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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「シティ・マラソンズ」三浦しをん、あさのあつこ、近藤史恵

2013年04月23日 | 本(その他)
風を切って走る爽快感があふれる一冊

シティ・マラソンズ (文春文庫)
三浦 しをん,近藤 史恵,あさの あつこ
文藝春秋


            * * * * * * * * *

社長命令で、突然ニューヨークシティマラソンに参加することになった安部広和。
かつて家庭教師をしていた社長の娘・真結を監視しろというのだ。
(「純白のライン」三浦しをん)
ニューヨークで、東京で、パリで。
彼らは、ふたたびスタートラインに立った―。
人気作家がアスリートのその後を描く、三つの都市を走る物語。


            * * * * * * * * *

三浦しをんさんで、マラソンがテーマとくれば
思い出すのが「風が強く吹いている」。
(こちらは駅伝ですが)
そんなことでこの本を手にとって見れば、
他にあさのあつこさん、近藤史恵さんの
共にマラソンをテーマとした短篇集ということで、興味をそそられました。
どなたも好きな作家です。


三浦しをん「純白のライン」ではニューヨークマラソン、
あさのあつこ「フィニッシュゲートから」では東京マラソン、
そして近藤史恵「金色の風」ではパリ・マラソンが舞台となっています。
けれど、躍起になってタイムを伸ばそうとか
少しでも上位を目指そうなどと思ってはいません。
主人公たちはかつて何かしらの頂点を目指していたけれども挫折。
中途半端に終ってしまった夢に、
何か後ろめたさを抱えているのです・・・。
考えてみれば、何においても頂点に立つのはほんの一握りの人々。
殆どの人は、手が届かないか挫折した夢と
なんとか折り合いをつけながら生きていくんですよね。
本巻の主人公たちは、いろいろな人との出会いの中で、
モヤモヤした思いをふっきり、
人と競うのではなく、ただ自分が好きだから"走る"ことをしようと思うのです。
これぞシティ・マラソン。
風を切って走る爽快感があふれる一冊。


特に、三浦しをんさんのニューヨークマラソンで、
クイーンズボロブリッジからマンハッタン沿道に入る付近の記述には思わず胸が熱くなりました。

・・・前方のマンハッタン島から地響きが聞こえてくる。
最初はなんの音だかわからなかった。
橋を下りて視界がひらけた途端、
広和も真結も思わず、「うわあ」と声を上げた。
沿道には大観衆が押し寄せていた。
地響きの正体は、見物人の声援と拍手と足踏みの音だった。


ニューヨーカーはクールな印象がありますが、
こうして走者に心からの声援を送る人情味は、日本でもどこでも一緒なんですね。


ところでこの本の読後に、
ショッキングな事件が起こりました。
ボストンマラソンでの爆破事件。
ゴール付近の出来事でした。
先に引用した文にもあるように、
おそらくたくさんの人たちが、応援につめかけていたに違いないのです。
こんなにも暖かな感動に包まれるべきはずの場所で
こんな卑劣な行為が行われるなんて・・・
残念でなりません。
事件の背景はまだ明らかではありませんが、
こんなことが二度とないよう、祈るばかりです。


「シティ・マラソンズ」三浦しをん、あさのあつこ、近藤史恵 文春文庫
満足度★★★★★