活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

夢幻の軌道へ■KAGAYA監督トークショーinわかやま館(その6)

2011-12-06 01:20:09 | 宇宙の海

日時:平成23年8月20日(土) 午後2時~
場所:わかやま館1Fイベントホール
主催:みさと天文台友の会
テーマ:「星への憧れ-宇宙と神話の世界-」
画像提供:@j_pegasus(わかやま館元シアターディレクター村田氏)

<Atention>
 このレポートは、KAGAYA監督のトークショー、ならびにその前後に
 監督に対してブログ主が行った質問等を再構築しております。
 内容に関して事実と齟齬等有った場合には、その責は当然ながら
 全てブログ主に帰します。



■夢幻の軌道へ

そもそも。
「銀河鉄道の夜」のような作品のジャンルは、どういったものと
定義されるべきであろうか。


映画業界で、「見えないほどの遠くの空を」の監督/脚本をはじめ、
その他多くの作品の脚本やプロデューサー。その他マルチに活躍
されている榎本憲男氏によれば。

映画は、概ね以下の3つに大別できる。

 メジャー: 大手の映画会社や関連企業が幹事となって作る映画

 インディペンデント:非大手の映画会社が企画して製作する映画

 自主映画: ・監督発案の企画であり、・マイクロバジェットで、
  ・プロデューサー中心ではなく監督主導で製作する映画とする。
  出資があるかどうかはこの際問題としない。また、・監督に
  その映画の著作権(の一部でも)があるもの。

   ~togetter「榎本憲男氏(@chimumu)による”自主映画は
            いかにして商業映画に切り込むか”」より

もっとも、榎本氏の他のインタビューではインディペンデント映画
の定義を

 マイクロ・バジェットで撮る監督主導の“非制作委員会的な映画”

としていることから、インディペンダント映画と自主映画のボーダー
ラインは極めて曖昧であると思われる。

ちなみにバジェットとは、”予算”を意味する言葉である。
ハイ、ロー、マイクロといった言葉と組み合わせて用いられ、これも
榎本氏の定義によれば、マイクロパジェットとは製作資金が約200万円
以下であることを意味するとされている。

※ 榎本氏は、これらについて厳密に定義を確定させている訳ではない。
  議論をする上での共通の指標を得るための仮置きのような意味
  合いで、言葉の定義付けをされていることを注記しておく。


更に、インディペンダントに属する作品の製作資金は、こちらは
Wikipediaの記述を援用すれば10億円前後の”低”予算とされる。

こうした整理学に則れば、KAGAYA監督の「銀河鉄道の夜」は。

制作手法としては、自主映画。
予算枠としては、KAGAYA監督の映像制作環境(原画描き起こし
用のMACや、レンダリング用のWINDOWSサーバー群等)を考慮すれば、
インディペンダント映画。
双方の側面を持つ作品であると、言えるだろう。


もちろん。
映画製作における、そうしたジャンルの相違は、作品の優劣とは
シンクロしない。

その差異を一言で表わせば、人的、物的、あるいは金銭的な規模感
によるものであろう。

メジャーのように、1本の制作費が数百億円のオーダーに乗る作品は、
当然それに関与する人も金も、そして時間も幾何級数的に増大する。

これは自明であるが、そうした作品の質が比例して高まるとは限ら
ない。

むしろ。
「ターミネーター」のように、インディペンデントとして低予算
(とはいえ、約14億円であるが)で製作された映画が爆発的な
ヒットとなり、その後メジャーとしてシリーズ化される作品も
存在する。

たった一人で5年の歳月をかけて創り上げた約30分のアニメーシ
ョンがアカデミー賞を受賞したフレデリック・バックによる名作
「木を植えた男」の例も、またある。

同様に、メジャー作品ではなくとも。
「HBTTE」のように、世間のはやぶさ帰還に伴う関心の高まりと共に
プラネタリウム上映館が燎原の火のように拡大。ついには平面
スクリーン仕様としてリプリントされて、メジャー館で上映される
までになった作品もまた、存在する。


要は。
作品の成功は、それぞれの作品の区分に左右されるものではなく
(影響の度合いはもちろんあると思うが)、個々の作品の持つ力
にこそ基因するということだろう。


その意味では、ほぼ自主映画として区分される「銀河鉄道の夜」が、
興行的に百万人を超える動員数を叩き出し、十分どころか大成功を
収めており、初上映から既に5年を経過してもなお、上映館が増え
続けているとしても。
そこに、なんの不思議も無いのである。


