映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

2008年05月06日 | 映画(さ行)

20世紀初頭カリフォルニア。
黙々と石油採掘をする男の姿。
それが、この主人公、ダニエル・デイ=ルイス演じるダニエル・プレインビューであります。
彼は、貪欲に石油の採掘が見込まれる土地を安く買占め、富と権力を得ていく。
この人物像が、なんとも強烈で、とにかく圧倒されっぱなし。
158分、怒涛のうちに過ぎてしまう、という感じでした。
金銭欲と権力欲のかたまり。
プライドが高く・・・。しかし誰も愛さないし、誰からも愛されない。
富を得れば得るほど、孤独が浮かび上がるように思います。
そんな彼が、最後に求めたのは肉親。
心の底では、やはりほんの切れ端でもいいから信頼とか、愛情とか、そういうものを欲していた。
だから、子供を育て、弟を受け入れた。
しかし、これらはやがて、裏切られてしまうわけです。
そこで、彼はついに壊れてしまう。

さて、このプレインビューと好一対なのがカリスマ牧師のイーライ。
牧師とはいいながら、彼も金銭欲、権力欲にまみれた俗物。
彼の教会では牧師の説教などというものではない、まさにショーが繰り広げられる。
プレインビューはすぐにも、イーライに自分と同じにおいをかぎつける。
この2人のやりとりが、またすさまじい。
まさしく、同類だからこその確執なのでしょう。
このために最後の狂った結末へと突き進む。

この作品に、息子H・Wの配置は重要ですね。
彼は、プレインビューが相手の信用を得るための道具の役割を担うのですが・・・。
彼は、事故前も事故後も、ひたすら父親の仕事をじっと見ている。
特に、事故後は余計に物言わぬ「目」となっている。
いつしか、プレインビューにはその視線がつらくなっていたのではないか。
まあ、映画ではそんなことは言っていませんが、想像してしまうのです。
それにしても、彼には良き伴侶も見つかって、
こんな環境でも、まっとうに育ったようで・・・、
オバサンは、ほっとしております・・・。

さて、この映画をさらに盛り立てているのは音楽。
ジョニー・グリーンウッドによるもの。
ボリュームが大きく不気味で不協和。
これが、不安を掻き立てる。
いつもながら、映画における音楽の力はすごいですが、ここではまた格別でした。

この映画を見た後の心境は、どう表現してよいものやら、
感動・・・というのともちょっと違う。
毒気に当てられて、放心状態。
そんな感じでしょうか。すごいもの見ちゃった・・・。
「映画力」あります。

2007年/アメリカ/158分
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス、ポール・ダノ、ケビン・J・オコナー、ディロン・フレイジャー
「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」公式サイト