映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男

2018年04月07日 | 映画(あ行)

重大な決断を下す時の重圧と孤独

* * * * * * * * * *

英国チャーチル首相就任からダンケルクの闘いまでの知られざる4週間を描きます。


ナチスドイツの侵略により、フランスは陥落寸前。
イギリスにも侵略の脅威が間近に迫っています。
そんなころ、ウィンストン・チャーチル(ゲイリー・オールドマン)が挙国一致内閣の首相に就任。
彼はドイツとの徹底抗戦を主張しますが、和平交渉派に追い込まれ、孤立していきます。
折しも北フランス、ダンケルクで連合軍が窮地に至っている。
いよいよ英国としての対ドイツの方針を決定しなければならないのだが・・・。

チャーチル首相はかなり偏屈で扱いにくい人物だったようで、
本作、まず新任の秘書が彼のもとへ出向くところから始まるのです。
若く、希望に燃えたレイトン嬢(リリー・ジェームズ)。
しかし、ベッドの上で彼が矢継ぎ早に繰り出す言葉をさっそくタイプしなければならない。
挙げ句に、タイプの書式が言うとおりになっていないとか
タイプの音がうるさいとか怒鳴られ、泣き出す寸前・・・。
とてもユーモラスなシーンなのですが、
私達は彼女の目線でチャーチルを見て、ちょっと怖いけれどなんだか人間味溢れて面白そう・・・
そんな第一印象をいだきつつ本作に望むことになります。
すごくいいオープニングのシーンです。
そんな彼女の様子をみたチャーチル夫人(クリスティン・スコット・トーマス)が、夫に苦言を呈します。
チャーチルに小言を言えるのは奥様だけのようですね。
そんなチャーチル邸に届いたのが宮廷からの手紙。
「宮廷からの手紙」というだけで要件はわかってしまうのです。
つまり国王ジョージ6世から、首相を任命されることを意味する。

ダンケルクのことはもちろんですが、ジョージ6世についても、
ここ数年私は英国のこの時代の映画や本に触れることが多くて、
妙に親しみを感じてしまうのです。
今後も、チャーチル氏が登場しただけで嬉しくなってしまうのだろうなあ・・・。

さてそれにしても、通常、情報公開や非戦を「正義」と感じている私、
チャーチル氏の言うことには疑問を感じてしまうのです。
戦況が苦しいことは公にしない。
「フランスは一部がドイツに占拠されているだけ。まだ侵略ではない・・・。」
まるで先に見た米国のベトナム戦争の話のようです。
そして、彼は徹底抗戦を主張するのですが、大方は和平交渉に傾いている。
あえて闘って大きな犠牲を払うよりも
むしろ極力有利な条件をつけながら和平の道をたどるべきなのではないか・・・
という消極的意見が多いわけです。
常の私なら、そちらに軍配を上げると思う・・・。



けれども、常のことでは語れないのは、相手があのヒトラーだということ。
うまい条件なんか多分引き出せなかったに違いない、とは思います。
そしてまた、想像してしまいます。
もしこの時イギリスが闘わずにヒトラーの軍門に降ったとしたら、
世界はどうなってしまったのだろう・・・。
ヒトラーの独裁政治がもっと拡大し長きに渡ったとしたら・・・。
考えるだけでも恐ろしいですね・・・。



こう考えると、チャーチルの決断はイギリスのみにかかわらず、まさに「世界」のための決断だった。
ものすごい重大な決断をくださなければならない重圧、孤独感。
それがひしひしと感じられました。
ダンケルクのダイナモ作戦寸前、フランスのカレーの地で、
おとり役となった部隊があったということは今回はじめて知りました。
こうした多大な犠牲を払った上、ダンケルクでは多くの兵を救うことが出来ましたが、
その後、ロンドンは空襲を受け、さらに多大な犠牲を払うことになる・・・。
地位とか名誉だけのことではなくて、実際問題として多くの人命がかかった恐ろしい決断・・・。
一旦は和平交渉に傾きかけたチャーチルが、
どうしてまた徹底抗戦へ舵を切ったかそのエピソードも秀逸です。
まさにドラマチック・・・と言いたいけれど実際にあったことなんですねえ・・・。

ゲイリー・オールドマン、アカデミー賞主演男優賞。
また、辻一弘さんがメイクアップ&ヘアスタイリング賞。
納得の素晴らしい作品でした。
あ、ジョージ6世の部屋にちゃんとコーギーもいました!

<ディノスシネマズにて>
2017年/イギリス/125分
監督:ジョー・ライト
出演:ゲイリー・オールドマン、クリスティン・スコット・トーマス、リリー・ジェームズ、スティーブン・デイレイン、ベン・メンデルソン

歴史発掘度★★★★★
チャーチルの人間味★★★★★
満足度★★★★★