が多い」として再び不合格となった。
 自由社の歴史教科書は、「新しい歴史教科書をつくる会」(「つくる会」)が執筆したウルトラ右翼教科書である。昨年の不合格時にも問題となった「軍艦島」について「生活のレベルは本土よりも高く、『炭鉱で働く人々やその家族は、お互いに助け合い、温かい心の絆で結ばれていた』とのこと」との記述を維持した。朝鮮人強制労働や日本軍「慰安婦」問題には、全く触れていない。沖縄戦について「日本軍はよく戦い、沖縄住民もよく協力しました」と、県民が進んで戦争に協力したかのような記述をする一方で、住民虐殺や「集団自決(強制集団死)」など日本軍の加害の側面には全く触れていない。「支那事変」「大東亜戦争」の呼称をタイトルに使い、侵略戦争を美化している。自由社は高校の明成社と共通した歴史観に基づいた教科書である。
 自由社が検定合格したことによって、「つくる会」を中心にして中学校歴史教科書の採択替えを求める声が出てくることが予想される。各地の教育委員会で中学校歴史教科書採択の動向に注意を払いたい。