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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ハウ

2023年03月13日 | 映画(は行)

犬の旅の物語

* * * * * * * * * * * *

市役所職員の赤西民夫(田中圭)。
結婚を約束していた人にいきなり逃げられて失意の中にいました。
そんな時に上司に勧められて、保護犬の真っ白な大型犬を飼うことに。
吠える声を消すために声帯の手術を受けたらしいその犬は、
「ハウ」という声しか出せないので「ハウ」と命名。

民夫は次第にハウと絆を深めていきます。
ところがそんなある日、ハウが突然姿を消してしまうのです。

実はハウはひょんなことで輸送トラックに乗ってしまい、
青森まで行ってしまっていたのです。
手を尽くしてハウの行方を探していた民夫ですが、
似た犬が車に轢かれて死んでいて、すでに火葬された
という話を聞き、呆然とします。
喪失感の中で、ただ黙々と仕事を続けるだけの民夫。

そして一方、ハウは懐かしい民夫の声がまた聞きたくて、長い旅を始めます。
そんな中で様々な人々との出会いと別れもあって・・・。

ハウがいなくなったあとの民夫は、婚約者に去られた以上の喪失感を味わっていたようです。
ペットを飼ったことがある方なら、この気持ち、よく分かりますね。

ハウとの充実した生活の日々のシーンは本作の始めの方にあるだけで、
意外にも別れたあとの物語の方がメインなのでした。

民夫がペットロスから抜け出すまでの長い時間。
・・・つまりは、時が傷を癒していくほかないのでしょう。
その傷は決してなくはならないのですが。

そしてまた、ハウが出会う人々の人生のドラマ。
ここも、それぞれが見所なのです。
それぞれの思いにハウが寄り添うのはいいですねえ・・・。

そしてまた、ラストは想像したようなハッピーエンドとは
ちょっと違うところがまたいいのです。
しかし、すごく納得のいくラスト。

よき、よき。

<Amazon prime videoにて>

「ハウ」

2022年/日本/118分

監督:犬童一心

原作:斉藤ひろし

出演:田中圭、池田イライザ、野間口徹、渡辺真起子、モトーラ世里奈、深川麻衣

 

犬愛度★★★★★

冒険度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


地下室のヘンな穴

2023年03月11日 | 映画(た行)

依存

* * * * * * * * * * * *

平凡な中年夫婦、アランとマリー。
怪しげな不動産業者に案内され、郊外の一軒家を購入しました。
その家の地下室にはマンホールのような穴が一つあいています。
そこを降りていくと、なぜか同じ家の2階に出てしまうのです。
そして同時に、時間が12時間進み、肉体が3日分若返ります。
やがて、妻マリーは若返りたいと思う一心で、
何度も何度もその穴をくぐり抜け始めますが・・・。

穴を通り抜けている本人には一瞬のことなのですが、
外の世界から見るとマリーは12時間不在ということになるのですね。
夫アランはこの穴にはさしたる興味も待たず、
いつも穴の中にいるマリーをあきれてみています。

一回で3日分若返るだけ・・・。
けれどマリーはもう執念となって穴をくぐり抜け続け、
やがてはティーンエイジャー?かと思うほどに若返って行くのです。

あるとき、マリーが腐ったリンゴを持ってその穴をくぐり抜けると、
たしかに、元通り新鮮なリンゴに戻っているのですが、
そのリンゴを二つに割ってみるとなんと・・・!!

表面上若返ったマリーなのだけれど、その内部で何が起こっているのか・・・?

本作はつまり「依存症」の物語なのでしょう。
この夫妻の友人夫婦が近所に住んでいるのですが、
その夫のほうが、また別の依存症となっていて、問題を引き起こします。

人によって現れ方は様々。
けれど、あまりにも一つのことにこだわり続け、
それがやめられなくなってやがて自らを滅ぼしていく・・・
ということの怖さを言っています。

 

さて、本題からは外れますが、本作の中で、
誰もこの穴を逆行するとどうなるのかという疑問を持たなかったのが不思議。

時間が12時間前に戻って、3日分年をとる・・・?

