昨日に引き続き、塚本一氏の著書『知恵大国 フランス』(1992年刊)からの引用です。

(パンテオン・・・地下にはフランスの偉人たちが眠っています)
・常に相手を言い負かしてやろう、何か新しい違ったことをいって、相手を驚かしてやろうと考えているのがフランス人なのだ。シモーヌ・ベイユ元欧州議会議長は、「フランス人の創造力は遺産と意思だ。存在したいとの意思、能力を示したいとの意思からきている」といっている。
・しかし、フランスでは、よいものが悪いものと抱き合わせになっているのも事実だ。フランス人の創造力、これを生み出す源泉になっている個性の強さが、アイディアを大量生産商品として工業化、商品化する段階でしばしばマイナスとなってあらわれることがあるからである。創造力は二流でも工業化商品化は一流の日本とは全く逆の現象である。この点についても、ガターズ(フランス全国経営者会議前会長)は明確に分析する。「製品の世界的普及では、日本人は世界の“王様”で、フランス人は最低だ。創造能力は高くても、工業化と販売という製品の普及の面で能力が低くなってしまうのではしようがないが、でもこれは本当のことである。日本人に比べて、われわれには大きく欠落したものがある。それは『グループ意識』と呼ばれているものだ。われわれは根本的に個人主義者なのである。フランスの技術者はたえまなく創造的想像力を働かせる。生産計画を見せられて、ドイツやアメリカや日本の技術者なら『これは大量生産するものだから、私はよけいな口出しはしない。これでうまくいく』というときでも、フランスの技術者は、『私にはいい考えがある。ここを変えたほうがいい』と口出しをする。フランス人は、まず示されたプランを変えることからはじめる。この変更がどれだけ高くつくかということは、考えないのだ。それがたとえよいアイディアだとしても、採算に合わなければ意味がないのに、そんなことは頭の中にはないのだ。われわれは自らの個人主義の犠牲になっている」
・フランスの慢性的な貿易赤字の原因にはいろいろあるが、その一つは、フランスがあまりにも住みやすいところである上、フランス人がもともと農耕民族で、土地を愛する習性が強く、外国に住みたがらないこと、外国に商売に出かけたがらないことである。製品を売り込むためには、外国に長期間住んで、現地の販売関係者との人間関係を深め、販売網をつくるという地道な努力を重ね、顧客のニーズも敏感につかんで製品に反映させる必要がある。だが、フランス人にはこれが全く苦手なのである。(中略)店を一軒一軒まわって御用聞きをすればいま何が売れているか、顧客が何を欲しているかがわかり、そうしたニーズを製品に反映することができるが、フランス人はこうした細かな手間暇のかかる仕事は苦手で、高くて大きな品物を相手国の公的機関などに売りつけて、おおまかに稼ごうとするところがある。兵器やTGVや地下鉄システム、プラントなどの輸出がそうである。
・ソニー・フランスのミシェル・ガリアナマンゴ社長は、次のように述べている。「フランス人は輸出に当たって、少し政治的な動きをすることが多い。例えば、大使館に行ったりするような・・・。それに対し、外国の商売人は小さな店をまわることからはじめ、自分の商品を売り込んだり、どんな商品が売れているかを知ろうとする。フランス人はあまりプラグマティック(実用的)な人間ではない。消費者のニーズに合う製品をつくるという反射神経が、フランス人には他の国民よりも劣っている。フランス人は“観念の世界”に住んでいて、商売よりも政治により魅力を感じている。これがフランス人の欠点だといえる」
・外国に行きたがらず、輸出に弱いのは、フランス人が外国語に弱いことも大きな原因の一つとされている。フランス人は中国人とともに、名だたる“へそ主義”(中華思想)の国である。フランス語は過去にヨーロッパの支配層の共通語であったという歴史を持っている。(中略)また、フランスは広大な植民地の民にフランス語とフランス文化を教え込もうとする文化的伝導の使命に燃えていた時期があった。そのため、フランス人にとっての外国人とのコミュニケーションとは、外国人がフランス語を覚えて行うものであり、フランス人が外国語を覚えることによってではないという意識が長らくしみついていた。大国としての過去を持つ国はどことも外国語への関心が薄いもので、これはフランスの大国としての過去の遺産ともいえる。
・フランスではエリートはよく働くが、労働者やヒラ社員の労働モラルは、それほど高くない。朝は遅刻することが多いし、夕刻も退社三十分前になると、もう仕事をする態勢ではなくなってしまう。その理由の一つは、人材活用面での風通しの悪さである。働いても上に上がれないのなら、できるだけ無理な労働はしないようにしよう―――そう考えるのは人情である。だから、フランス人は残業もあまりやりたがらない。それに対し、エリートは実によく働く。日本の会社でしばしば見られるような、部長は座っているだけで下がすべてやってくれるというようなことはない。「フランス人は上司が十分にその能力があるときにのみ、上司に対して従順」(ガリアナマンゴ社長)で、上のものは事態をよく把握して適切な指示を出さないと、下がいうことをきいてくれない。
