映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「1日10分のしあわせ」朝井リョウ他

2020年12月20日 | 本(その他)

大切にしたい粒選りのストーリー

 

 

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全世界で聴かれているNHK WORLD-JAPANのラジオ番組で、
世界17言語に翻訳して放送された、人気作家8名の短編を収録。

几帳面な上司の秘められた過去。
独り暮らしする娘に母親が贈ったもの。
夫を亡くした妻が綴る日記……。
海の向こうに暮らす人々に、私たち日本人の愛すべき姿を細やかに伝えた好編が、
オリジナル文庫として登場!

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全世界で聴かれているNHK WORLD-JAPANのラジオ番組で、
世界17言語に翻訳して放送された、
人気作家の短編集というのに興味を持ちました。
何しろ豪華執筆陣、しかも選りすぐり。
本巻では、朝井リョウ、石田衣良、小川洋子、角田光代、
坂木司、重松清、東直子、宮下奈都(敬称略)。
さらにはどれも10分で読める程度の短編ということで、
手軽でもあり、手に取りやすいですね。
この文庫の同シリーズが他にも2巻出ているので、
私は思わずそちらも合わせて買ってしまいました!!

 

本作一作目は、朝井リョウさん「清水課長の二重線」

会社の総務部に配属された岡本。
すなわち、事務方であります。
もっとクリエイティブな仕事がしたかった・・・と、気落ちしています。
地味だし、退屈だし・・・。
そんな中で清水課長はやたらと四角四面で融通が利かない。

私もそんな仕事をずっと続けていたので、
この岡本くんの気持ち、すごーくよくわかるのです。
けれど、どんな仕事にもその仕事の意義があり、
それをきちんとやり遂げることには熟練が必要。
何よりも、整然と仕事することは気持ちがイイ。
そんなふうに気持ちが変わっていく岡本のささやかな一幕を描いています。
仕事をするということのほんの一面ではありますが、
何やら爽やかな風が吹くような・・・、さすがの一作でした。

 

巻末は宮下奈都さん「アンデスの声」

「私」の祖父母は農家で、ひたすら畑仕事をし、一生を終えようとしています。
二人で海外旅行はもちろんのこと、せいぜい行ったことがあるのは県内の温泉くらいで、
国内旅行をしたという話も聞いたことがない。
祖父の危篤の知らせを聞いて田舎へ向かう「私」。
そして、幼い頃にここで見た風景を思い出すのです。
バックに高い山がそびえ、澄んだ湖が広がっていて、
そして鮮やかな赤い花が咲き乱れている・・・。
でもこの近辺にそんな風景が見える場所などないのです。
この記憶は一体何・・・?

その答えは、若かりし頃の祖父母の意外な「趣味」に関係するものでした。
それが本巻の成り立ちであるラジオと関連しているという、
なかなか心憎い一作。
地道で代わり映えのしない祖父母のイメージが、
一転して華やかなもの変わる、魔法のような一作でもありますね。

 

最初と最後だけ、ご紹介しました。

「1日10分のしあわせ」朝井リョウ他 双葉文庫

満足度★★★★☆

 



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