テスラ研究家・新戸雅章の静かなる熱狂の日々

エジソンも好きなテスラ研究家がいろいろ勝手に語っています。

蒸気機械が好き─スティームパンクの魅力について

2010-12-28 22:46:02 | Weblog

 18世紀西洋に起こった技術革命の牽引車は、トーマス・ニューコメンとジェイムズ・ワットの蒸気機関だった。蒸気機関は文字通り産業の原動力として生産力を飛躍的に増大させ、鉄道、船、車、航空機、メディアなどのテクノロジー創造に貢献した。産業革命とはまさに蒸気革命だったわけである。
 蒸気機関は小型で高出力、移動が容易で、自然条件に左右されにくいなど、従来の水力、風力、人力などにはない利点があった。その可能性に注目した技術家や発明家は、工場の機械に、交通機関の動力にと、次々に応用を広げていった。
 蒸気飛行機、蒸気潜水艦、蒸気水中翼船、蒸気ヘリコプター、蒸気自動車、蒸気機関車、蒸気モノレール、蒸気オートバイ、蒸気戦車……。蒸気ロボットや蒸気コンピュータまであった。こうして蒸気機関をめぐる技術的想像力の時代、「蒸気からくりの時代」が幕をあけたのである。
 上掲のイラストは、その想像力の一端を示す有名な「フランクリード・シリーズ」の蒸気ロボットである。西部の荒野を疾走する一台のロボット馬車。追いすがるインディアンに銃をぶっ放す勇ましいお姉さん。なんとも楽しいイラストである。

 従来、蒸気機械では蒸気織機、蒸気機関車、蒸気船のような成功した発明ばかりが取り上げられ、失敗した発明は珍発明や珍アイデアの類とみなされがちだった。しかし蒸気機関を内燃機関やモーターに換装することによって実現した航空機、モノレール、ロボット、ヘリコプター、コンピュータなどの例を見れば、その失敗はむしろ可能性の宝庫だったことがわかるだろう。
 エンジニアリングの手法がいくら発達しても、新しい挑戦には試行錯誤がつきもの。結果的にあるものは成功し、あるものは失敗する。そして失敗にこそ学ぶべきことが多いのは、今も変わらない真実なのである。
 蒸気が生み出した想像力は、テクノロジカルなものにかぎらない。それは社会や生活の変化を通じて、政治・経済・社会・文学・芸術などにも大きな影響を及ぼした。
 たとえば蒸気鉄道や蒸気船によって組み込まれた想像力に「地球」がある。交通機関の発達による時空間の拡大は極地、海底、地底、砂漠、密林などを文明社会に引き寄せ、憧憬の対象とした。ジュール・ヴェルヌの冒険小説やH・ライダー・ハガードの秘境冒険小説はそのような時代に誕生したのである。その延長には対象を惑星世界や未来に広げたH・G・ウェルズのSFがあった。

 蒸気に基づく技術には、科学技術に希望を託した一九世紀の人々の夢と活力があふれている。技術自体もクールな現代テクノロジーとちがい、ノスタルジックで、どこか温もりを感じさせる。癒しのテクノロジーといってよいのかもしれない。
 多くの場合、蒸気機関車のようにメカニズムを直接目にできるのも愉しい。わたしが蒸気テクノロジーに惹かれる点もそこにある。。
 その一方で、蒸気テクノロジーは超モダンなハイテクノロジーのイメージももっている。大友克洋のアニメ「スチームボーイ」や荒川弘のコミック「鋼の魔術師」、SFにおけるスティームパンクの作品群などに描かれた19世紀世界は、20世紀を飛び越えて、21世紀から22世紀の世界さえほうふつさせる。
 このように未来とノスタルジーが同居しているところにも蒸気テクノロジー、蒸気からくりの魅力があるのかもしれない。来年あたり、図版・イラストを満載した、そんな楽しい蒸気テクノジーの世界を本にできたらよいなと考えているところだ。