活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

響け!歓喜の歌声  「住之江の第九」(その7)

2010-01-30 23:59:34 | 一万人の第九(音楽の海)
開催:2010年1月24日(日) 開場:14時  開演:14時30分
会場:住吉区民センター 大ホール
指揮:木村俊明
ソプラノ:柏本淑子 
アルト:橘 知加子 
テノール:小野裕正 
バリトン:松岡剛宏
管弦楽:交野シティ・フィルハーモニック
合唱:住江第九合唱団 in OSAKA

主催:住江第九合唱団 in OSAKA実行委員会
後援:住之江区役所/住之江小学校区わがまち会議/
   大阪市生涯学習推進委員住之江区連絡会
協賛:住之江・南港ライオンズクラブ



■第4楽章

闇の中。
一人ひとりが立ち上がり、参集していくようなイメージのある第3楽章
とは打って変わって。

第4楽章は、いきなり激しい出だしから始まる。
これまでの楽章の旋律が。
アグレッシヴに繰り返され、練り上げられていく快感。
その反復は、先に待つ音が予見できるが故に。
聴くものに安心感をもたらす。

そう。
それだけで、もう十分だよと思えるほどに。


だが。
ベートーベンは、自らそれを否定する。

そう。
有名なバリトンソロの出だしである。

♪おお、友よ。この調べではない!
 もっと快い、歓びにみちた調べを
 歌いはじめよう!
            (小松雄一郎・訳)


この。
ベートーベン自ら、シラーの原詩に書き加えた部分でもって。

それまで積み上げてきた、全ての楽奏での充足を否定して。
そこに人の声が加わることで、初めて真の歓びを具現できるとする
そのベートーベンの思いが乗り移ったかのように。

曲想ががらりと変わって。
まるで雷鳴のようにティンパニが鳴り響く。
更に弦楽器が吹き荒れる風となって、これまでの流れを断ち切る。

万九を経験したものなら。
思わず、条件反射で起立してしまいそうになるところである。
(住之江では、最初から立っているが(笑))

その後。
無音となったホールの空間を。
木村先生のタクトが、そっと先導する。

それを受けて、松岡剛宏によるバリトンソロが朗々と響き渡る。

そして。
それに呼応してオケが。
続いてバスパートが。

徐々に縒り合せるように音を捻り上げていく。


最初のFreude!が、気持ち良く喉から出てくれた!
その興奮が。
思いを、加速させていく。

前へ。
もっと前へ。

ともすれば、走りそうになる気持ちを。
眼前数mで振られる木村先生のタクトが、穏やかに抑えてくれる。

Jaで始まるEのパートでは。
しっかりとボリュームを押さえ込み、静かに音を引き取る。

でも、それは。
例えて言えば、ビックバイクがアイドリングをしているようなもの。
間違っても、原付のそれではない。
大きな力を持つものが、力を密やかに蓄え、じっと時を待っている。
そのような気分で歌わないといけない。

その後に続く、神への賛歌。
vor Gottの部分。

全体にゆったり気味に指揮を振られる木村先生は、ここもしっかりと
伸ばされる。

万九の佐渡レッスンでは。
ブレスがきつくなったら、無理して声がしなびるよりもバンバンと
息継ぎをしよう。
そして、最後のGottをしっかりと締めよう。

そういう風に教えていただいた。

今回も、僕はブレスが続かずに息継ぎを何度かしてしまったけれど。
正直、100人規模の第九で、それをしてよいのだろうかという疑問は
ある。
一万人もいれば、そりゃ息継ぎがバラバラと入っても判らないだろう
けれど。
何せ、こちらは100人なのである。
この辺りは、きちんと6回のレッスンに参加していれば、先生から
ご指導もあったところなんだろうけれど、後の祭り。

次に機会があれば、是非お教えを請うことにしようと思う。

#ブレスが続かぬもの、参加する資格なし!
 もしも、こう言われると辛いなぁ。

続いて。
テノールソロと、男性パートによるマーチのような掛け合い。
この最後の爆発も、やっていて実に気持ちが良いところである。


やがて…。
ひとしきり、オケによる盛り上がりを見せた後で。
いよいよ。Mである。

第4楽章で登場した人の歌声。
それとオーケストラとの掛け合いを通じて。

ついに、ホールにいる人全てが、真の歓喜とは何かを悟る瞬間が訪れる。

それは、まるで。
「奇跡の人」でヘレン・ケラーがポンプから流れる水を手で受けた瞬間に。
万物全てに名前があり、自分がしていた指遊びが実はそれを差していたんだ!
と気がついて。

 『ウォ~』

の声を挙げるかのように。


Mの直前の2小節は、まるでその閃きの寸前の間合いのように、
僕には感じられるのだ。


人々の頭に、その予感がM直前の2小節を通じて閃きかけた刹那。

木村先生の左手が水平にすっと伸び、親指は天を指す。
それは、客電(客席の照明)をつけて!という照明係りさんへの合図。

そして、2小節のオケの前奏の盛り上がりと呼応するように客電が点灯!

木村先生はくるりと踵(きびす)を返して、客席に向かいタクトを振り下ろす!

そして。
ホールにいる、全ての人をその渦に巻き込んでの”真の歓喜”への目覚めが、
今始まるのだ。

正にそれは、第九におけるセカンド・インパクトとも呼べるものである。
#ファースト・インパクトは、第4楽章のバリトン・ソロね。



歌っている。
観客席に座っているお客様が。
そして、僕たち合唱団が。

いや。
オーケストラ団員も、楽奏を通じて。
木村先生も、指揮を通じて。

皆、全身で喜びを爆発させている!

これこそが。
ベートーベンが目指した、喜びの世界の具現化!

冒頭で掲げたベートーベンの追詩の意味が。
体の芯から実感できる瞬間である。

♪おお、友よ。この調べではない!
 もっと快い、歓びにみちた調べを
 歌いはじめよう!


(この稿、続く)




響け!歓喜の歌声―ドキュメント「一万人の第九」
大谷 幸三
阪急コミュニケーションズ

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