「これは多良岳の循環道だけど…」

「いつもの林道じゃない。路肩に土砂が崩れ落ちてこないように斜面をコンクリートで固めてあるので安全よ。山の懐深くを一周するこの道路のおかげで、楽して多良岳に登っているのは誰よ。たった20分で。」
「あっ、そうでした。感謝、感謝。」
「じゃ、この道の土手は同じようにコンクリートで固めなくていいの?」



「危ないわね、歩いている途中で崩れてきたらどうするのよ。ところで、ここはどこなの?」
「金泉寺に通じる車道じゃない。あまり目につかないところにあるけどね。この前も、未舗装部分をコンクリート道にするために工事をしていたわ。」
「ウソでしょ!それって逆じゃないの。あそこの車道は、金泉寺が完成したらコンクリートを剥がして土に戻すって言ってたんじゃなかった。私そういうふうに聞いていたけど」
「あらっ、みんな忘れたと思っていたら、あなたよく覚えていたわね。あのときと今じゃ事情が違うんじゃないの?あんな話を真に受ける方がどうかしてるんじゃないの。」
「ほら、これよ。去年の秋のなんだけど工事しているでしょう。

「あら本当だ」

「そしてこれができあがった道よ。立派でしょう」


「ありがたいわね。山岳信仰の山も今では車横付けね。」
「何ひと聞き悪いこと言っているのよ。一般車両はダメよ。」
「じゃどんな車ならいいの?」
「考えれば分かるじゃないの。この話題、深入りは止めましょう。」
「ところで、大きな杉の間から見えるのは何?」

「あれが新しくなった金泉寺じゃない。」
「手前の白いのは?」
「だから、それがコンクリート道じゃない。」
「ほーら。」

「えっ、こんな所まで…」
「何カマトトぶっているのよ、自分一人いい子になって。そんなこと言うのなら、山に登ること自体が自然破壊よ、自分のことは棚に上げて。硬い靴で、木の根を踏んづけて登っているのはあなたよ。ましてや金泉寺のすぐ下まで車で行ってるのもあなたじゃない。」
「 … 」
「山も、山に登る人の心も昔のままなんだけど、山へのアプローチの仕方は時代とともに変わるのよ。多良岳なんかいい方なんだから。あなたはちょっとナーバスになっているだけよ。そんなのすぐに麻痺するわよ、おっとごめんね、すぐに慣れるって。」

「いつもの林道じゃない。路肩に土砂が崩れ落ちてこないように斜面をコンクリートで固めてあるので安全よ。山の懐深くを一周するこの道路のおかげで、楽して多良岳に登っているのは誰よ。たった20分で。」
「あっ、そうでした。感謝、感謝。」
「じゃ、この道の土手は同じようにコンクリートで固めなくていいの?」



「危ないわね、歩いている途中で崩れてきたらどうするのよ。ところで、ここはどこなの?」
「金泉寺に通じる車道じゃない。あまり目につかないところにあるけどね。この前も、未舗装部分をコンクリート道にするために工事をしていたわ。」
「ウソでしょ!それって逆じゃないの。あそこの車道は、金泉寺が完成したらコンクリートを剥がして土に戻すって言ってたんじゃなかった。私そういうふうに聞いていたけど」
「あらっ、みんな忘れたと思っていたら、あなたよく覚えていたわね。あのときと今じゃ事情が違うんじゃないの?あんな話を真に受ける方がどうかしてるんじゃないの。」
「ほら、これよ。去年の秋のなんだけど工事しているでしょう。

「あら本当だ」

「そしてこれができあがった道よ。立派でしょう」


「ありがたいわね。山岳信仰の山も今では車横付けね。」
「何ひと聞き悪いこと言っているのよ。一般車両はダメよ。」
「じゃどんな車ならいいの?」
「考えれば分かるじゃないの。この話題、深入りは止めましょう。」
「ところで、大きな杉の間から見えるのは何?」

「あれが新しくなった金泉寺じゃない。」
「手前の白いのは?」
「だから、それがコンクリート道じゃない。」
「ほーら。」

「えっ、こんな所まで…」
「何カマトトぶっているのよ、自分一人いい子になって。そんなこと言うのなら、山に登ること自体が自然破壊よ、自分のことは棚に上げて。硬い靴で、木の根を踏んづけて登っているのはあなたよ。ましてや金泉寺のすぐ下まで車で行ってるのもあなたじゃない。」
「 … 」
「山も、山に登る人の心も昔のままなんだけど、山へのアプローチの仕方は時代とともに変わるのよ。多良岳なんかいい方なんだから。あなたはちょっとナーバスになっているだけよ。そんなのすぐに麻痺するわよ、おっとごめんね、すぐに慣れるって。」