活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

創造の風景 ライブラリアン(加藤千香子)

2008-02-11 00:28:46 | 活字の海(新聞記事編)
毎日新聞 2月8日(金)夕刊 5面 文化・芸能より 記:出水 奈美

ライブラリアンという言葉は、通常図書館司書や、オーケストラの譜面管理担当と
いう意味で用いられることが多い。
両者を混同しないように、後者を特にオーケストラ・ライブラリアンと称することも
多いようである。

さて、今回のコラムでは、後者に従事する加藤千香子氏(兵庫芸術文化センター
管絃楽団)にスポットを当てている。

音楽にあまり縁の無い生活(オーケストラは聴くもの。コンサートは行くもの。
もしくは歌うもの。満足に演奏できる楽器は無し。今練習中のミュージカルソウに
至っては、ドレミすら覚束ない(笑))を送ってきた身としては、そもそも
楽譜に総譜とパート譜があることすら、「のだめカンタービレ」を観るまで
知らなかった。

楽譜といえば、小中学校での音楽の教科書以上のものに触れる機会が殆ど無かった
ためではあるが、少しの想像力があれば、当然分かる話でもあるので、お恥ずかしい
限りでは有る。

さて、そんな僕のレベルの低い話はともかくとして。

加藤氏が従事しているオーケストラ・ライブラリアンとは、一体どのような職務を
担っているのであろうか?

このコラムでは、その仕事は「挙げればきりがない」としている。
具体的には、

 ・指揮者用の総譜と各奏者の楽譜(パート譜)を全部つき合わせて、
  間違いを抜き出し、修正する。
 ・弦楽器の楽譜全部に、ボーイング(弓の上げ下げ)を書き込んでいく。
 ・楽譜庫の膨大な楽譜と資料を管理し、整理していく。

といったところが紹介されているが、確かにどれを取ってもかなり大変そうで、
一事が万事アバウトなO型の僕には、とても勤まりそうにない。

実際、楽譜にはかなり間違いが混入しているようだ。
元々、作曲家が手書きしたものを出版社が印刷し、譜面として世に出回る訳だが、
手作業での音符の拾い出し過程の中で、相当間違いも混入するらしい。
これは何も昔の楽譜に限った話ではなく、現代においても新たに作曲された曲が
譜面化される際にも、大きな問題となるようである。

大阪音楽大学准教授の高橋徹氏もご自身のブログの中で、自らが編曲した楽譜に
ついて、その市販版に混入している間違いを訂正するページ
を設けている程で
ある。

#この中のコメントがふるっていて、「出版社による編集ミスが多数」有ると
 いうものはともかく、在る楽譜などは「ほとんど意味不明な状態」と称せられる
 くらいに、間違いがあるそうである。


ライブラリアンは、所属するオーケストラの演奏楽曲が決まると、まずその総譜と
パート譜をつき合わせて、その記述内容を確認し、訂正していく。
いわば、楽譜の校正業務である。
本来出版社が行うべき作業であろうが、出版される楽譜数を考えると、とてもそこ
までは手が回らないのが実情なのであろう。
勢い、その帳尻合わせは、演奏するオーケストラに、より具体的に言うと
ライブラリアンに求められることになる。

氏は、駆け出し時代に先輩から「楽譜を完ぺきに仕上げて当たり前の仕事」と
よく言われたそうである。

こうした仕事は、正直辛い。
問題を無くして当たり前で、それによりプラス評価されることは少ない。
もし見逃し等あれば、それは即座にマイナス評価となる。
割に合わないこと、夥しいと感じてしまう。
正に、縁の下の力持ちである。

しかしながら、氏は休暇になると、海外の楽譜出版社に出向き、人脈を築く。
そうして培ったネットワークにより、核シェルターに保管されたプッチーニや
ヴェルディの手書き譜を見せてもらったこともあるそうである。
勿論これは余禄の部分で、本来はライブラリアンの仕事を進めていく上で、
楽譜の確認を行ったり、相談をするためのネットワーク作りが主目的である。

「いい楽譜はいい音楽につながる。指揮者や楽員にありがとうと声をかけられた
 瞬間が一番うれしいですね」

氏は、こう言い切る。
そこには、純粋にオーケストラ・ライブラリアンという自らの仕事に誇りを
持って臨むプロの矜持が有る。

仕事を探すとき、何をしたいかではなく、何が楽で給料を稼げるか、に着目
されるようになって久しい。
特に、特にネット取引の隆盛による株式市場に対するインターフェースの進化は、
デイトレーダーといった新たな投資スタイルを生み、その間口の広さからお金を
儲けることが一義になってしまっている感もある。
#勿論、そうした仕事を否定している訳ではない。何に価値を見出すかは、仕事と
 人の数だけ有るのだから。

そんな中、休暇中に自費で海外の出版社を渡り歩いて仕事の肥やしにするほどに
のめり込める仕事に出会えた氏を、素晴らしいと思う。
もとよりそれは、そうした仕事を希求した氏の努力によるものであるが。

働くことは、素晴らしい。
今の仕事が、大好きだ。

こう胸を張って言える人生でありたいと、このコラムを読んでしみじみと感じた
次第である。



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2 コメント

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Unknown (南八尾電車区)
2008-02-12 22:49:23
 こんばんは。いつもお世話になっております。
 当方のブログにコメントを頂いてばかりではちょっと失礼かな、と思って今回逆に参上いたしました。


 それにしても奥深いものがありますね、オーケストラ組織に於ける「ライブラリアン」って・・・

 私自身、楽団内部で働く「ライブラリアン」といえば、楽団が保有している楽譜類の管理全般や外部からの楽譜購入等といった、いわば楽団内部で図書館司書的な役割を担っているようなイメージを持っていました。

 でも、記事を拝見しているうちに、総譜(スコア)とパート譜との突合・校正作業や、弦楽器の弦の上げ下げ指示の書き込み等も手がけているというのには、正直、驚きましたね《確かにこれらは本来出版社サイドで行われるべきことと私自身も感じますが、例えば弦楽器の弓の上げ下げ指示については指揮者によって違ってくる等、特有の事情というものがあるんでしょうね…》。

 尤も、一般の図書館司書にしても、最近ではただ自分ところの蔵書管理だけにとどまらず、起業家への各種情報提供等、求められる役割の範囲が広まっているとの話も聞きますし、そう考えればオーケストラ組織で働くライブラリアンに求められる役割というものもある程度理解出来そうな感じがしますね《これってちょっと強引な言い方!?》。


 また一つ、オーケストラに関して新たに知ることが出来ました。

 余談ですが、2月24日、東京・両国の国技館で新日本フィル等と共に「第九」合唱に参加してきます…
返信する
何事も極めるのは… (MOLTA)
2008-02-12 23:33:10
大変ということですよね。
このコラムは毎週楽しみに見ているのですが、ほんとに様々な職業があり、それぞれなりの面白さ、困難さがあるのだなと、当たり前ですが感じ入っています。

24日は、頑張ってくださいね。
僕もまた歌いたくなってきました^^;
返信する

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