北方領土に最も近い町・根室。この周辺を基地として操業する漁船の中に「レポ船」と呼ばれる船があった。さらには「特攻船」と呼ばれる船も現れた。いずれも、旧ソ連に日本の物資や情報を提供する見返りに、ソ連領海での操業を黙認して貰っていた。共産主義へのシンパシーというイデオロギーからではなく、漁民として生きるためのの止むを得ない、或いはよりよい漁獲(=生活)を目指す積極的な選択だった。しかし旧ソ連の崩壊や、情報通信の自由化、大衆化と共にそれらの船は姿を消したという。そうか、自分の知識は存在までで、消失までは認識していなかったわ…
本書は、あるレポ船をめぐる物語。1980年の刊行だが、物語の設定年代はもう少し前だ。ドキュメントではないにしろ、どこかしら似たような話は幾らもあったろう。著者が根室に通い、漁師や地元の人々と親しくなるうちに耳にした色々な話を再構築したものなのだろう。面白く読んだが、伏線の回収でちょっと解らない部分があった。これがデビュー作だったのだから恐れ入る(そして日本ノンフィクション賞新人賞)。あれ、ノンフィクション賞ということは実話?
いま根室に行っても、町は静かで衰退著しい様子、本年11月末時点で65歳以上の占める高齢化率は男女平均で34.8%。道東エリアの人は根室でなく釧路を目指すだろう。今や中標津の方が活気があるかもしれないと言ったら言い過ぎか。COVID-19騒ぎが収まったとして、ロシア人船員の来訪は大勢になるのだろうか。気が付けば、近年行くことはあっても鉄道ではない。昔は、1両の郵便車が列車を変え、東京から根室まで行っていたのだ。レポ船も郵便車も、隔世の感がある。
2020年12月18日 自宅にて読了