活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

戦争する国、平和する国

2007-11-07 23:30:39 | 活字の海(書評の書評編)
著者 小出五郎(佼成出版社・1470円)  評者 中村 桂子
毎日新聞 11月5日(日) 10面 本と出合う-批評と紹介 より

副題:ノーベル平和賞受賞者 現コスタリカ大統領
            オスカル・アリアス・サンチェス氏と語る


冒頭に紹介された、サンチェス氏のノーベル平和賞授賞式での記念演説の
一説を読んで、結構吃驚した。

そのままの引用は芸が無さ過ぎるので要約すると、

 「自国の武器庫の在庫処分セールに中米を使うんじゃない。
  中米を、武器の無い平和な状態にしておいてほしい。」

隣国のニカラグアとは時に緊張関係に陥る状況から見ると、妥当極まりない
発言ではあるが、その一方、アメリカとの安全保障体制をも敷いている程の
強い政治的な繋がりを持っている国としては、アメリカの軍需産業の首脳陣を
イラつかせるには十分すぎるほどの刺激に満ちた発言ではないか?

#もっとも、更に穿ってみれば、それをガス抜きとして言えるくらい、
 密接な関係という可能性も有るが…。
 日本を見ていると、ついこうした小ずるい可能性も考えてしまう。

非武装中立を宣言しながら、準警察組織として軍隊に匹敵する武装を有する等、
この国の外交姿勢はなかなかにしたたかである。

ただ、この国の凄いところは、アメリカの喉仏の位置にあり、
そのプレッシャーをまともに受けながらもそのしたたかさを十分に発揮し、
冒頭の演説等の釘指しをやってのけること。

それでいて、教育への予算投入(国家予算の20%超!)や、
国立公園の面積も国土の20%超というイメージ戦略に長けていると共に、
そうした政策を実用上も軌道にきちんと乗せていることは素晴らしいと思う。

そうした国家運営は、非常に繊細なバランス感覚を要求され、多大な緊張の中、
大統領としての日々があると思われるが、この大統領が再選であることから
(連続したものではなく、初回任期終了から実に16年ぶりに再任されている)
サンチェス氏が大統領という職務に対して、少なくとも余人を持って換えがたい、
自ら取り組むべきものとして臨んでいるのであろうことは推察される。

識字率も94%というデータがあることから、周辺諸国と比して極端に良い
という訳でもない。

そんな中での国家予算の20%を教育に回すと言う事は、この国がどのような
方向を目指しているかを識る、よい指針になっている。

マンモスの牙のように、行き着くところまで来てしまった閉塞感の中に在る
日本と比べると、その内在する瞬発力は如何にも羨ましい。

#もっとも、僕は日本という国に対して、そう悲観的になっている訳でも無いが。

サンチェス氏に対して、著者が若者へのメッセージを求めたところ、

 「腐敗の中で最悪なのは、人々が聞きたがっていることを言うだけで、
  知る必要のあることを言わないことです」

という、故ケネディ大統領の言葉を挙げたという。

何が自分達に必要なのか、何が正しいのかを、自分の目と耳でしっかり掴み、
その上で自分の頭でしっかり判断しなさい、という示唆に富んだこの言葉を
若者に贈る言葉として政治家が言う。

それだけでこの大統領の魅力が分かる、と評者は述べているが、
その意見に僕も賛成である。

少なくとも、自らにも向かうその視線を受け止めるだけの度量を示している
のだから。
そうして、その視線を育むための施策を国家予算の1/5を費やして、
国が若者に行っているのだから。

どのような教育が行われているかまでは把握できていないが、
全体主義国家でもない限り、教育という場が用意されていれば、
それだけで育つ芽はあることだろう。

この国は、海外からのリタイアメント組の受け入れにも積極的だという。
風光明媚さを活かしてアピールもしているらしい。

リタイアにはまだ早いが、少し覗いてみたくなった。



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