僕が、線を描くのではなく
* * * * * * * * * * * *
両親を交通事故で失い、喪失感の中にあった大学生の青山霜介は、
アルバイト先の展覧会場で水墨画の巨匠・篠田湖山と出会う。
なぜか湖山に気に入られ、その場で内弟子にされてしまう霜介。
それに反発した湖山の孫・千瑛は、
翌年の「湖山賞」をかけて霜介と勝負すると宣言する。
水墨画とは、筆先から生みだされる「線」の芸術。
描くのは「命」。
はじめての水墨画に戸惑いながらも魅了されていく霜介は、
線を描くことで次第に恢復していく。
* * * * * * * * * * * *
2020年本屋大賞第3位他、いくつかの賞を獲得した話題作。
図書館予約を待っているうちに文庫が出ましたので、そちらを購入しました。
事故で両親を失い、深い喪失感の中にいた大学生、青山霜介。
ふとしたきっかけで、水墨画に出会います。
・・・ということでこれは水墨画に関わるストーリー。
水墨画と聞いてなんだか地味っぽいと思ったのです、始めは。
けれどこのモノクロの世界がとてつもなく繊細で、深くて、美しい。
まずは、この水墨画の世界を文字で表現するという難題を
こともなくクリアしている著者の表現力に驚かされます。
ピアノの音をきらびやかに文字で表現してくれた
恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」が思い起こされるような・・・。
言葉の力というのはすごいですね。
霜介は、すっかり生きる意欲も失っていたところ、
水墨画の巨匠・篠田湖山やその孫娘・千瑛と出会い水墨画の道を歩み始めますが、
同時に大学の友人との交流も始まり、
彼の世界が少しずつ広がりを見せていきます。
こうした筋書きも、申し分なし。
本作の題名が「僕が、線を描く」のではなくて、
「線が、僕を描く」というのはつまり、
筆で引く線にはその人の思いや性格、人生が現れる、ということなのでしょう。
だから自分が描いた「線」を見れば、自ずと「自分自身」が描かれている。
水墨画においては、面を塗りつぶすという作業はなくて、
面は太い線という感じなんですね。
やはり書道に近いように思います。
余白なども頭に入れて、一気に描き、表現する。
修正はできません。
何度も塗り重ねていく油彩などとは全く別物であることがわかります。
まあ、自分もやってみたいとまでは思いませんが、
展覧会などがあればぜひ見てみたいですね。
「線は、僕を描く」砥上裕將 講談社文庫
満足度★★★★☆
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます