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「宇喜多の捨て嫁」 木下昌輝

2019年04月27日 | 本(その他)

生きることの苦しみを幾重にも背負いつつ・・・

宇喜多の捨て嫁 (文春文庫)
木下 昌輝
文藝春秋

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娘の嫁ぎ先を攻め滅ぼすことも厭わず、
権謀術数を駆使して戦国時代を駆け抜けた戦国大名・宇喜多直家。
裏切りと策謀にまみれた男の真実の姿とは一体…。
ピカレスク歴史小説の新旗手ここに誕生!!
第92回オール讀物新人賞をはじめ、高校生直木賞など五冠を達成した衝撃のデビュー作。

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先に読んだ「宇喜多の楽土」と同じ、戦国時代の宇喜多家を描きます。
順番が逆になりましたが、こちらのほうが先。
「宇喜多の楽土」は宇喜多秀家のことを中心に描かれていたのですが、
こちらはその父親、宇喜多直家が中心。
短編の連作形式を取りながら、時代を前後し、
異なる人物に焦点を当てながら、結果、宇喜多直家の壮絶な人生が浮かび上がるという、
構成の妙を見せる作品。

さて、宇喜多直家。
冒頭の「宇喜多の捨て嫁」で、直家の娘、於葉(およう)が
父親に対しての憎しみをぶつけます。
直家は多くの者を暗殺し、母や長女を自害させ、次女の気をくるわせてしまった。
世間でも調略を用いる卑怯で残忍な男として知られており、
肉親としても信頼できない。
そして今また自分は父の道具として「捨て嫁」にされ
挙句の果てに殺されるのかも知れない、と彼女は思っているのです。


こうした直家の人物像は、「宇喜多の楽土」で少し語られていた
秀家から見た人物像とは異なるのではないか、と思われたのですが・・・。
しかし、読み進むと問題のそれぞれの場面が詳しく語られていくのです。
確かに外から見た事実としては於葉が思っている通り。
しかし、その時々で、止むにやまれぬ事情があった。
逆に言うと下剋上の世で生き抜いていくため、
直家は優秀過ぎたということなのかも知れません。
作中で直家は「無双の抜刀術」の持ち主であると語られます。
全く無意識のうちに人の「殺気」を読み取り、
無意識に刀を抜き相手を切りつけてしまうという・・・。
それは天性のもので訓練で身につけられるものではない。
武士であれば願ったり叶ったりの能力であるわけですが・・・。
しかしそれがアダになって大事な人を切りつけてしまうことにもなる。
そしてまたこのことは実際にそばにいる人の殺意だけでなく、
他家が宇喜多家に害をなそうとする策略までをも感づき、
先回りで返り討ちにする、という能力にもつながっているようです。
何しろこの宇喜多毛の主筋にあたる浦上家というのがひどい。
少しでも他家が力をつけ自家を脅かす可能性が見えれば、その家を潰そうとする。
そのために、いつも無理難題を宇喜多に突きつける・・・。
しかしこれも下剋上の定め・・・。
そういう時代だったわけですよね・・・。
直家のいくつかの非道の行いというのも、浦上の策略のために起こったのでした。


そして直家のもう一つの強烈な特異な点。
直家は、「尻はす」という業病に冒されているのです。
体から血膿が吹き出し腐臭を放つという恐ろしい病。
最期には生きているのも不思議というような状態で、臥せったまま、戦の司令を出し続けます。


生きることの苦しみを幾重にも背負ったような・・・壮絶な人生が見えてきます。
しかし彼は調略など敵将を直接暗殺するなどの手を用い、
ときにはあっさり降参するなどし、
いたずらに戦で多くの民を死なせることがなかった。
そしてまた戦で行き場を失った流人を受け入れ仕事を与えることなどもしたというわけで、
於葉などの身内にとってはとんでもない人物かもしてないけれど、
国主としてはなかなかできた人物だったのかも・・・。
というところで、「宇喜多の楽土」へつながるわけです。
今どきの政治家に読んでもらいたい本だなあ・・・。


図書館蔵書にて(単行本)
「宇喜多の捨て嫁」 木下昌輝 文藝春秋
満足度★★★★☆

 



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