・成功が愛されないフランスの社会では、金持ちは富裕ぶりをとくに見せびらかしたりはしない。普段の生活では、大金持ちも中流階級も外見からは区別がつかないことが多い。金持ちが住むアパートも、中に入ると調度などがやはり違うが、外から見ただけでは区別がつかない。車にしても、金持ちだからデラックス車をこれ見よがしに乗りまわすということはない。
・フランス人は人を攻撃したり議論したりするときは、自分の都合のよいところだけしかいわないから、一人一人の言い分を聞いていると、非常に独善的に見える。フランス人は“デカルトの国”として論理的思考を強調する癖があるが、ラテンの国として感情的な面も非常に強い。それに、みんなが口達者だから、町でも口論はよく見かける。感心なのは、どんなに激しく口論しても、手は出さないことだ。ただ、自分の非はめったに認めない。
・フランス人は経済面では非常に保守的で、少なくても確実な利益を好む“年金生活者メンタリティ”が体にしみこんでいる。そのため、先行きのはっきりしないリスクを嫌う傾向が強い。新しい分野に対しても、国の強力な支援でもない限り、あえて危険を冒してまで乗り出そうとはせず、結局は新しい趨勢に乗り遅れてしまうことになる。
・確かにサービス部門の中でもとくに強い期待を抱かせるのは、コンピュータ・ソフトでのフランスでの健闘ぶりである。近年、ソフトウェアの重要性が高まっており、その売り上げも急速に伸びている。(中略)ソフトウェアでは、フランスが得意とする個人の創造性が発揮しやすい。集積回路(IC)を組み込んだICカードを発明したのはフランス人のロラン・モレノで、この特許は世界八十五社に売られ、世界中で五千万枚以上のICカードが発行されている。
日本の地理上の対蹠点はアルゼンチン沖ですが、精神文化の面ではフランスかもしれない。しかしそれだけに、お互い学べるところもあるでしょうし、反面教師として利用することもできるのではないでしょうか。引き続きこの国を鏡に、祖国・日本について考えていきたいと思います。
↓アクセスランキングへ「励みの一票」をお願いします!
日記アクセスランキング

(パンテオン・・・地下にはフランスの偉人たちが眠っています)
・常に相手を言い負かしてやろう、何か新しい違ったことをいって、相手を驚かしてやろうと考えているのがフランス人なのだ。シモーヌ・ベイユ元欧州議会議長は、「フランス人の創造力は遺産と意思だ。存在したいとの意思、能力を示したいとの意思からきている」といっている。
・しかし、フランスでは、よいものが悪いものと抱き合わせになっているのも事実だ。フランス人の創造力、これを生み出す源泉になっている個性の強さが、アイディアを大量生産商品として工業化、商品化する段階でしばしばマイナスとなってあらわれることがあるからである。創造力は二流でも工業化商品化は一流の日本とは全く逆の現象である。この点についても、ガターズ(フランス全国経営者会議前会長)は明確に分析する。「製品の世界的普及では、日本人は世界の“王様”で、フランス人は最低だ。創造能力は高くても、工業化と販売という製品の普及の面で能力が低くなってしまうのではしようがないが、でもこれは本当のことである。日本人に比べて、われわれには大きく欠落したものがある。それは『グループ意識』と呼ばれているものだ。われわれは根本的に個人主義者なのである。フランスの技術者はたえまなく創造的想像力を働かせる。生産計画を見せられて、ドイツやアメリカや日本の技術者なら『これは大量生産するものだから、私はよけいな口出しはしない。これでうまくいく』というときでも、フランスの技術者は、『私にはいい考えがある。ここを変えたほうがいい』と口出しをする。フランス人は、まず示されたプランを変えることからはじめる。この変更がどれだけ高くつくかということは、考えないのだ。それがたとえよいアイディアだとしても、採算に合わなければ意味がないのに、そんなことは頭の中にはないのだ。われわれは自らの個人主義の犠牲になっている」
・フランスの慢性的な貿易赤字の原因にはいろいろあるが、その一つは、フランスがあまりにも住みやすいところである上、フランス人がもともと農耕民族で、土地を愛する習性が強く、外国に住みたがらないこと、外国に商売に出かけたがらないことである。製品を売り込むためには、外国に長期間住んで、現地の販売関係者との人間関係を深め、販売網をつくるという地道な努力を重ね、顧客のニーズも敏感につかんで製品に反映させる必要がある。だが、フランス人にはこれが全く苦手なのである。(中略)店を一軒一軒まわって御用聞きをすればいま何が売れているか、顧客が何を欲しているかがわかり、そうしたニーズを製品に反映することができるが、フランス人はこうした細かな手間暇のかかる仕事は苦手で、高くて大きな品物を相手国の公的機関などに売りつけて、おおまかに稼ごうとするところがある。兵器やTGVや地下鉄システム、プラントなどの輸出がそうである。