いや、それだと穴に入る前の12時間、
仕事をしたりテレビを見たりしていた自分はどうなってしまうのか?
という疑問というか矛盾が生じてしまいますね。
つまり逆行は不可能ということなのかも知れません。

まあそこは目をつぶるとして、あまりにも忙しい人とか、受験前の人とか、
その穴をくぐれば人より多く12時間を使えるということにはなりませんかね? 
しかしその見返りに、3日分年をとってしまう・・・。
まるで長く遊び暮らして、元の世界に戻ると老人になってしまった浦島太郎のようでもあるな・・・。
「逆ヘンな穴」も面白そうだ・・・。

<WOWOW視聴にて>

「地下室のヘンな穴」

2022年/フランス・ベルギー/74分

監督・脚本:カンタン・デュピュー

出演:アラン・シャバ、レア・ドリュッケール、ブノワ・マジメル、アナイス・ドゥムースティエ

 

不思議な穴度★★★★★

依存度★★★★★

満足度★★★.5


対峙

2023年03月10日 | 映画(た行)

決してわかり合えないはずの思いが・・・

* * * * * * * * * * * *

高校銃乱射事件の被害者家族と加害者家族が対話するという作品です。
ドキュメンタリーではないのですが、
実際に起こったことのある事件なので、リアリティに満ちています。

アメリカの高校で起きた銃乱射事件。
多くの生徒が殺害され、犯人の少年も校内で命を絶ちます。

その事件から6年後。
息子の死を受け入れられずにいるペリー夫妻は、
セラピストの勧めで、加害者の両親と会って話をすることになります。
教会の奥の集会室で、顔を合わせた4人。
ぎこちなく挨拶を交わし、立会人もなく話をしはじめます・・・。

本作では始めと終わりに教会の職員等が登場するのみで、
ほとんどすべて4人の会話シーンとなっています。
彼らの息子たちの事件のことも、この4人の会話を聞いていてようやく分かってきます。
その事件や、前後の回想シーンも再現シーンも全くなし。
すべてその室内、4人だけの会話劇から成り立っているのです。

息子を亡くした親。
その息子を殺害した犯人の親。
そしてその親もまた息子を亡くしている。

対面するにはなんともバツが悪いし、
加害者の親というのはきっとこれまでに多くの人から責任を問われ、
なじられても来ているでしょう。
親を責めるのは筋違いと思いつつも、
被害者の親としては、相手を憎む気持ちも捨て去ることができないように思えます。

双方どのように言葉を交わせばいいのか、実際困ってしまいそうです。
緊張感もハンパありません。

実際、次第に感情が高ぶり、つい言葉を荒げることも・・・。
また、どちらの夫妻も、夫婦間で全く考え方が同じというわけでもないのです。
父親は、どちらかというとこんなことが起こった原因を理詰めで考えようとする。
母親は、生きていた息子の生活のことや愛情が中心になる。
何を話せばいいのか分からないままに、おずおずと会話が続けられます。

ところがです、いつしか互いに本音がこぼれ始める。
なんというか、互いに自分でも言葉にできなかった思いを、
実際に言葉となって吐き出すことで、気持ちも浄化されていくというか・・・。

起こってしまった出来事はもうどうすることもできないけれど、
それをどう受け止めるかは、気持ちの持ちよう次第なのかも知れません。

 

どう考えても理解し合うことは難しいと思えるこの二組の家族が、
最後にどのような気持ちに達して、最後の別れを交わすことになるのか。
そうしたドラマをじっくりと見て考える作品となっています。

この場が教会なのも、何らかの意味があるのかも・・・という気持ちになりました。

 

<シアターキノにて>

「対峙」

2021年/アメリカ/111分

監督・脚本:フラン・クランツ

出演:リード・バーニー、アン・ダウド、ジェイソン・アイザックス、マーサ・プリンプトン

 

心理劇度★★★★☆

緊張感★★★☆☆

満足度★★★.5


「コロナ黙示録」海堂尊

2023年03月09日 | 本(その他)

「あの頃」を今一度

 

 

* * * * * * * * * * * *

豪華クルーズ船内で新型コロナウイルスのパンデミックが発生。
政府の対応が後手に回る中、厚労省技官・白鳥の差配で
クルーズ船の感染者を東城大学医学部付属病院で引き受けることになり、
不定愁訴外来の田口医師が対策本部長に任命された。

一方、北海道の雪見市救命救急センターでもクラスターが起こり、
センター長の速水たちも濃厚接触者に……。

混乱する社会状況に彼らはどう立ち向かうのか!?

