活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

ゲームと犯罪と子どもたち

2009-07-09 00:00:50 | 活字の海(書評の書評編)
著者:ローレンス・カトナー、シェリル・K・オルソン
インプレスジャパン・3675円
訳者:鈴木南日子 評者:小西聖子
本書サブタイトル:ハーバード大学医学部の大規模調査より
書評サブタイトル:より深刻なのは「現実の」暴力

※ この書評の原文は、こちらで読めます


先入観を排して、物事の本質を見極める。

基本であるが、それ故に実践するのは難しい。

何せ、先入観というだけあって、その人のものの見方の根幹に関与
しているような思考回路の基本設計から出てくる観念であることも
多く、それを排除するということは並大抵の努力では出来ないと
思えるためである。

勿論、世間は広い。
自分は常にフラットな視線で物事を見ることができると言い切る
御仁もいるが、えてしてそのフラットとは、あくまで当人に
とってのフラットであるといった落ちであるパターンも多い。
#誰とは言わないが(笑)。


本書の主題である、ゲームと犯罪と子ども。
この相関関係についても、正に先入観に糊塗された感がある。

通常、ゲームというものに対する印象は、こういったところでは
ないだろうか。

 ・リセット可能。
  気に食わない展開となれば、気軽にリセット。
  それで、全ては0クリアが可能。
  そこには、”取り返しのつかない”という概念は存在しない。
  現実は、それこそ取り返しのつかないことの積み重ねだと言う
  のに。

 ・二元論的。
  ゲームの種類にもよるが、ラスボスを倒すと言う展開が王道で
  ある以上、殆どの場合において悪としての敵が存在する。
  そうした割り切りを、そのまま現実に転化すれば、その中の人、
  その全てが自分にとって敵か味方かという見方しか出来なくなる。

 ・破壊衝動を扇情
  特にシューティングゲームにおいて、怪物であれ、人であれ、
  敵が存在する。その敵に対して、手にした武器で倒していく。
  血飛沫を上げて倒れる敵の姿が、倦むことなく画面に登場する。
  それが、教育にいい訳がない。
  

ざっと挙げただけでも、これくらいは出てくる。
丹念に掘り下げれば、まだまだ有るだろう。

それが故、ゲームは目の敵にされ、ことあるごとに排斥の対象となる。


ところが。
そうした考えは、実は正しいものの見方ではない、と本書は喝破する。

「研究開始後まもなく、以下の二つの事実が判明した。

 誰もが確固たる意見を持っていること、
 そして、その根拠となるデータを示せる人はほとんどいないという
 ことだ。」


実際、青少年の犯罪発生率は、ゲーム機が世に出た時点(諸説有る
だろうが、ここでは任天堂のファミリーコンピュータ(ファミコン)が
発売された1983年とする)以降、増加どころか減少傾向にある
という統計も有る
のである。


と、なれば。
何が一体、もっとも子供たちにとって害悪であり、どうすることが
必要なのだろうか?

その問いに対する答えも、本書の中できちんと示される。

「家庭内で子どもが本物の暴力にさらされる機会を減らす。
 もっとも重要で唯一効果のあることが、これなのです。」

確かに、家庭内暴力という問題の凄惨さ、そして救いの無さは、
このコラムでも「凍りついた瞳」シリーズの書評等を通じて
何度か言及
してきた。

こうした問題は、日米を問わずリアルでアクティブだ、という
ことなのだ。

こうして本書の概要を紹介した後に、評者は本書のスタイルを
エビデンス・ベイスト・ポリシー(実証に基づいた政策)として
評価する。

確かに。
人間心理という因数分解が非常に困難なものを捉える手法としては、
演繹法よりも帰納法の方が適しているのかもしれない。


最後に評者は、本書のような問題分析のアプローチを「地味で
ドライ」と賞賛して書評を締めくくる。

褒め言葉には一見見えないが、見た目に惑わされず、きちんと
事物に相対していくという視線で言えば、これは立派な褒め言葉
である。


書評はここで完。と打てばよいが、現実はそうもいかない。

正に、いまそこにある危機が、そこここで繰り広げられている。
何が自分に出来るのか。
その問いに対する答えは持っていないけれども。
少なくとも、常に心のどこかで自分に問いかけは続けたい。

この問題に対して。
お前は、何が出来るのか? と。

(この稿、了)


ゲームと犯罪と子どもたち ――ハーバード大学医学部の大規模調査より
ハーバード大学医学部 ローレンス・カトナー博士,ハーバード大学医学部 シェリル・K・オルソン博士
インプレスジャパン

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思わず、うーん。と唸らされたタイトル。秀逸である。
こちらに、本書の書評有り

ダメなものは、タメになる テレビやゲームは頭を良くしている
スティーブン・ジョンソン
翔泳社

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何度も取り上げるが、やはり本書は色んな人に読んで欲しい。
凍りついた瞳(め)―子ども虐待ドキュメンタリー
ささや ななえ,椎名 篤子
集英社

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