大阪北摂地域からの新しい動きです。
河内長野市が中心となって「楠木正成・正行を主人公とするNHK大河ドラマを誘致する運動」がおこなわれています。このほど北摂で市民団体を立ち上げ、島本町をはじめとする大阪府で反対する声をあげることに踏み出しました。添付の「要望書」と資料はすでにNHK大阪放送局に届けました。大阪放送局から東京の制作局に伝えてもらい、文書での回答をもらえるように要望しています。
北摂での市民団体は基本的にはこれまで教科書運動をやってきた人たちが中心ですが、これまで島本町で「楠正成の顕彰」に疑問を持って調査活動をしてこられた市民も参加していただいての出発です。
大阪府で35自治体が参加し、維新の吉村知事と松井大阪市長が顧問です。全国では61自治体が参加しています。誘致協議会は幅広く作られており、観光とからんだ町おこしの起爆剤のように考えている自治体も多く、「楠正成親子」の史実と戦前の『修身』での利用のされ方はほぼ検証されていません。私たちの活動はそれに一石を投じるものです。
この問題は教科書問題と深くかかわっており、日本会議ら右派の皇国史観の流布を止めることは、非常に重要な意味を持っています。育鵬社歴史教科書ではすでに楠正成は天皇の「忠臣」とはっきり書かれています。その他の教科書ではそこまでではなく、「悪党勢力」とはっきり書いている教科書もありますが、神話の「神武天皇」が教科書改訂のたびに教科書で大きく扱われるようになっていったのと同様に、楠正成も状況次第では今後大きくなっていくかもしれません。教科書運動もそうですが、怪しい動きが見つかったら、すぐに芽を摘むことが重要だと考えます。
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2020年9月22日
日本放送協会
NHK大阪放送局 広報部 担当者 様
NHK東京放送局 大河ドラマ制作担当者 様
楠木正成・正行を主人公とするNHK大河ドラマ制作を考える会
楠木正成・正行を主人公とするNHK大河ドラマ制作に反対する要望書
私たちは日本国憲法にもとづく人権・平和・共生の理念を大切にした教科書を子どもたちに渡したい、と活動している大阪府内自治体の市民です。
2018年4月、楠木正成・正行にゆかりのある地の自治体が連携し、NHK大河ドラマ誘致に向け「楠公さん」大河ドラマ誘致協議会(大阪府河内長野市事務局)が発足しました。河内長野市長が会長、副会長には富田林市、四條畷市、千早赤阪村、高石市、島本町の首長が就任しています。2020年7月現在では大阪府内の35自治体を含み全国で61自治体が協議会に加盟して、NHK大河ドラマ誘致活動を行っています。(資料1参照)
楠木正成については鎌倉末期から南北朝時代に後醍醐天皇に尽くした武士として軍記物語『太平記』に記されています。近世には尊王思想が隆盛する中で楠木正成を顕彰する「楠公祭」なども行われ始めました。近代は国体論と結びつき楠木正成は国民的英雄とされ、楠公祭は全国各地に広がり、日中戦争前後には盛大に催されています。
後醍醐天皇の建武の新政(1333年)に反旗を翻した足利尊氏との合戦に湊川に向かう前、楠木正成は最後の合戦と覚悟し、途中の「桜井の宿(しゅく)」で息子の正行に「忠義を貫け」と遺訓を与えたという「桜井の別れ」が有名です。その舞台とされた「桜井駅」(大阪府島本町)は歴史的に確定されていないにもかかわらず、1921年に国の史跡に指定されました。史実より「忠孝」「忠臣」という国民道徳を優先し、史跡桜井駅跡一帯は戦争中、戦意高揚のために「楠公精神」の教育の場となりました。史跡は拡大整備されて、巨大な乃木希典陸軍大将揮毫の「楠公父子決別之所」碑、東郷平八郎海軍大将揮毫の「明治天皇御製」碑も建てられました。整備には小学校・中学校・高等女学校の生徒が「勤労奉仕」も行い、戦争が激化するとともに大人のみならず、大阪や京都の子どもたちは学校から参拝に来ました。