* * * * * * * * * * * *

海堂尊さんの “桜宮サーガ”、オールキャスト!!
新型コロナウイルス禍、始期の物語。

本巻が書き下ろしとして刊行されたのが2020年7月。
あの豪華クルーズ船の感染爆発が起こったのが1月ですので、
ものすごい速さで描かれていますね。

今となってはもう忘れかけた、あの頃の
コロナウイルスに対しての恐怖心がまざまざと蘇りました。
つまりあの頃は、新型コロナウイルスに対して私達は、全くの無防備でした。
敵の前になんの防具も武器も持たずに立っているような。
今は、何度もワクチンを受けて、曲がりなりにも防具を身につけている。
だからこそ、当時では考えられない感染者数でも平気で出歩いて、
マスクもはずそうかという状況でいられるわけですよね。

あの頃、緊急事態宣言でお家ごもりになったのは、
ムダなことではなかったと思う次第。

 

さて本作は、あくまでもフィクションといいながら、
コロナウイルス感染拡大の様子は、実にリアルに事実に基づいて書かれています。
そして、その対応のマズさについても赤裸々にそのままに・・・。

そして海堂尊さんのことですから話がウイルスのことだけにとどまるはずもなく、
強烈な政権批判が展開されています。
内閣総理大臣・安保宰三のこと、
その妻・安保明菜のこと、
内閣官房長官・酸ヶ湯のこと・・・。
総理に忖度しまくってまともな判断をしようとしない人々・・・。

そんな中で、本作の希望の光、北海道の雪見市救命救急センターの速水医師、
極北市民病院の世良医師、
桜宮市の東城大学医学部付属病院のおなじみの面々、
彼らが最善の策をサクサクと進めていく様がなんともここちよいです。
本当にこんな人々と病院がたくさんあればよかったのに・・・。

何でいつまで経ってもPCR検査の実施数が少ないままなのかとか、
東京オリンピックを開催するかしないかと、
やきもきしたりすったもんだしたことなども思い出しました。

いま、結局あれらのことはどういうことだったのか、
振り返ってみるのも悪くありません。

 

図書館蔵書にて

「コロナ黙示録」海堂尊 宝島社

満足度★★★★☆


Bittersand

2023年03月08日 | 映画(は行)

苦い過去に終止符を

* * * * * * * * * * * *

先日、「主人公の友人役」を見た、井上祐貴さん。
主人公を演じた作品がありましたので、さっそく拝見しました。

社会人になって数年の吉原暁人(井上祐貴)が、
高校時代同級生で密かに思いを寄せていた石川絵莉子(木下彩音)と偶然再会します。
二人には高校時代に忌まわしい過去があり、
再会によって思い出したくない苦い過去が蘇ってしまいます。

双方、できるだけ思い出さないよう過去にフタをしてこれまで過ごしてきていたのです。
絵莉子の過去への拒否感は暁人以上に大きく、暁人に会うことすらも苦痛のようです。

そんなある日、高校の同窓会の案内が届きます。
暁人は、イヤな過去を終わらせることを決意。
絵莉子を誘い、同窓会に乗り込むことにしますが・・・。

忘れようとすればするほど忘れられない。
いつも心の底の方に重りのようになってずっしりと居座っている・・・。
そんな思いが、今の自分の在りように何かしらの影響をおよぼしていることを、
暁人は自覚していたのかもしれません。

高校時代のあの教室の中に渦巻いていた負の感情。
それに巻き込まれ、深く傷ついたままの暁人と絵莉子。

これは復讐というよりは、やはりあの時に逃げ出したままの
自分の過去に終止符を打つ行動なのだろうと思います。

まさに、苦い青春のストーリーですが、この終止符の打ち方が鮮やかでした!

