映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

嗤う分身

2014年11月12日 | 映画(わ行)
しびれるほどにユニーク!!



* * * * * * * * * *

ドストエフスキー原作の不条理スリラー
・・・という触れ込みに惹かれまして、拝見。


気が小さくて人付き合いも不器用、
目立たない男サイモン(ジェシー・アイゼンバーグ)。
向かいのアパートに住む同僚のハナ(ミア・ワシコウスカ)を
密かに望遠鏡で覗き見るのが唯一の楽しみという全くサエない男。

しかしある日、サイモンの職場に彼と瓜二つの男、ジェームズが入社してきます。
彼は明るく、人との会話も流暢で、女あしらいも上手い。
そしていつしか、ジェームズがサイモンの位置に入れ替わって行く・・・。



本作の場の設定がなんとも独特です。
時代も場所も不明。
サイモンの会社は情報処理の会社らしいのですが、
とにかくレトロです。
コンピューターはある。
けれど二時代前くらいの感じ。
オフィスの雰囲気もこれはもう二時代どころではなく100年前くらいの感じ。
デジタルのはずなのですが、
完璧にアナログの雰囲気。
そして、本作すべてが夜なんですね。
日が差し込んでくるシーンがひとつもない。
そう言えば冒頭の電車の中のシーン、
あれは出勤時のことでしたが、地下鉄だったんですね!! 
陰影に隈取られた映像は、カラーではあるものの、ほとんどモノクロに近い。
というところがまたレトロな雰囲気を醸し出しているわけです。
そして、登場人物たちがとにかく無表情。
特にサイモンは・・・。
そんな中で、ただ一人、日向に咲く花のように生きた存在感を見せるのが、
ハナなのであります。
そりゃ憧れるのも無理はない。



さてしかし、突然現れたジェームズとは何者なのか?
おそらくは、普段サイモンが「こうありたい」と願っている自分なのでしょう。
しかし、ここまで瓜二つで、
どうしようもないくらいにダサいスーツまで同じなのに、
そのことを誰もふしぎに思わない。

そして何故か彼らには、この2人の区別がちゃんと付くようなのです!! 
それはもう、片や有能男のオーラを放っており、
片や存在感ゼロの透明人間みたいな男、
ということなのでしょう。
サイモンは入社7年になるというのに、
彼のことをきちんと認識できている人がほとんどいない。
ついには会社のデータから彼のIDが消えてしまえば、
もう誰も彼のことをこの会社の人間だと認めてくれない。
ここのくだりは、個人を人間としてでなくIDで管理してしまう
昨今の風潮への痛切な皮肉にもなっているわけです。


「こうありたい」と願っていたはずの自分に、
「ホンモノ」の自分が抹消されていく・・・。
これはつまり、逆に言うと、
自分は自分のままでいいのだ・・・ということでしょうか。
それとも、自分の中に、別の自分が潜んでいることへの警鐘・・・?
実は誰も他人のことなどちゃんとわかってはいないということ?
まあ、そういう答えは、見た人それぞれの中にある。
そういう作品なのでしょう。
いろいろな思いが巡って・・・だから面白い。
でも、ハナが初めて本当のサイモンの「心」を知るシーンが、
やはりジーンと来ます。



望遠鏡で覗いていた相手が自分に向かて「バイバイ」と手を振り、
その直後飛び降り自殺をする、
ということの繰り返しも効果的でした。


さてそれからまた本作で驚いたのが、突如流れる日本の昭和歌謡。
“SUKIYAKI”つまり、坂本九の「上を向いて歩こう」には
ほとんど泣きそうになりました。
しかし、それだけではなく、
なんとジャッキー吉川とブルーコメッツ「草原の輝き」、「ブルーシャトー」!!
なんと懐かしい!!
しびれるくらいに、ユニークな作品でした!!



「嗤う分身」
2013年/イギリス/93分
監督:リチャード・アイオアデイ
原作:フョードル・ドストエフスキー
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、ミア・ワシコウスカ、ウォーレス・ショーン、ノア・テイラー、ヤスミン・ペイジ

レトロ度★★★★☆
不条理度★★★★★
満足度★★★★☆


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1 コメント

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音楽 (こに)
2014-11-16 11:53:32
前情報で知ってはいましたが、映像と重ねて聞くとまた変な感じ。
日本の歌謡曲が海外でどんな風に聴かれているのか日本人には不思議なところでもあります。
「上を向いて歩こう」はサイモンの気持ちにピッタリ過ぎて本当に切なかったです。

エンディングは原作とは全く違いました。
サイモンとハナが互いの孤独を埋め合っていけたら良いな、と思いつつ、これもサイモンの幻覚?と考えたり、鑑賞者の受取次第で大きく印象の変わる映画でしたね。
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