楠木正成と正行親子は明治期からアジア・太平洋戦争の敗戦まで、天皇に忠義を尽くす「教育勅語」の教えを体現するシンボルとしてたたえられ、「忠臣」を育成するために『国史』『修身』で最も重要な教材でした。1941年から国民学校で使用された教科書『初等科国史』の最後は、靖国神社の絵とともに「正行のやうな、立派な臣民となり、天皇陛下の御ために、おつくし申しあげなければなりません。」で締めくくられ、正行は天皇に忠義を尽くす皇国臣民の鏡とされました。
子どもたちを戦争に導く楠公精神教育については、戦中の大阪府島本町の島本国民学校教育の歴史(資料2参照)が証明しています。
おりしも2021年度使用中学校教科書の採択対象となった育鵬社歴史教科書は、史実より神話を重視し、戦争を美化する教科書として特徴的です。楠木正成については、肖像画入りのコラムで「後醍醐天皇のために戦い続けたことから、のちに「忠臣」とたたえられた」との記述があり、他社の教科書記述(「悪党勢力」など)と比較しても特異です。
先の大河ドラマ誘致協議会の加盟自治体は楠木正成・正行にゆかりがあるということで、「観光」や「活用」をうたい地域おこしに役立てようとしています。史実より物語を優先する誘致活動姿勢は学問や歴史、文化財が商品化され、戦後の歴史研究の到達点をないがしろにし、普遍性のない内向きのナショナリズムをもたらす危険性があります。憲法にもとづく自治体運営を行うべき自治体として、子どもたちを戦争に導く楠公精神を是とした戦前の教育を検証することなく、「楠公さん」大河ドラマ誘致を行う協議会に疑問をもちます。
よって、貴NHKにおかれましては、要望の内容を十分ご検討いただき、楠木正成を主人公とするNHK大河ドラマの制作を行わないよう、強く要望いたします。
河内長野市が中心となって「楠木正成・正行を主人公とするNHK大河ドラマを誘致する運動」がおこなわれています。このほど北摂で市民団体を立ち上げ、島本町をはじめとする大阪府で反対する声をあげることに踏み出しました。添付の「要望書」と資料はすでにNHK大阪放送局に届けました。大阪放送局から東京の制作局に伝えてもらい、文書での回答をもらえるように要望しています。
北摂での市民団体は基本的にはこれまで教科書運動をやってきた人たちが中心ですが、これまで島本町で「楠正成の顕彰」に疑問を持って調査活動をしてこられた市民も参加していただいての出発です。
大阪府で35自治体が参加し、維新の吉村知事と松井大阪市長が顧問です。全国では61自治体が参加しています。誘致協議会は幅広く作られており、観光とからんだ町おこしの起爆剤のように考えている自治体も多く、「楠正成親子」の史実と戦前の『修身』での利用のされ方はほぼ検証されていません。私たちの活動はそれに一石を投じるものです。
この問題は教科書問題と深くかかわっており、日本会議ら右派の皇国史観の流布を止めることは、非常に重要な意味を持っています。育鵬社歴史教科書ではすでに楠正成は天皇の「忠臣」とはっきり書かれています。その他の教科書ではそこまでではなく、「悪党勢力」とはっきり書いている教科書もありますが、神話の「神武天皇」が教科書改訂のたびに教科書で大きく扱われるようになっていったのと同様に、楠正成も状況次第では今後大きくなっていくかもしれません。教科書運動もそうですが、怪しい動きが見つかったら、すぐに芽を摘むことが重要だと考えます。
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2020年9月22日
日本放送協会
NHK大阪放送局 広報部 担当者 様
NHK東京放送局 大河ドラマ制作担当者 様
