TENZANBOKKA78

アウトドアライフを中心に近況や、時には「天山歩荷」の頃の懐かしい思い出を、写真とともに気ままに綴っています。

合歓の花 ~ 吉井勇・歌集「天彦」より -3-

2014年07月13日 | 吉井勇
 合歓の花ほのかに紅く咲き出でて雲仙みちの昼しづかなる  (吉井 勇)



先日、上山に登ったときのことです。
東口からすぐの所に、このこのピンクの花がまばらに落ちていました。
(以前の本ブログ「雪の道」と同じ所です。)
それまで気づかなかったのですが、見上げると大きな大きな合歓の木(ねむのき)がありました。





冒頭の「合歓の花ほのかに紅く咲き出でて雲仙みちの昼しづかなる」は、明治の叙情派歌人吉井勇が九州を旅したときのもので、歌集「天彦」の「羇旅三昧」の中の「肥前長崎」に収められています。
昭和11年のことですが、数ヶ月かけて四国、瀬戸の島々、筑紫中国、英彦山、肥前長崎、多良嶽、阿蘇山と旅し、哀歓の情を叙べた歌を詠んでいます。


  あららかに石を打つなり長崎の卯月の雨は怒るごとしも

  にぎやかに精霊船のゆくなかに童心丸はあはれなるかな

長崎の盆の風物詩精霊船、けたたましい爆竹と「ドーイドイ」のかけ声やドラの音、そんな中であどけない子どもの遺影(今はどの船にも故人の遺影が飾ってありますが、当時はなかったかも)を飾った「童心丸」を目にしたときの、一瞬息が止まるほどの驚きと切なさを歌い上げています。
その上のは、「長崎は今日も雨だった」というよりも、降る雨の激しさを歌にしています。この時が「卯月」ということなら、その後数ヶ月も長崎に滞在していたということになりますが…。
他にも芥川龍之介の河童屏風を題材にしたものやシーボルトや南蛮文字など異国情緒溢れる長崎の町を歌にしていますが、ここでは省きます。
以下は、「羇旅三昧」の中のものです。

  不知火の筑紫の酒も飲み乾さむ雄ごころもちて旅ゆくわれは

  天つ日よ夏は来るとも筑紫なる高来の民に障りあらすな

  島原は石垣のまち木槿まち夕日のいろもほのかなるかも

  雲仙の蓮華躑躅の樹蔭より紅毛童子馳せ出でにけり

  眉山はながくわが目に残るらむゆふべ寂びしと見たるものから



「羇旅三昧」以外から、身近な所を詠んだ歌を2つ。

  おのづから雄ごころ胸にをこるなり轟の瀧はますらをの瀧

  雲仙の湯もりの宿にひと夜寝て歌などおもふ旅づかれかも  

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