映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ハンナ・アーレント

2013年12月29日 | 映画(は行)
「信念」を支えるもの



* * * * * * * * * *

女性哲学者として知られるハンナ・アーレントは、
ドイツに生まれ、ナチスの迫害を逃れてアメリカへ亡命したユダヤ人です。
その彼女が1960年台初頭、
ナチスの高官アドルフ・アイヒマンの裁判の傍聴記事を執筆し、発表。
ところがその記事が大論争を巻き起こし、バッシングを受けることとなります。


彼女は、アイヒマンを冷酷非情な怪物ではなく、
上官の命令を黙々と遂行する凡庸な役人であるとしました。
つまりは自ら思考する能力が欠如している、と。



正直、本作は私の手に余るようでした。
元来抽象的な言葉の多い「哲学」は苦手なのです。
ハンナのこの論は、すんなりと納得できる気はします。
でも、なんとなく感覚的に・・・というだけで、
私など本来の彼女の根っことなっている持論・自説を知りもしないで、
わかったような気になってしまうのは、すごく不遜のような気がしまして・・・。


本作に関していえば、
現に生死に関わるナチスの迫害を受け、家族、友人・知人をなくしたユダヤ人にとっては、
どうにも納得出来ない部分があったのでしょう。
そのことを私は非難できないと思う。
ハンナ・アーレントはその無理解をも思考する能力の欠如と考えたようですが。
「生きることは思考することである」というのは彼女が敬愛する師、ハイデッガーの思考でもあったのですね。
しかし、一般庶民である私を始め、多くの人々は、先導するだれかにひきずられ、自ら考えない。
一度マスコミ等で一方的な報道がなされれば、
皆それに倣えとなってしまう。
その形は現代なおいっそう濃いかもしれません。
彼女のように、自分できちんと考えることが出来る人がたくさんいれば、
そもそも戦争なども起きないかもしれません・・・。



私が本作で思うことは、それよりもむしろ、
そうしたバッシングに遭いながらも、自ら正しいと思うことを、
曲げずに堂々と主張する彼女のその強さです。
絶対悪とはーーー。
考える力とはーーー。
自らも収容所に収監された経験を持つ彼女が、
ここまで学び、あたためてきた持論。
彼女には自分自身の考えに少しのゆるぎもありません。
そして又、そういう彼女だからこそ、
彼女を目の敵にする人も多いけれど、
彼女を信頼し、力になる人々も多いのです。
そこが又彼女の力になっているわけですね。
若く、考えの柔軟な学生たちの拍手に、
彼女はどれだけ力づけられたことか。



このハンナ・アーレントを演じるバルバラ・スコバさんの容貌がいい。
がっしりと意思が強そうで、
けれども怖いオバサンではなくて、
若き日の美しさが想像できて、気品がある。
こんな風に年をとりたいものだなあ・・・と
かねてから思っていたのですけれど。
女として憧れます。



「ハンナ・アーレント」

2012年/ドイツ・ルクセンブルク、フランス
監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ
出演:バルバラ・スコバ、アクセル・ミルベルク、ジャネット・マクティア、ユリア・イェンテ、ウルリッヒ・ノエテン

信念を持つ人の強さ★★★★☆
満足度★★★☆☆


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