楠木正成・正行を主人公とするNHK大河ドラマ制作を考える会
楠木正成・正行を主人公とするNHK大河ドラマ制作に反対する要望書
私たちは日本国憲法にもとづく人権・平和・共生の理念を大切にした教科書を子どもたちに渡したい、と活動している大阪府内自治体の市民です。
2018年4月、楠木正成・正行にゆかりのある地の自治体が連携し、NHK大河ドラマ誘致に向け「楠公さん」大河ドラマ誘致協議会(大阪府河内長野市事務局)が発足しました。河内長野市長が会長、副会長には富田林市、四條畷市、千早赤阪村、高石市、島本町の首長が就任しています。2020年7月現在では大阪府内の35自治体を含み全国で61自治体が協議会に加盟して、NHK大河ドラマ誘致活動を行っています。(資料1参照)
楠木正成については鎌倉末期から南北朝時代に後醍醐天皇に尽くした武士として軍記物語『太平記』に記されています。近世には尊王思想が隆盛する中で楠木正成を顕彰する「楠公祭」なども行われ始めました。近代は国体論と結びつき楠木正成は国民的英雄とされ、楠公祭は全国各地に広がり、日中戦争前後には盛大に催されています。
後醍醐天皇の建武の新政(1333年)に反旗を翻した足利尊氏との合戦に湊川に向かう前、楠木正成は最後の合戦と覚悟し、途中の「桜井の宿(しゅく)」で息子の正行に「忠義を貫け」と遺訓を与えたという「桜井の別れ」が有名です。その舞台とされた「桜井駅」(大阪府島本町)は歴史的に確定されていないにもかかわらず、1921年に国の史跡に指定されました。史実より「忠孝」「忠臣」という国民道徳を優先し、史跡桜井駅跡一帯は戦争中、戦意高揚のために「楠公精神」の教育の場となりました。史跡は拡大整備されて、巨大な乃木希典陸軍大将揮毫の「楠公父子決別之所」碑、東郷平八郎海軍大将揮毫の「明治天皇御製」碑も建てられました。整備には小学校・中学校・高等女学校の生徒が「勤労奉仕」も行い、戦争が激化するとともに大人のみならず、大阪や京都の子どもたちは学校から参拝に来ました。
楠木正成と正行親子は明治期からアジア・太平洋戦争の敗戦まで、天皇に忠義を尽くす「教育勅語」の教えを体現するシンボルとしてたたえられ、「忠臣」を育成するために『国史』『修身』で最も重要な教材でした。1941年から国民学校で使用された教科書『初等科国史』の最後は、靖国神社の絵とともに「正行のやうな、立派な臣民となり、天皇陛下の御ために、おつくし申しあげなければなりません。」で締めくくられ、正行は天皇に忠義を尽くす皇国臣民の鏡とされました。
子どもたちを戦争に導く楠公精神教育については、戦中の大阪府島本町の島本国民学校教育の歴史(資料2参照)が証明しています。
おりしも2021年度使用中学校教科書の採択対象となった育鵬社歴史教科書は、史実より神話を重視し、戦争を美化する教科書として特徴的です。楠木正成については、肖像画入りのコラムで「後醍醐天皇のために戦い続けたことから、のちに「忠臣」とたたえられた」との記述があり、他社の教科書記述(「悪党勢力」など)と比較しても特異です。
先の大河ドラマ誘致協議会の加盟自治体は楠木正成・正行にゆかりがあるということで、「観光」や「活用」をうたい地域おこしに役立てようとしています。史実より物語を優先する誘致活動姿勢は学問や歴史、文化財が商品化され、戦後の歴史研究の到達点をないがしろにし、普遍性のない内向きのナショナリズムをもたらす危険性があります。憲法にもとづく自治体運営を行うべき自治体として、子どもたちを戦争に導く楠公精神を是とした戦前の教育を検証することなく、「楠公さん」大河ドラマ誘致を行う協議会に疑問をもちます。
よって、貴NHKにおかれましては、要望の内容を十分ご検討いただき、楠木正成を主人公とするNHK大河ドラマの制作を行わないよう、強く要望いたします。