Bittersandは、苦い思いの板挟み・・・みたいな意味で登場した作中の造語ですが、

sandはあくまでも「砂」の意味で、挟むと言う意味はない、
との説明もちゃんと入っていました。
辞書を引いても出ていないのであしからず。

 

<Amazon prime videoにて>

「Bittersand」

2021年/日本/99分

監督・脚本:杉岡知哉

出演:井上祐貴、萩原利久、木下彩音、森田望智、小野花梨

 

苦い過去度★★★★★

井上祐貴の魅力度★★★★☆

満足度★★★.5

 


明け方の若者たち

2023年03月07日 | 映画(あ行)

飲み明かした「朝」が、このままずっと続けばいい・・・

* * * * * * * * * * * *

退屈な飲み会に参加した“僕”(北村匠海)は、
そこで出会った“彼女”(黒島結菜)に一瞬で恋をします。
就職も内定し、将来を夢見ながら、無邪気に“彼女”との付き合いを楽しむ“僕”。
やがて社会人となった“僕”は、夢見ていた未来とは異なる人生に打ちのめされていきます・・・。

本作には一つしかけがありまして、
無邪気に逢瀬を楽しんでいた“僕”と“彼女”の関係は、
実はそう単純なものではなかった、ということが終盤に分かります。

“僕”は、鬱屈した思いを抱えながら、就職し、
そこで夢描いたような華々しい未来とは全く別物の毎日を過ごすようになる。
だからこその行き詰り感は、通常よりも増して感じられるのです。

かつて、友人達と夜が白むまでくだらないことをしゃべりながら飲み明かした日々。
このまま新しい一日なんか始まらなければいいのに。
このままの時間がずっと続けばいいのに・・・。
あの時はそう思ったものだけれど、今、その思いをただ懐かしく思う。
確かにあの瞬間が一番幸せだったのかも知れないと。

「青春」時代を抜けて、退屈な日常にもそれなりに意味を見出しつつある・・・
そんな終わり方もステキでした。

黒島結菜さんは、私にも印象深い「アシガール」の元気印の女の子のイメージが強くて、
その延長線上で「ちむどんどん」の起用があったと思うのですが、
それが逆にあまりいい結果に出なかったですよね。
本作では、年上の人のイメージ、いい感じに演じています。
役者にとって、「役」との出会いは、運命的なものであるなあ・・・とつくづく思います。

本作で、“僕”の友人役で出演した井上祐貴さんがすごくいい感じでした。
話題の「silent」でも、想くんと湊斗くんの友人役でもありました。
今、注目の上昇株だと思います。

主人公の友人役というのがなかなかあなどれなくて、
私にも少し体験したことがあります。
いくつかの映画で主人公の友人役をしている人がいて、
「この人カッコイイ!」などと思ったら、
そのうちテレビドラマにもよく出てくるようになり、
あっという間に主役級になっているという・・・。
松坂桃李さんとか、本作の北村匠海さんもそうです。

ドラマ好きのおばちゃんとしては、こうした若い人たちのサクセスストーリーを
見守るのも役割の一つのような気がしています。

<Amazon prime videoにて>

「明け方の若者たち」

2021年/ 日本/116分

監督:松本花奈

原作:カツセマサヒコ

脚本:小寺和久

出演:北村匠海、黒島結菜、井上祐貴、山中崇、楽駆、濱田マリ

 

青春度★★★★☆

満足度★★★★☆


エンパイア・オブ・ライト

2023年03月05日 | 映画(あ行)

