活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

「きみらよ反旗をひるがえせ」「砂糖ぬきのコーヒー一杯」

2009-03-02 00:17:45 | マンガの海(読了編)
著者:奥友志津子 秋田書店刊 昭和56年7月15日初版刊行


誰にでも、お気に入りの作家、作品が一つや二つ、有ると思う。
#中には僕も含めて、そんな数では済まない人も多いとは思うが(笑)。

この作品も、そんなマイフェヴァレイトな中の一つ。

初読した時から今まで。
何度、読み返したことか。

それでも、何度でも。
読み返すたびに、主人公や他の登場人物に出会うたびに。
彼らの言葉が、眼差しが、そして行動が、胸に迫ってくるのだ。

そんな作品に出会えたことを、幸せに思う。


主人公は、水瀬星子。高校三年生にして、花の(笑)受験生。
まだ昭和の時代。
今よりも、大人と子供の世界の境界線が、混沌とはしていなかった頃。
#作中にも出てくるが、何せまだ共通一次試験の頃(懐かし~)である。

大学入試という、新たな社会のとば口に立って、主人公は生を模索する。
とりあえずは、今を生きることで日々は過ぎていく。
それなりの充足感。それなりの達成感は得られる日々。
でも、ふと振り向けば、本当に今のままでよいのか?と自問する日々。

未だ目指すべき人生の目標も見極めきれず、だからこそ目的性を持たずに
生きている自分自身のふがいなさを悔やみつつも、同時に他人にも同じ
純度を求め、傷つく主人公。

それでも、日々の暮らしの中に、確かに今、自分は生きていると感じさせる
何かは、そこここに隠れているのだ。

そして。
そうした悩みが自分だけではないのだ。
同じ悩みを皆抱えながらも、自分なりの反旗を翻して人生に立ち向かって
いける同士がいるのだ。

そう感じることが出来たときの、ラストのコマの主人公の穏やかな寝顔が
読み手にも同じ癒しをもたらしてくれる。

少し長くなるが、ラストの主人公の述懐を引用しよう。

 「ともあれ 
  こんな自分でも存在が許されているということに感謝しつつ…

  わたしも進みだそうと思います
  まだ何も答えは出ていませんが

  時間はまだあるのです

  わたしは何かを見つけることができるのかしら
  わたしの生はいったいどこまで行きつくことができるのかしら…」

もういい年になった今になって、こうして転記すると結構(かなり)
こっぱずかしいが…。

それでも、そうして前を見ようとする彼女を見るたびに、僕も彼女に
恥じない人生を全うしたいと思うのだ。


この作品。
作者の中でも結構お気に入りだったようで、上述の「きみらよ…」の
続編の形で、「砂糖ぬきの…」がこのコミックスに収録されている。

コミックスの表題もこちらの方であり、作品を見ても未だ高校生という
殻の中での悩みだった前作に比べ、大学入学後、より大きな社会の中で
様々な人と触れ合い、成長していく主人公を追ったこちらの作品の方を
作者も気に入っていたのではないか?と思われる。


そんな続編でも、主人公の人生のスタンスが大きくぶれることは無い。
しかし、その悩みは属する社会の拡大とともに大きくなり、またその
解決への糸口も、触れ合う人の多様性とともに広がっていく。

それをこそ、人の成長というのであれば、正にこの話は主人公星子の
成長物語だ。

続編では、その標題も直線的なものから、間接的な表現となる。
そのこともまた、主人公(または作者)の成長を示すようである。

全ての物事に直球でしか対応できなかった、まだ青い主人公が、
続編では初めて人を好きになり、失恋し、でもそれを埋めるに余りある
人との出会いや再発見をし…。

そんな人生の機微に触れたときに、苦いコーヒーも美味しく感じるように
なった(あるいはなりたい)自分をそこに見つける。

そうした主人公の心の動きに寄り添うようなこのタイトルが、僕は結構
好きなのである。


主人公のこの後の物語を、少なくとも商業ベースでは作者は紡いでいない。

でも、それはそれで、いい。
読み手の数だけ、星子さんは存在し、それぞれの胸の中で、読み手と同じく
星子さんも傷つき、悩み、そして成長していっているのだろうから。

そうして。
そうしたキャラクターを世に生み出しえたこと。
それこそが、作者として、至福なことではないだろうか。

そう思うとき、作者が10年ほどで創作活動を終え、東京を去り、故郷である
岩手県遠野に戻り、商業誌作家としてのペンを折ってしまったことは残念である。

氏の作品では、本書のようなものはどちらかといえばマイナーで、ほとんどが
「冬の惑星」に代表されるようなSFであり、しかも佳作が多い。
#何せ、作者の宝物は、創刊号以来のSFマガジンというのであるから、
 そのSF好きも筋金入りである。
また、そうした作品群も、是非読んでみたかったのだが…。

だが、それもまた、作者の選んだ人生の道。

人の紡ぐものに思いを馳せ続けることは止めて、しっかりと自分で自分の
人生を紡いでいくこと。

作者がそんなことを意識した訳では無かろうが、この作者については、
そのようにも思えてくる。

でも、出来るなら。また、何時の日か。

あの、繊細かつしっかりとしたタッチの作品に、また出会って見たい。
そう、思っている。

(この稿、了)


(付記)
しかし、この主人公の星子ちゃんにせよ、以前取り上げた清原なつの氏の
花岡ちゃんにせよ、僕の好きになる女性像はどうも特定のベクトルがある
なあ。当然といえば、当然なんだけれどさ(笑)。

あ、決して二次元Onlyという訳では無いので、誤解無きよう…。

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