「くちぶえサンドイッチ」 松浦弥太郎 集英社文庫
中目黒の古書店店主にして、「暮らしの手帳」編集長。
40代男性のこの方のエッセイは、はっとさせられます。
散文なのに、詩の奥行きがある。
日常を描いているのに、生活感が無い。
若い頃ニューヨークに住んだこともある、という、そんなせいのはずもないのですが、スタイリッシュで清潔感がある。
・・・そう、なぜか清潔感。
彼自身のことを歌ったと思われる詩がありまして、
その中に、まさにこんな一文がありました。
「この男は、
質素といえど、不潔を嫌い、
いかなる時でも清潔にと思っている。
その手が土や砂でまみれていようと、
心の目で見て清潔であれば、他はどうでもいいとさえ思っている。」
なるほど、これは意識してそうなのでしょうか。
たとえば、女性と会ったその日のうちに、夜を共にするなんて話もいくつか出てきたりするのですが、ぜんぜんいやらしくない。
そのことについてはこんなことが書かれています。
「僕らの生活の中でもっとも日常的な美しさ、その一つが性愛なのです。
たとえば「嘘でもいいからやさしい言葉が聞きたい」。
なんて美しい言葉なのでしょうか。
性愛はそんな目に見えない、ふとしたところにあるのです。
性愛、それは閉ざさずにさわやかで心地よい歓びとして、
僕は大切にしたいと思っています。」
ほら、性愛について書いていながらこんなに爽やか。
なかなかまねできる文章ではありませんね。
すごい感覚です。
いえ、感覚というより生活信条なのか。
自分のあり方を信じている感じがします。
だからって、がむしゃらに突き進むのではなく、ふいと風にいなされて見せる。
自分の帰るところがわかっているからこその自由を感じます。
こんな男性は、ちょっとあこがれるなあ・・・。
満足度★★★★