心にしみる・・・

* * * * * * * * * * * *

1980年代初頭、イギリス。
海辺の町、マーゲイト。
映画館エンパイア劇場で働くヒラリー(オリビア・コールマン)は、
つらい過去のために、心に闇を抱えています。

ある日、大学進学への夢をあきらめて、映画館で働くことを決めた
黒人青年スティーヴン(マイケル・ウォード)が同僚に加わります。

過酷な現実に路を阻まれていた二人は、少しずつ心を通わせていきますが・・・。

80年代というのが、異国の地ではありますがどことなく郷愁を誘います。
映画フィルムの搬送や上映の様子なども、
おそらく今は見られない光景なのでしょう。

ヒラリーは作中で詳しい年齢は明かされませんが、50代くらいでしょうか? 
いや、私には60代にも思えたけれど、あちらの方はちょっと老けて見えるので・・・。

彼女は、ここの支配人(コリン・ファース)に思い切りセクハラ(いや、それ以上の行為だけど)を
受けているのですが、あまりにも自己肯定感が低いので、
いやいやながら受け入れるほかないと思い込んでいるようです。
そんな彼女が、スティーヴンの若くしなやかな体を美しく思う・・・。
この青年がいいんですよね、確かに。
素直でまっすぐで、やさしい。

そこで、人種の別とかなりの年齢差、人から見ると奇異に映ることでしょう。
でも人と人とのふれあいや絆に、そんなことは実はどうでもいいことなのかもしれません。

折しもイギリスは大不況の波がよせて、
安い賃金で働く移民、特に黒人が目の敵にされ、
大がかりな排斥運動が巻き起こっていたのでした。
それ故に、差別発言ばかりではなく暴力まで受けて、深く傷ついてしまうスティーヴン。
そして、小康状態にあり、スティーヴンと出会ってからは調子を取り戻していた
ヒラリーの心がまた次第に壊れていく・・・。

二人にはただ黙って抱きしめ合うしかないではありませんか・・・。

それでも、やはり若者には未来が必要なわけで・・・。
まさに、心に染み入る良品。

あ、作中でスティーヴンは、
映画館で働いているのに映画を見たことがないと言うヒラリーに、
ぜひ一度ゆっくりきちんと映画を見るように、と言います。
「映画を見ている間だけは現実を忘れられるから」と。

さしずめ私などは、映画を見過ぎてすっかり夢の中で生きているのかも・・・。

 

というわけで(どういうわけだ?)、
おばちゃんが“めめ”にぽ~っとなるくらいは、許してくださいねー。

 

<シアターキノにて>

「エンパイア・オブ・ライト」

2022年/イギリス・アメリカ/115分

監督・脚本:サム・メンデス

出演:オリビア・コールマン、マイケル・ウォード、トム・ブルック、
   トビー・ジョーンズ、コリン・ファース

時代設定度★★★★☆

心のふれあい度★★★★☆

満足度★★★★★

 


異動辞令は音楽隊!

2023年03月04日 | 映画(あ行)

鬼刑事がポンコツ音楽隊に?

* * * * * * * * * * * *

部下に厳しく、犯人逮捕のためなら手段を選ばない、ベテラン刑事の成瀬(阿部寛)。
ところが、パワハラの告発を受けて、
広報課内の音楽隊へ異動させられてしまいます。
音楽は、子どもの頃和太鼓をたたいた経験しかないのに、
まったく不本意な異動でやる気をなくした成瀬。

そしてまた、当の音楽隊もやる気のないものばかりのポンコツ・・・。

 

調度その頃、成瀬は「アポ電強盗事件」の捜査に取り組んでいたのです。
そりゃー、大もとはフィリピンからの指示だったりしたら、
なかなか捜査も進みませんよねえ・・・。
なんてのは今だから言えることですが。

ホシに目星もついていたのに、途中になってしまったのが悔しくてたまらない成瀬。
しかし、このストーリーはよくできていて、終盤、またこの事件が関わってくるわけです。

さてそれはともかく、音楽隊で全くやる気のない成瀬。
母は認知症。
妻はとっくに出て行ってしまっていて、高校生の娘がいます。
しかし娘は、これまでいつも忙しく自分のことを知ろうともしない父に
すっかり嫌気がさしていて、口をきこうともしません。
時間ばかりはたっぷりできたけれど、何もかも、八方塞がりの成瀬。

そんな彼が、物置の奥に眠っていた和太鼓と、
同僚・来島(清野菜名)のトランペットに心を解かされて、
次第に音楽への興味を芽生えさせていきます。
そしてそんな彼の姿勢が他のメンバーの気持ちも変えていく。
実は高校の友人とバンドを組んでいた娘も、父親を少し見直し始めます。

音楽には力がありますね!

