MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

アメリカにおける「文学」の無力さについて

2018-04-13 00:54:53 | Weblog

 『フィリップ・マーロウの教える生き方(Philip Marlowe's Guide To Life)』という本が最近出版された。レイモンド・チャンドラー(Raymond Chandler)の小説からマーティン・アッシャー(Martin Asher)という編集者がチョイスした名言が掲載されている。いつものように村上春樹が訳している。
 とても興味深い記述があったのでまずは引用してみる。「編者のまえがき」である。

「マーロウの時代にいかに悪が問題になっていたにせよ、もしあなたにそれなりの才覚が備わっていれば、あなたは誰がグッド・ガイであり、誰がバッド・ガイであったかをちゃんと見分けられたはずだ(女たちだってバッド・ガイになり得るのだ)。しかしながら、彼はリチャード・ニクソンをどのように扱っただろうと考えると、私はいささか首をひねってしまうことになる。あるいはケネス・レイ(エンロンの会長)を。またマーサ・スチュワートを(彼女はマーロウ好みの金髪というのではないにせよ)。それがラッシュ・リンボーやマイケル・ジャクソンやドナルド・トランプやマドンナやジョージ・スタインブレナー(実業家。30年以上にわたってNYヤンキーズのオーナーをつとめた)となると、あえて言うには及ぶまい。そんなわけで、私は見事な寸言と、マーロウの見解のいくつかを、この問題に満ちた時代への言及としてすぐに引き出せるよう、簡明なフォーマットのもとにまとめてみた。」(p.20-21)

 ケネス・レイ(Kenneth Lay)は2006年に、ジョージ・スタインブレナー(George Steinbrenner)は2010年に亡くなっており、実業家のマーサ・スチュワート(Martha Stewart)や米右派でタカ派のラジオパーソナリティーのラッシュ・リンボー(Rush Limbaugh)はやらかして逮捕されているからともかくとして、マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)やマドンナ(Madonna)は見逃せても、ドナルド・トランプ(Donald Trump)という名前を見逃すことはできない。
 原書が出版されたのは2005年で、まさかその12年後にトランプがアメリカの大統領になっているとは編者のマーティン・アッシャーは想像もしていなかったであろう。つまりこの時、アメリカ人に「文学」は無力であることが証明されたのである。


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