MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『婚約者の友人』

2018-04-05 21:59:17 | goo映画レビュー

原題:『Frantz』
監督:フランソワ・オゾン
脚本:フランソワ・オゾン
撮影:パスカル・マルティ
出演:ピエール・ニネ/パウラ・ベーア/エルンスト・シュトッツナー/マリー・グルーバー
2016年/フランス・ドイツ

「自殺」することで他者の人生を幸せにする主人公について

 1919年、第一次世界大戦終了直後のドイツのクヴェードリンブルクに婚約者の両親と暮していた主人公のアンナは戦死したフランツ・ホフマイスターの墓に毎日のように花を供えにきており、1918年9月15日に亡くなったということはわかっていたが、遺体は返還されていなかった。そこを訪れてきたのがフランス人で24歳のアドリアンだった。彼はフランツの友人として墓参しており、最初は父親のハンス・ホフマイスターは彼を拒絶していたのだが、フランツとの思い出を語ってくれるアドリアンを妻のマグダと一緒に食事に招待するようになり、親しくなった矢先に、アンナにアドリアンはフランツを銃殺したのは自分自身であると告白する。
 アドリアンは真実を彼の両親に言わないまま帰国し、アンナも彼の懺悔を伝えなかったために事情を知らない彼の両親はアドリアンのことが気になっていた。さらにアンナが返信した手紙が送り返されてきたことで、アンナがフランスまでアドリアンに会いに行くことになった。
 彼の叔母からアドリアンの住所を突き止めたアンナはアドリアンと再会するのであるが、彼にはファニーという幼なじみがいて、彼の母親と共に暮しており、アンナはアドリアンに対する密かな想いを伝えられないまま彼のもとを去るのである。
 本作の制作意図が何かと考える上で重要になるものはエドゥアール・マネ(Édouard Manet)が描いた『自殺(Le Suicidé)』という作品である。それはもちろんアンナやアドリアンが自殺を試みたということだけではない。アンナがフランツの両親に彼の死因を伝えなかったのは、美術館を一緒に巡ったりバイオリンを教えてくれたりしたアドリアンという素敵な友人がいたという「物語」があった方が彼の両親にとっては良いはずだし、アドリアンに自分の本心を伝えない方が、アドリアンの人生には都合が良いはずだからで、それは要するにアンナにとっては「自殺」を意味し、よって事実を言えないアンナは両親のもとにも帰ることができず、パリの街で『自殺』を見つめているのである。
 因みに『自殺』はビュールレ・コレクション(Foundation E.G. Bührle Collection)に収蔵されているようなのだが、現在、国立新美術館で催されている「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」には残念なことに含まれていない。


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