(夜汽車は山へ@立山線車内)
夕暮れの岩峅寺から、ほんの僅かな乗客を乗せて山へ向かう60形の立山行き。車窓に広がる岩峅野は雪に覆われて、車内の蛍光灯から漏れた灯りに跳ね返ってほの明るい。押し黙ったように佇む冬の立山山麓の家々、雪は止んだとはいえ何とはなしのもの寂しさが残る。転換クロスの背摺りをバタンと倒して自分だけのくつろぎコーナーを作って準備は万端。車両の揺れと呼吸を合わせながら、こぼさないように岩峅寺の駅の自動販売機で購入した缶コーヒーのプルタブをパキリと開ける。ぼんやりと流れて行く景色を眺めるこういう時間。列車はやはり乗ってこそ、である。
横江、千垣、有峰口、本宮。本宮から先、立山までの4.8kmは、地鉄の中では一番駅間距離の長い区間になります。窓の外は漆黒の闇・・・というにはやたらと明るいのは、窓の高さを超えようかとばかりに降り積もる沿線の雪。雪壁の高さはこの冬の積雪の多さを物語るもので、電車は延々と続く雪の回廊の中を30km/h程度の低速でゆっくりゆっくりと登って行く。時折バチバチバチ!とかギャリギャリギャリ!!というとんでもない音がするのだが、これは雪の重みによって線路内に折れ曲がって来た木の枝が車体を叩いたり引っ搔いたりする音でして・・・まあ、建築限界に支障しているのなら枝を払ったり伐採したりしてよ、と思うのだけど、単に線路の上を除雪するだけじゃなくて、ロータリー車で雪壁削って段切りして人間入れて枝を伐採して、みたいな手の入れ方がなかなか難しくなっている、というのが地方民鉄の現場なのかも。
立山到着は、定刻から5分遅れ。本宮からの徐行が効いている。正規のダイヤだともっと速度を出すのかもしれないが、あれだけ木の枝が線路に支障しているとなかなかスピードは上げられないのでしょう。運転席のガラスでも割れてしまったら酷な話だ。私以外にもう一組、何故だか妙齢のご婦人とその子供がこの電車に乗っていて、どうやら立山のスキー場のホテルに泊まるらしく、改札口から電話で宿の送迎を頼んでいた。僅かながらでも乗客がいたことにびっくりもするのだが、これだけの需要のために、わざわざ車両を動かして冬季間の保線を維持して運行を確保する意味を考えてしまう。いくらひいき目に見ても、冬期の日中運休はやむを得ないのかな、という結論しか出ないのだ。
古くは大阪からの急行立山・むろどう、そして名古屋からの名鉄特急北アルプス。冬でも681系を使ったシュプール立山が乗り入れたりと、季節にたがわず観光需要が旺盛であった立山の駅は、夏期は多客対応のために2面2線のホームを活用し、日中は午後の下山客を捌くための折り返し電車の留置線も備わっている山岳のターミナル駅。冬の間はポイント部分の除雪は実施されず1線のみの供用となるため、あまり立山での滞留時間が持てないのが冬ダイヤの特徴。必要最低限の灯り以外は、節電でもしているのかどうにも薄暗い半地下の駅で、正真正銘私以外のお客さんが乗ることのない山下りの列車が折り返しの準備に忙しない。ボケっとしていると誰もいない冬の立山の駅で置いてけぼりになってしまう。そうはならじと早めに運転席の後ろから電車に乗り込むと、冬の立山名物のホームに積もった雪がまるで白いベーコンのように積み上がっている風景を目にすることが出来ます。
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