渋川清彦さんが、ここでも(「リバーサル・オーケストラ」でも)パーカッション担当なのは、
もともとドラマーでもあったからなんですね。
なるほどー。

<Amazon prime videoにて>

「異動辞令は音楽隊!」

2022年/日本/119分

監督・脚本:内田英治

出演:阿部寛、清野菜名、磯村勇斗、高杉真宙、板橋駿谷、モトーラ世理奈、渋川清彦、酒向芳

 

音楽の楽しさ★★★★☆

満足度★★★.5


「サンセット・パーク」ポール・オースター

2023年03月03日 | 本(その他)

迷える若者達、そして大人達

 

 

* * * * * * * * * * * *

この廃屋で僕たちは生まれ変わる。
不安の時代をシェアする男女4人の群像劇。
大不況下のブルックリン。
名門大を中退したマイルズは、霊園そばの廃屋に不法居住する
個性豊かな仲間に加わる。
デブで偏屈なドラマーのビング、
性的妄想が止まらない画家志望のエレン、
高学歴プアの大学院生アリス。
それぞれ苦悩を抱えつつ、不確かな未来へと歩み出す若者たちのリアルを描く、
愛と葛藤と再生の物語。

* * * * * * * * * * * *

そもそも何でこの本を読もうと思ったのだったか・・・? 
多分、どこかの書評で見かけたのだと思います。
私には初めての作家さん。
ミステリでない洋物は珍しいのですが。

 

ブルックリンにある廃屋寸前の家。
しかしなぜか電気も水道も通じたまま忘れ去られていて、
ならば家賃もかからないので住んでしまおうと、4人の若者達が集まります。

ここを見つけてシェアを呼びかけた、偏屈なドラマーのビング。
画家志望のエレン。
大学院生アリス。
そして、名門大学を中退したマイルズ。

本作は、これら若者の群像劇ではありますが、
一応のストーリーの軸となっているのがマイルズ。

彼には腹違いの兄がいたのですが、その兄が事故死。
そのことに責任を感じているマイルズはその苦痛に耐えかねて、大学を中退。
両親に何も告げずに突然姿を消して、よその土地で単純労働に従事していたのでした。
そんな彼がフロリダの地で愛する人を見つけ、
生きる希望を見出しのはいいのだけれど、
わけあってその地にいられない事情ができて、
ニューヨークに戻ってくることにしたのです。
そこで、ブルックリンのこの家に住むことになる。

 

作中は、この4人のみならず、マイルズの実の母や父、そして義母の視点にも立っています
老若男女、それぞれの立場は全く別々なれども、この中の誰にも共感してしまう・・・。
若いときばかりでなく、年齢を重ねて人の親になろうとも、
悩みのタネは尽きないですよね。
それぞれの抱える思いがリアルで、
我知らず、どの章もじっくり読み込んでしまいます。

皆が迷いながらも、割といい感じの終章を迎えるのか、
と思えたのですが・・・。
しかし、不意に投げ出されたような終わり方に、ちょっとショックを受けました。
めでたしめでたしなんて人生にはあり得ない・・・のかな。

<図書館蔵書にて>

「サンセット・パーク」ポール・オースター 柴田元幸訳 新潮社

満足度★★★★☆


レジェンド&バタフライ

2023年03月02日 | 映画(ら行)

四の五の言わずに楽しめばいい

* * * * * * * * * * * *

これ、まだやってたの?というくらいのタイミングですが、やっと見ました。

東映70周年記念という歴史大作。
織田信長の物語ではありますが、歴史そのものではなく、
信長と濃姫(帰蝶)の二人の物語。

大うつけと呼ばれる尾張の織田信長(木村拓哉)の所に、
敵対する隣国、美濃の濃姫(綾瀬はるか)が、政略結婚として嫁いできます。
信長は濃姫を尊大な態度で迎え、勝気な濃姫は臆さずに反抗。
いきなり二人のバトルが始まります。