とはいえ。
この作品は48分もの長さを持つ、フルドーム対応かつ4Kピクセルの
映像作品なのである。

それが、スポンサーも無しで創り上げられてしまう。
陳腐な表現を覚悟で言えば、これこそIT技術の成し得た成果と
言えるであろう。

もっとも。
IT技術さえあれば、それで済む訳でももちろんない。

一つのコンテンツを生み出すためには、人手も費用も、そして
時間も必要となる。


KAGAYA監督の場合には。
東京デザイナー学院を卒業された翌年の1991年には、既に
「四季の星座百科」を星の手帖社から出版されている。
(この頃は、まだお名前は本名の”加賀谷穣”である)

その後も、次々とイラストレーションを国立天文台に収めたり、
画集を発売されたりしていることから、相応の経済的基盤は
確立されていたのかもしれない。

また、KAGAYAスタジオには複数名のアシスタントが居ることも
紹介されている
ため、監督の右腕となる人手もある。


時間についても、KAGAYA監督ご自身がこの作品は10年もの
間制作を続けてきたと述懐
されている。

尚。
同じ対談の中で、今回のムービーとしての制作期間は約2年半と
紹介されている。

素直に読み取れば、ライフワークとして「銀河鉄道の夜」の
ビジュアライズ化をこつこつと7年半。
そして、ドームシアター用の映像制作に2年半を費やしたという
ことだろう。

どちらを切り出すにせよ、膨大な時間が注ぎ込まれていることは
はっきりとしている。


ただ、難しいのは。
人手と時間は、その数値が増加するほど費用が正比例で膨らんで
いくために、そのバランスの取り様をどうするのか?という点で
あろう。


更に、金も人手も時間もあっても、まだそれだけでは。
作品の、言わば具材が揃ったに過ぎない。


それらを取りまとめ、作品というカタチに仕上げるために必要な
ものは、あと二つある。


その一つは、クリエイターとしての感性。
牛肉と豚肉、それに玉ねぎがあっても、パン粉がなければ
ハンバーグが作れないように、それらの具材をまとめ上げる
繋ぎとしての感性(センス)が、どうしても必要となる。


しかも。
それらをボールにぶち込んでも、それだけではまだハンバーグ
にはならない。

しっかりと手でこねくり回し、形を整え、中の空気を抜いた上で
焼きあげるという手間をかける必要がある。

この手間に相当するものこそが、クリエイターがその作品を完成
させたいという”思いの強さ”であろう。

先に紹介した、フレデリック・バックの「木を植えた男」の場合も、
作者のそうした思い入れがあればこそ、5年の歳月をかけ、
約2万枚の原画を描き続けることを為さしめたのだと思う。

そして、KAGAYA監督と「銀河鉄道の夜」もまた。


先に紹介した、「満天」の北畠氏、ならびにKAGAYA兄弟による
対談
の中で、KAGAYA監督は

「今回のドーム映像もある意味では一つの過程なんです。
 まだこの先がありそうな気がしているんです…」

と語っている。


KAGAYA監督の中では、今もなお銀河鉄道の旅路は続いている。

例え、慣れ親しんだ車窓の風景であっても、ふとした折に新たな
発見があるように。

監督の目に映っている、あるいは映そうとしている風景もまた
変わっていくものなのだろう。


そのようにして、今日もまた。
銀河鉄道は星々の三角標の間を抜け、新しい情景への旅を続けて
いくのかもしれない。


いつの日か。またそうした中から新たに生まれた銀河鉄道に、
乗車してみたいと切に思う。

その時、僕達はどのような景色と出会えるのであろうか。


(この稿、完…と書きそうになったけれど、まだまだ続くw)

 ※ 次回から、再びトークショーに復帰です。


(付記)
先に紹介した、対談の中で。
「銀河鉄道の夜」の制作に関しては、コニカミノルタ直営の
サンシャインスターライトドーム“満天”」からの依頼を
受けてのものだとも回想されている。

ただ、その製作期間の長さから見て通常のスポンサーとして
依頼した訳ではなく、そうした作品ができたら是非上演させて
ほしいといったレベルのものだったと思われる。


このことは、対談の最後において次回作の構想を問われた際の
KAGAYA監督の回答(何年かかるか分からない…)と、それに対する
満天の北畠氏の(待ちましょう)というトーク
にもよく現れて
いると思う。



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