・ソニー・フランスのミシェル・ガリアナマンゴ社長は、次のように述べている。「フランス人は輸出に当たって、少し政治的な動きをすることが多い。例えば、大使館に行ったりするような・・・。それに対し、外国の商売人は小さな店をまわることからはじめ、自分の商品を売り込んだり、どんな商品が売れているかを知ろうとする。フランス人はあまりプラグマティック(実用的)な人間ではない。消費者のニーズに合う製品をつくるという反射神経が、フランス人には他の国民よりも劣っている。フランス人は“観念の世界”に住んでいて、商売よりも政治により魅力を感じている。これがフランス人の欠点だといえる」
・外国に行きたがらず、輸出に弱いのは、フランス人が外国語に弱いことも大きな原因の一つとされている。フランス人は中国人とともに、名だたる“へそ主義”(中華思想)の国である。フランス語は過去にヨーロッパの支配層の共通語であったという歴史を持っている。(中略)また、フランスは広大な植民地の民にフランス語とフランス文化を教え込もうとする文化的伝導の使命に燃えていた時期があった。そのため、フランス人にとっての外国人とのコミュニケーションとは、外国人がフランス語を覚えて行うものであり、フランス人が外国語を覚えることによってではないという意識が長らくしみついていた。大国としての過去を持つ国はどことも外国語への関心が薄いもので、これはフランスの大国としての過去の遺産ともいえる。
・フランスではエリートはよく働くが、労働者やヒラ社員の労働モラルは、それほど高くない。朝は遅刻することが多いし、夕刻も退社三十分前になると、もう仕事をする態勢ではなくなってしまう。その理由の一つは、人材活用面での風通しの悪さである。働いても上に上がれないのなら、できるだけ無理な労働はしないようにしよう―――そう考えるのは人情である。だから、フランス人は残業もあまりやりたがらない。それに対し、エリートは実によく働く。日本の会社でしばしば見られるような、部長は座っているだけで下がすべてやってくれるというようなことはない。「フランス人は上司が十分にその能力があるときにのみ、上司に対して従順」(ガリアナマンゴ社長)で、上のものは事態をよく把握して適切な指示を出さないと、下がいうことをきいてくれない。
・成功が愛されないフランスの社会では、金持ちは富裕ぶりをとくに見せびらかしたりはしない。普段の生活では、大金持ちも中流階級も外見からは区別がつかないことが多い。金持ちが住むアパートも、中に入ると調度などがやはり違うが、外から見ただけでは区別がつかない。車にしても、金持ちだからデラックス車をこれ見よがしに乗りまわすということはない。
・フランス人は人を攻撃したり議論したりするときは、自分の都合のよいところだけしかいわないから、一人一人の言い分を聞いていると、非常に独善的に見える。フランス人は“デカルトの国”として論理的思考を強調する癖があるが、ラテンの国として感情的な面も非常に強い。それに、みんなが口達者だから、町でも口論はよく見かける。感心なのは、どんなに激しく口論しても、手は出さないことだ。ただ、自分の非はめったに認めない。
・フランス人は経済面では非常に保守的で、少なくても確実な利益を好む“年金生活者メンタリティ”が体にしみこんでいる。そのため、先行きのはっきりしないリスクを嫌う傾向が強い。新しい分野に対しても、国の強力な支援でもない限り、あえて危険を冒してまで乗り出そうとはせず、結局は新しい趨勢に乗り遅れてしまうことになる。
・確かにサービス部門の中でもとくに強い期待を抱かせるのは、コンピュータ・ソフトでのフランスでの健闘ぶりである。近年、ソフトウェアの重要性が高まっており、その売り上げも急速に伸びている。(中略)ソフトウェアでは、フランスが得意とする個人の創造性が発揮しやすい。集積回路(IC)を組み込んだICカードを発明したのはフランス人のロラン・モレノで、この特許は世界八十五社に売られ、世界中で五千万枚以上のICカードが発行されている。
日本の地理上の対蹠点はアルゼンチン沖ですが、精神文化の面ではフランスかもしれない。しかしそれだけに、お互い学べるところもあるでしょうし、反面教師として利用することもできるのではないでしょうか。引き続きこの国を鏡に、祖国・日本について考えていきたいと思います。
↓アクセスランキングへ「励みの一票」をお願いします!
日記アクセスランキング