そんな様子で、とても仲睦まじくとはいかないものの、時は過ぎていきまして・・・
あの、今川義元との対戦時。
圧倒的戦力差に絶望を感じている信長は、
濃姫に励まされ、共に戦術を練って奇跡的勝利へと向かいます。
いつしか強い絆で結ばれていく二人・・・。

実際にはあり得ないでしょという部分も、
エンタテイメントとして楽しめるので、それもアリかな?と思います。

二人のラブストーリーはともかく、
その他の配役や役割には興味深いところがたくさんありました。
秀吉に音尾琢磨さん。
家康には斎藤工さん(特殊メイクで、はじめ誰だか分からなかった・・・)。
そして、明智光秀に宮沢氷魚さんというのはなんともユニークな配役ですね。
光秀が家康饗応の席で、信長にひどく叱責を受けたというその真の理由、
そして、あの本能寺の変の理由、実に新解釈でした。

 

炎の中で、信長が見る幻影にはちょっと泣かされます。
そして、森蘭丸役のあの美少年は誰だっけ?と思ったら、市川染五郎くんでした! 
鎌倉殿にも出ていましたよね。
まさしく今注目株の美少年。

さすがの豪華作品。
楽しませてもらいました。

 

<シネマフロンティアにて>

「レジェンド&バタフライ」

2023年/日本/168分

監督:大友啓史

脚本:古沢良太

出演:木村拓哉、綾瀬はるか、宮沢氷魚、市川染五郎、和田正人、斎藤工、北大路欽也、音尾琢磨

 

歴史新解釈度★★★★☆

満足度★★★.5

 


リコリス・ピザ

2023年03月01日 | 映画(ら行)

オトナか、コドモか

* * * * * * * * * * * *

1970年代アメリカ。
LA郊外の住宅地サンフェルナンド・バレーを舞台とする青春物語。

高校で生徒の写真撮影を手伝っていたアラナ(アラナ・ハイム)25歳。
そんな彼女に15歳高校生のゲイリー(クーパー・ホフマン)が一目惚れ。
アラナを必死で口説こうとします。

自信過剰な15歳男子ゲイリーは、映画の子役を務めたり、広告業をしていたり、
儲け話にはすぐに飛びつくアグレッシブなタイプ。

一方アラナは、自己肯定感低め。
この先の人生のビジョンもありません。

そんなアラナは15歳男子に言い寄られて悪い気はしないものの、
何しろまだ相手は「子ども」の年齢。
何かあれば犯罪になってしまう。
でも、なんにでも前向きに取り組むゲイリーを好きになっていきます。
けれど、恋人にはなれないと思う。

と言うわけで、仲良く共に時を過ごすことが多くはなるのですが、
人には友人とも恋人とも言えない、
宙ぶらりんであやふやな関係になってしまいます。

なぜかこの頃、こういう作品に多く当たってしまう。
高校生と成人との恋。
でもここでもきちんと大人の節度は守られていて(最後の最後は分からないけど)、
ありがたや、良識はまだちゃんと生きている、
アメリカですらも・・・と思う次第。
もっとも、未成年となにかあったら「犯罪」というのは、
近年作られた概念であろうし、それに縛られるのも杓子定規に過ぎる、
という思いも、ないわけではありません。

いやいや、本作のテーマはそんなことではないのですけれど。
つまりは年齢に縛られることなく、人と人の関係は作られるものだし、
必ずしも年上が年下を感化するのではなくその逆もアリということ。
迷って、悩んで、そして自由に自分らしく、
やりたいことをしようよ! ですね。

ムリしても大人っぽくあろうとするゲイリーと
年齢では「オトナ」だけど、しっかり自立のシナリオが立っていないアラナの
コンビネーションの妙。
くすぐったくも、楽しい。

ゲイリー役のクーパー・ホフマンは、
故フィリップ・シーモア・ホフマンさんの息子さんとのこと。

 

<WOWOW視聴にて>

「リコリス・ピザ」

2021年/アメリカ/134分

監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン

出演:アラナ・ハイム、クーパー・ホフマン、ショーン・ペン、トム・ウェイツ

青春度★★★★☆

満足度★★★.5