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目からウロコ! 新・観光立国論(by デービッド・アトキンソン) 観光地奈良の勝ち残り戦略(99)

2015年08月03日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
 新・観光立国論
 デービッド・アトキンソン
 東洋経済新報社

デービッド・アトキンソン著『新・観光立国論』(東洋経済新報社)は、ここ数年間に読んだ観光関係書の中ではピカイチ、まさに目からウロコがボロボロの本だった。1回のブログ記事ではとても紹介しきれないので、何回かに分けることにしたい。今回は、ざっとした概要を「まぐまぐニュース」の【3分間書評】(土井英司さん)から引用し(青字)、それに対する私の見解を黒字で付け加えることにしたい。

いろんなところでコメントしていますが、21世紀最大の産業は「観光産業」です。世界中で富裕層が生まれ、お金の使いみちを探している。加えて、昨今の円安。今、観光に力を入れるのは、日本の方向性としても、面白いと思っています。

そこでご紹介したいのが、京都在住の、元ゴールドマン・サックスアナリスト、デービッド・アトキンソンさんによる『新・観光立国論』。なぜ、生産性の向上や女性の活用ではダメなのか、なぜ観光産業なのか、これまで指摘されていなかった視点から、21世紀日本の「所得倍増計画」が示されています。


今、日本では過疎化・高齢化が大きな社会問題となっている。しかし定住人口の減少は、交流人口(観光客)の増加で補うことができる。観光庁の試算によると、定住人口1人分の減少で124万円の消費が失われるが、これは「国内日帰り旅行者79人分」または「国内宿泊旅行者 24人分」または「外国人旅行者7人分」で補えるのである。

冒頭で、世界中の国が指標としているGDPがいかに人口の影響を受けやすいかを説明し、「短期移民」(=つまり観光客)を増やすことを提言。その後は、日本が観光大国になるために、何をすべきか、足りない部分の指摘と、強化すべきポイントを示しています。著者によると、観光立国の条件は、「気候」「自然」「文化」「食事」の4つ。

日本人が絶賛する「おもてなし」などは瑣末なことで、高い航空運賃を払ってまで期待することではないと説いています(確かに、東京人が3万円の交通費をケチってUSJに行かないことを考えると、その通りだと思います)。さまざまなデータが登場し、日本人が観光ビジネスで大事だと考えていることがじつはズレていることが明らかになりますが、指摘はいちいち納得できるものばかりです。


東京オリンピック招致の際の滝川クリステルによる最終プレゼン(2013年9月)で「お・も・て・な・し」が話題になったが、ずっと違和感を覚えていた。私は若い頃には何度か海外に出かけたことがあったが、諸外国に比べて日本のもてなしが突出して良いなどとは、全く考えたことがなかった。しかも「もてなし」は「hospitality」という英語もあるように、日本独自のものではないし、「もてなし」が目的で外国人が日本に足を運ぶとは考えられない。

それをアトキンソン氏は《日本にやってくるのは大変な出費が必要です。時間もかかるので、会社も休まなくてはいけません。みなさん自身に置き換えてみてください。「おもてなし」だけにそのような対価を払うかといえば、ちょっと考え込んでしまうのではないでしょうか》(本書104頁)《日本には「おもてなし文化」などという実態のないぼんやりとした民間信仰よりも、世界に誇れるような観光資源がたくさんあります。それらを正しく発信さえすれば、外国人観光客の増加に結びつくような「高い評価」につながるとすら考えています》(本書116頁)と、ズバリ指摘している。

具体的なポイントを見て行きましょう。日本は動物と植物に非常に恵まれています。あまり知られていませんが、国連の数字によると、日本は1平方キロメートルあたりの動物、植物の数で言えば、実は世界一を誇っているのです。見たいものや体験したいものがあれば、多少治安が悪くても、交通アクセスが悪くても、外国人観光客はやってくるもの。

アトキンス氏は、観光立国の条件は「気候」「自然」「文化」「食事」の4つだが、日本人はそれが分かっていない、と指摘する。《そのことを象徴する一文が、日本の観光産業を代表する星野リゾートのホームページのなかにあります。「観光大国の3条件である『国の知名度』『交通アクセス』『治安のよさ』という条件を十分に備えている日本の観光産業は、今後ますますその規模を拡大していくでしょう」。まったくそのとおりだと大きく頷く方も多いと思いますが、これは非常に危うい分析だと私は思っています。この3つの条件というのは「ないよりもあったほうがいいという程度の強み」であり、観光立国を目指すうえで絶対不可欠な条件ではないからです》(本書76頁)。

日本人が考えるほど、各国は日本のサービス品質の優位性を必ずしも認めているわけではない日本にきた外国人観光客のFacebookを見ていると、多くの人が、日本のレストランやホテルで「How is/was everything?」と聞かれないことを指摘しています。日本のレストランのスタッフには、どの客が何を注文したのか覚えていない人が多い。日本が観光立国を目指すなら、ゴールデンウィークを廃止したほうがいい。

外国人が日本にやってきて驚くのは「できません」「それは無理です」「ここではやっておりません」と、やたらと「否定」の回答が多いことです。日本人は「外国人」というものをひとくくりにする傾向が強い。さまざまな調査で、訪れる国が遠くなればなるほど、長く滞在する傾向が確認されています。

私がより多くのオーストラリア人や欧米人にきてもらえるようにすべきだと主張する理由は、長期滞在者が増えることによって、観光収入も増えるからにほかならない。滞在期間と観光客の支出には、強い相関関係がある。アメリカ政府のデータによると、観光客の支出の26.9%が宿泊で、18.4%が食事。なぜ成田国際空港から新幹線を走らせないのか、不思議。世界では高級ホテルというのは、1泊400万~900万円という価格帯。翻訳は必ず教養のあるネイティブのチェックを。


日本では今、中国人観光客などの「爆買い」を「インバウンド消費」などともてはやしている。噂によると「爆買い」で買った商品は、自国へ帰ったあと売りさばいて旅行費用のモトをとるのだとか。これが本当なら、彼らは観光客ではなく単なる「かつぎ屋」ではないか。

幸い奈良は比較的、欧米豪からの観光客が多く「爆買い」現象も百均やドラッグストアを除いてはあまり目にしない。やはり大切にすべきは、長期滞在が見込める欧米豪からのお客さまなのだ。奈良の皆さん、中国語・韓国語より、英語・ドイツ語・フランス語を身につけよう!

全体的に非常に耳の痛い指摘がなされていますが、もし、これらのポイントがクリアできて、著者のシナリオ通りになるとしたら、訪日外国人観光客の数は、2020年までに5600万人。2030年までに8200万人で、GDP成長率は8%です。これは、一読する価値があるのではないでしょうか。既に関わっている人はもちろん、これから観光ビジネスに挑む人、投資家にも、ぜひおすすめしたい1冊です。

耳の痛い話も多いが、アトキンソン氏の指摘は鋭い。また日を改めて、違う角度からこの本を論じてみたい。観光やインバウンドを語る皆さん、この本は必読ですよ!

コメント (5)
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