映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「解錠師」 スティーヴ・ハミルトン

2013年04月01日 | 本(ミステリ)
「今」を生きる若者の、瑞々しい青春小説。 


解錠師 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
越前敏弥
早川書房


* * * * * * * *

八歳の時にある出来事から言葉を失ってしまったマイク。
だが彼には才能があった。
絵を描くこと、そしてどんな錠も開くことが出来る才能だ。
孤独な彼は錠前を友に成長する。
やがて高校生となったある日、ひょんなことからプロの金庫破りの弟子となり、
芸術的腕前を持つ解錠師に……
非情な犯罪の世界に生きる少年の光と影を描き、
MWA賞最優秀長篇賞、CWA賞スティール・ダガー賞など世界のミステリ賞を獲得した話題作


* * * * * * * *

「解錠師」とは、ちょっぴりいかめしく取っ付きにくい題名でしたが、
読んでみれば、これは現代に生きる若者の、
大変みずみずしい青春小説なのでした。
原題 "THE LOCK ARTIST" 
この方が雰囲気には合いそうです。


言葉を失ったマイクルは、今は刑務所にいます。
このストーリーは、彼自身がこのようになってしまった経緯を文章にしている、という体裁になっています。
だから語る言葉は彼自身のもの。
金庫破りの犯罪者と言うイメージとは遠い、
内省的な美しい文章です。
物語は、彼がドアや金庫の鍵に興味を持ち、鍵なしにそれを開ける様になった経緯と
刑務所に入るまでの経緯が交互に語られ、
そして、そもそも彼が言葉を失ってしまった事件については
最期のほうで明かされています。
彼はなぜ鍵を開けるのか。
そもそもの原因は本当はここに隠されているのです。
それはとても切ない。


そして重要なのは、一人の少女、アメリアのこと。
アメリアとマイクルは言葉の代わりに、
お互いにコミックのイラストで気持ちを交わします。
二人の間にあった出来事を振り返り、
自分の気持を込めてコミックに描く。
私はこのシーンにとても惹かれてしまいました。
いかにも現代的で瑞々しい感じがします。
そしてお互いの芸術表現の才能をも表している。
口で喋らないことが、より以上に感情を伝え合うということもあるのですね。
マイクルの過去の事件についても、
マイクルは壁いっぱいに描いた絵で、アメリアに伝えるのです。
なんて劇的。
私はこの作品、是非映画化されるといいなあ・・・と思いました。
アニメーションと実写を織り交ぜて。

「解錠師」スティーヴ・ハミルトン Kindle版にて
満足度★★★★★


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
映画化! (こに)
2016-08-31 08:21:26
やっぱり映像が目に浮かびますよね。
とっても切ない青春小説でした。
ハヤカワ・ミステリには外れが少ないですね。
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厳しい邦題 (たんぽぽ)
2016-08-31 20:30:11
>こにさま
翻訳モノは、日本で発売される前にすでに淘汰されているわけなので、やはりいいものが多いですよね。
本作は「解錠師」という何やら厳しい邦題でちょっと損をしているような気がします。本当はもっとみずみずしい雰囲気なのに。
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