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目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

楽あれば苦あり 小川洋子 カプセルが無事届きますように

2009-07-24 00:00:20 | 活字の海(新聞記事編)
毎日新聞 2009年7月9日(木) 夕刊6面 夕刊ワイド
著者:小川洋子(作家)
サブタイトル:カプセルが無事届きますように


今回のコラム。
書き出しから、のけぞってしまった。

書かれている内容に、ではない。
書かれている対象に、である。


少々分かりにくいので、もう少し解説を。

氏は、かつてとある大学病院の秘書室に勤務していたことが
有るそうな。
その病院では、各部局間での書類の効率的な運搬に、
エアカプセルによる輸送システムを導入していたと言う。

そのカプセルが届く際の、ゴ~シュポッという音に、確かに
何かが無事に届いたと言うことが実感できていたものだが、
いまや全てが無機質な電子情報によるネットワーク化した
結果、われわれは巨大なブラックボックスの中にいるようだ。

一体、届いているのかどうかも分からない情報の海の中を、
今日も不安にさいなやまされながら、暮らす。
その心もとなさは、計上しがたいものが有る…。

というのが、氏の今回のコラムの趣旨。


で、僕がひっくり返りそうになったのは、氏が確かにモノが
動いているとして安心できていた事例として挙げていた、
エアカプセルである。

寡聞にして僕は、この手のエアカプセルを、某所でしか
見たことがなかった。
まあその、所謂ラブホテル、ファッションホテルと呼ばれる
ところである。

清算ボタンを押すと、輸送音とともに空のカプセルが届けら
れる。
表示されている金額をカプセルに入れて、輸送ボタンを押すと、
再び擦過音とともにカプセルが吸い上げられ、次にはお釣りや
領収書がまた届く…というアレである。

いきなり、そうした場所を連想させる(というよりも、そういう
場所しか連想させない)グッズが夕刊紙面に登場したことに、
少々面食らってしまったのである。

勿論それは僕の無知によるもので、氏の語っているように、
元来は大規模施設等での効率的な書類や小さなものの運搬に
使われていたものを、その利便性に目をつけた誰かがラブホに
導入したというのが正解なのだろうが。


と、まあ、本文の内容とは全く関係の無いことで、出会いがしらの
パンチを貰ってしまった今回のコラムで有る(笑)。


それはともかくとして。
書かれている内容自体は、もはや普遍的と言ってもいいこと。

人間が使う道具の構造が、ある一定のレベルを超えたところから。

否。
そもそも、自然界に存在するものすべてが。

人間にとっては、ブラックボックスなのである。

後は、程度の問題だろう。
氏の例示したエアカプセルのように、その仕組みがまだ理解の
及ぶ範囲なら、人は不安を感じることも無い。

勿論、厳密にはどうやって機密性を維持するかとか、真空状態を
作り出すにはどのようにしているのかとか、様々な?が有るのだが、
まずは、真空を利用して軽量カプセルを運ぶ という点については
まだ分かりやすい。

これがFAXでも、まあ同レベルかと。
送信したい紙をセンサーがドット単位に読み取り、その情報を
相手に送る。相手は、送られた情報どおりに紙の上にインクで
それを再現する。

どうやって読み取るのか?とか、どうやってその情報を電話線を
通じて相手に送るの?とか、細かい点に目を瞑れば、まあ原理は
こちらも分かりやすい。

平たく言えば、郵便なら仕組みも分かるが、e-Mailになると
普通の人ではかなり覚束無くなってくるといったところだろうか。

#勿論、世の中にはそうした原理を朝顔を洗うが如く、自明の理と
 して理解されている方も大勢いらっしゃるだろうが。


様々なブラックボックスに囲まれて生きることを余儀なくされる
現代人。

そこに疑問を抱くか、あるいはスルー出来るかは、生き易さという
指標上、大きな分水嶺となるだろう。

無論それは、どちらが良い悪いといった類の話ではない。

ただ…。
そこにあるものを、仕組みも分からずに当たり前のように受け入れる
ことの怖さは、認知していたい。

なぜなら、理解できないということは、一寸先はどうなるか分からない
ということにも繋がりかねないからだ。

まあ。
それが嵩じて心配性になっても仕方が無いのだけどね。


言いたかったことは、三つ。

常に、物事に対して不思議に思える感性を持ち続けていたいこと。

分からないものに対して、畏敬の念を持ちつつも、怖じずに触れて
みる勇気を持ち続けていたいこと。


そして、もうひとつは。

そこに在るものに対して。
常に、感謝の心を。
いつまでも、それが有るとは限らないのだから。

(この稿、了)


(付記)
氏がコラムの中で書いていた、情報迷路の中で迷子になるという
部分を呼んで、強烈に喚起されてきたイメージが。
懐かしのNHK少年ドラマシリーズ。
「タイムトラベラー」の一シーン。
頭にターバンを巻いたトルコ人と思われる人たちが、
乗っていた船が時空の裂け目に迷い込んだとして、
永遠にさ迷っているシーン。
何となく、エルトゥールル号遭難のエピソードを彷彿と
させるが、こちらは実際に難破しているからなあ。
でも、マリーセレスト号や、さ迷えるオランダ人という
イメージではないんだよなあ。


(付記2)
人智を越えたものに対する拒否感としてピンと来るのは、
平井和正のウルフガイ。
重火器や飛行機は大嫌い。
そのくせ、指弾やブーメランといった古来からの武器や
技には滅法熟達している。
でも、不思議なのは、愛車ブルSSSの運転が好きなこと。
矛盾していないか?(笑)
「人狼地獄篇」で、ジープを乗り捨てて走り出すシーンは
OKだけどさ。



ということで、まずはここから理解してみよう。という方へ。
あなたはコンピュータを理解していますか?
梅津 信幸
技術評論社

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ハヤカワの方でないと、やはりしっくりこないが出てこないなあ。
シリーズの中で、これと「人狼戦線」が一番好き。
特に、「人狼戦線」のラスト。ライターを握りつぶすシーン。
僕のウルフガイは、あのシーンに尽きる。
人狼地獄―アダルト・ウルフガイシリーズ〈3〉 (ハルキ文庫)
平井 和正
角川春樹事務所

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2 コメント

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Unknown (シャドー81)
2009-07-24 07:20:06
エアカプセル(エアシューター)は、「そういう場所しか連想させない」ものではないよ。

身近なところでは、某企業(^_^;)の事務所での書類の送付、病院でのカルテの送付なんかに使われていましたよ。

結構いろいろなところで使われていますよ。
返信する
はっはっは (MOLTA)
2009-07-25 11:10:26
そうだと思います。

ということで、又僕の見識の狭さがばれてしまいました(笑)。
返信する

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